地域の笑顔をつくる仕事を──株式会社甲斐組・今村佳広が語る、建設業の誇りと未来
株式会社甲斐組 代表取締役 今村佳広氏
舗装工事を中心に建設事業を展開しながら、不動産事業や地域活動にも取り組む株式会社甲斐組。代表の今村佳広氏は、自身の原体験やラグビーとの関わりを通して、「地域の笑顔をつくる」という経営理念を掲げています。本記事では、事業内容、経営理念の背景、組織づくりへの思い、そしてこれからの展望について伺いました。
舗装工事を軸に、多角的に広がる事業展開
――まず、御社の事業内容について教えてください。
創業は1969年、父である今村善美が川崎で舗装専門業として立ち上げたことが始まりです。私は幼い頃から、地域のインフラを支える父の背中を見て育ちました。
2013年に二代目として代表に就任した際、まず考えたのは「この会社を次の世代にどうつなぐか」ということでした。父が築いた舗装工事の基盤は大きな財産ですが、それだけにとどまらず、時代の変化に対応できる企業でありたいと考えました。
そこで、土木・建築工事、不動産、外商、学生寮運営へと事業を多角化し、地域に必要とされ続ける体制づくりを進めました。その結果、就任から12年間で社員数は30名から90名へと増え、グループ売上も30億円を超えるまでに成長しています。
また、「神奈川県一の社員還元企業」を掲げ、会社の成長を社員に還元することを明確に打ち出しました。働きがいのある環境づくりに力を入れながら、湘南・県西エリアのリーディングカンパニーとして、公共インフラから民間建築、住環境サービスまで幅広く手がけ、地域の安心・安全を支える存在であり続けたいと考えています。
――地域活動にも積極的に関わっていらっしゃるそうですね。
私は高校時代にラグビーと出会い、その後もずっと関わってきました。10年前にはラグビー協会の立ち上げに関わり、初代会長は別の方でしたが、その後、私が会長を務めた時期もありました。
ラグビー協会の柱は、ラグビーの普及、エリア内チームの支援などです。子どもたちや保護者、大学の学生も交えてビーチの清掃活動なども行ってきました。競技そのものだけでなく、地域の人たちが一緒に動く機会をつくることも大切にしてきました。
最近は建設業協会の活動にもシフトしていますが、どの立場であっても「地域と一緒に動く」という姿勢は変わりません。会社の事業も地域の中で成り立っていますので、その地域に対して何ができるかを常に考えながら取り組んでいます。事業と地域活動は別々のものではなく、どちらも地域の基盤を支えるという意味でつながっていると感じています。
「地域の笑顔をつくる」──経営理念に込めた想い
――御社の経営理念について教えてください。
私たちの会社の経営理念は、「地域の笑顔を創造する企業であり続ける」という考え方です。
公共工事は、利用者の顔が直接見える仕事ではありません。道路や水道といったインフラは、誰か特定の一人のためではなく、地域全体のためのものです。だからこそ、「誰のためにやっているのか」が見えにくい。
しかし、道路を使う人、水を使う人、トイレを流す人、すべての生活の基盤に私たちの仕事が関わっています。生活の向上は、最終的には笑顔につながる。そう考えています。
飲食業であれば目の前のお客様の喜ぶ顔が見えますが、私たちの仕事はその一段手前です。完成した道路の上を車が走り、何事もなく一日が終わる。その“当たり前”を支えることが、私たちの役割です。だからこそ、「これは地域の笑顔をつくっている仕事なんだ」と想像力を持つことが大切だと思っています。
目に見えにくい仕事だからこそ、私自身が意味づけをしなければならないと感じています。現場で汗をかいている社員一人ひとりにも、「自分たちは地域の基盤を支えている」という誇りを持ってほしい。その思いが、この理念の根底にあります。自分たちの仕事が、誰かの安心や安全につながっていると実感できたとき、仕事の意味は大きく変わると思っています。
――その理念の背景には、ご自身の原体験もあるのでしょうか。
あります。私は建設会社の息子として育ちました。小さい頃、「どかた」という言葉で見下されるような経験もしました。友達の家で遊べなかったこともありました。
悔しい思いもしましたし、涙も流しました。でも同時に、父が一生懸命働いている姿に誇りも持っていました。現場から帰ってくる父の姿を見て、この仕事は決して恥ずかしいものではないと感じていました。だからこそ、職業差別のようなことをする大人にはなりたくないと強く思いました。
自分の親が誇りを持って働いているのに、それを軽んじられることへの違和感が、私の中でずっと消えませんでした。だからこそ、どんな仕事であっても胸を張れる社会であってほしいと思っています。建設業もまた、社会を支える重要な仕事だということを伝えていきたいのです。
国籍や肌の色、職業で人を判断するのではなく、人間としてどうか。それが私の価値観の原点ですし、会社経営の土台にもなっています。その思いが、「地域の笑顔を創造する」という理念につながっています。
「若い人の面倒を見る」──社長としての覚悟
――組織運営で大切にしていることは何ですか。
父から会社を引き継いだときに言われたのは、「社長になるということは、若い人の面倒まで見るということだ」という言葉でした。
それは単に仕事を教えるということではありません。生活も含めて、ギリギリまで面倒を見る覚悟が必要だという意味です。食べることも含めて、面倒を見る。それが社長の責任だと思っています。
会社というのは、仕事をする場所であると同時に、人が人生の時間を預ける場所でもあります。だからこそ、ただ労働力として扱うのではなく、一人の人間として向き合うことが大事だと考えています。若い人であればあるほど、不安や迷いもあると思います。そういうときに「会社がある」「社長がいる」と思ってもらえる存在でありたい。その覚悟を持って経営に向き合っています。
時には厳しいことを言う場面もあります。甘やかすことが面倒を見ることではありません。本気で向き合うからこそ、叱ることもありますし、突き放すように見える判断をすることもあります。ただ、その根底には「この人に成長してほしい」という思いがあります。責任を持つということは、最後まで逃げないということだと思っています。
――採用で重視していることはありますか。
学歴は問いません。大学を出ていなくても、高校や中学でも関係ありません。能力ももちろん大事ですが、それ以上に大切なのは考え方です。
どんなに能力があっても、心がネガティブであれば、その力はマイナスに働いてしまう。逆に、考え方が前向きであれば、力はプラスに働きます。能力はあとから伸ばすことができますが、物事に向き合う姿勢は簡単には変わりません。
だから私は「前向きな人」と一緒に働きたい。見えないところで何かをするのではなく、正面からやるべきことに向き合える人。失敗しても逃げずに向き合い、そこから学ぼうとする人。自分の責任を他人のせいにしない人。そういう人と会社をつくっていきたいと思っています。会社は人で成り立っていますから、その土台となるのはやはり姿勢だと考えています。そして、その姿勢が積み重なった先に、強い組織ができるのだと思っています。
職人の時代は再び来る──建設業の未来と使命
――これからの展望について教えてください。
今、職人の数は減少しています。全国で大型プロジェクトがあっても、職人が足りずに進まないという話もあります。実際に、現場で人手不足を感じる場面は増えています。
一方で、AIに代替されにくい職業もあります。それが技能職です。体を使い、現場で判断し、経験を積み重ねていく仕事は、簡単に機械に置き換わるものではありません。むしろこれからは、人の手と経験がより価値を持つ時代になるのではないかと感じています。
かつては高収入ではあるけど長時間労働で休みも少ない、職業だった時代もありました。これから再び、社会的地位が見直される時代が来るのではないかと思っています。そのためにも、若い世代にこの仕事の可能性を伝え、育成を続けていくことが必要です。自社だけでなく、業界全体として雇用と育成を継続していかなければならないと感じています。
私たち一社だけで解決できる問題ではありませんが、少なくとも自分たちの足元からできることを続ける。それが将来につながると信じています。建設業は生活の基盤を支える仕事です。その価値を正しく伝え、誇りを持てる業界にしていきたいと考えています。
――最後に、経営以外で情熱を注いでいることはありますか。
どんな形でもいいから、誰かの役に立ちたい。それが私の根本です。
自分の人生経験は財産です。その経験を、これからの人たちに伝えていける存在になりたい。うまくいったことだけでなく、悔しかったことや失敗も含めて、伝える意味があると思っています。
命が尽きるまで、学び続け、反省し続ける。その姿勢を持ち続けたいと思っています。毎日が学びであり、毎日が反省です。自分が完璧だと思った瞬間に成長は止まると感じています。だからこそ、常に自分を見つめ直しながら進んでいきたいのです。
建設業は厳しい時代だと言われます。でも、これからの人たちにこそ、この仕事の魅力を伝えたい。地域の笑顔をつくる仕事だということを、伝え続けたいと思っています。そしてその積み重ねが、社会に少しでも良い影響を与えられたらと願っています。