「サステナブル」の先へ。地球を再生する「リジェネラティブ・イノベーション」が、人類の未来を切り拓く
一般社団法人PDIEグループ 代表取締役 クリスチャン・シュミッツ氏
気候変動、生物多様性の損失、そして環境破壊。人類がいま直面している危機は、もはや「現状維持(サステナビリティ)」だけでは解決できない段階に達しています。この地球規模の課題に対し、世界中のイノベーター、投資家、そして企業を繋ぎ、「Purpose Driven Innovation(目的主導のイノベーション)」を加速させているのが、一般社団法人PDIEグループのクリスチャン・シュミッツ氏です。
ドイツで育ち、日本の大手企業やスタートアップ、そしてスイスの財団など、多角的なキャリアを歩んできたシュミッツ氏。彼はなぜ、あえて厳しい「環境問題」を自らのミッションに据えたのか。英国プリンス・ウィリアムが創設した世界最高峰の環境賞「アースショット・プライズ」の公式パートナーとして、世界トップクラスのノミネート実績を誇る彼が見据える、日本、そして世界の未来図を伺いました。
目次
パーパスが世界を変える。PDIEグループが構築する「地球再生」のエコシステム
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
私たちが掲げているのは「Purpose Driven Innovation Ecosystem(PDIE)」、つまり「目的主導のイノベーション・エコシステム」の構築です。2019年に設立し、主にスタートアップ、企業、投資家を繋ぐことで、気候変動や生物多様性の損失といった環境課題を解決するためのソリューションを生み出しています。
具体的には、大きく分けて4つの軸で活動しています。
1つ目は「グローバルなネットワークとサミットの運営」です。ダボス会議(世界経済フォーラム)やニューヨークのクライメート・ウィークなど、国際的な舞台でリジェネラティブ(再生型)なイノベーションを提唱しています。
2つ目は「スタートアップの育成と支援」。世界最大級のグリーンビジネス・アイディアコンペティションである『クライメート・ローンチパッド』の日本開催や、英国の『アースショット・プライズ(The Earthshot Prize)』のオフィシャル・ノミネーターとしての活動です。私たちは世界で最も多くのファイナリストや優勝者を輩出している団体の一つです。
3つ目は「企業向けの実装プログラム」。『Climate Lab X(クライメート・ラボX)』を通じて、企業内のイノベーターが自社の中で脱炭素や自然再興を実現するための具体的なソリューションを開発する支援をしています。
4つ目は「投資家向けのアドバイザリー」。富裕層のファミリーオフィスやベンチャーキャピタルに対し、社会的インパクトの大きいイノベーションへの投資を促しています。
私たちの企業が社会の中で「何のために存在するのか」は、単に「環境を守る」ことではありません。これまでの「地球から奪い、ゴミを出す」という抽出型の文明から、自然にプラスの影響を返す「リジェネラティブ(再生型)」な文明へと、社会構造そのものを変革することです。
物理学者の父、農薬会社での経験。正反対の場所から見えた「システムの変革」
――シュミッツさんが環境問題に対してこれほど強いミッションを持つようになった、背景やきっかけは何だったのでしょうか。
きっかけは、私の生い立ちにあります。ドイツで物理学者の息子として育ち、家庭内では常に環境課題や科学的な根拠に基づいた議論が行われていました。大学では東アジア研究と経済学を学びましたが、卒業後に就職したのは、ある意味で環境活動家とは正反対の場所、ドイツの大手化学・製薬会社であるバイエル社でした。
そこで10年間、農薬の専門家として働きました。日本にも転勤になり、最先端の農業現場を見てきました。「農薬は環境に悪い」と単純に批判するのは簡単です。しかし、実際にそのシステムの内側にいたからこそ、どうすれば企業が、そして農業という仕組みそのものが、環境に優しい形へと変革できるのか、その「両サイド」の視点を持つことができました。
その後、高級家具ブランドの日本代表や、富裕層向けのメンバーシップサイトの立ち上げなど、様々なビジネスを経験しました。しかし、2016年に未来学者や国際的なイノベーターたちと出会ったことで、自分のこれまでの知見やネットワークを、もっと大きな「人類への貢献」に使うべきだと確信したのです。
2017年から19年までスイスの財団でスタートアップ・エコシステムの構築に携わり、ベトナムやアフリカなどの途上国でアントレプレナーシップが社会を救う姿を見てきました。そして、最も不可欠な基礎である「バイオスフィア(生物圏)」を守るために、2019年、自らPDIグループを立ち上げたのです。
言葉の壁ではなく、価値観の壁。日本企業に「グローバルなインパクト」を届ける難しさと喜び
――活動の中で、特に日本において直面している課題や難しさはありますか。
日本企業は非常に真面目で、現在では「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」にコミットする企業も増えています。しかし、依然として「短期的な利益」と「長期的な環境貢献」の間の壁は厚いと感じます。
最先端のグローバルな知見やネットワークを日本に持ち込んでも、信頼関係を重視する日本社会では、外部からの提案がすぐに受け入れられないこともあります。成果が短期的には見えづらい環境投資において、いかに「このソリューションが、将来の企業のレジリエンス(強靭性)に直結するか」を説得するのは一番難しい部分です。
また、私たちのチームは日本人も多いですが、私が外国人創業者であるという点で、国際的な知名度と日本国内での認知度のギャップを感じることもあります。日本独自の精神性を、最新のテクノロジーやグローバルな投資の仕組みと繋げることができれば、日本は世界に対して大きなリーダーシップを発揮できるはずです。私たちはその「架け橋」になりたいと考えています。
「グリア(GRIA)」の発足と、アースショット・プライズへの挑戦。10年後の地球のために
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
いま最も注力しているのは、新たに発足させたアライアンス「グリア(GRIA:Global Regenerative Innovation Alliance)」の拡大です。 「サステナビリティ(持続可能性)」のさらに先、積極的に「再生」させるイノベーションを促進する影響力のあるグループを作りたいです。具体的には、政策提言を行うグループや、資金調達を支援するファイナンス・グループ、そしてアクセラレーション・プログラムを構築していきます。日本でも、このアライアンスに多くの企業に参加してほしいと考えています。
エコシステムの構築やPDIEグループの日本での認知度を上げるためにメディアへの露出なども今後の課題としてあります。
また、アースショット・プライズとの連携もさらに強化します。日本には、世界を救うような素晴らしい技術やアイディアが眠っています。それらを発掘し、プリンス・ウィリアムや世界中のビジョナリーたち(ジェフ・ベゾス氏やビル・ゲイツ氏など)が注目する舞台へとノミネートしていく。日本のイノベーターを世界へ羽ばたかせることが、私たちの大きなミッションです。
さらに、富裕層やファミリーオフィス向けの「インパクト投資」のカンファレンスも日本で開催したいと考えています。尖ったビジョンを持つ国際的な投資家と、日本のリーダーたちを合わせることで、新しい資本の流れを作っていきたいですね。
山登り、瞑想、即興演奏。クリスチャン・シュミッツの「クレイジー」なエネルギーの源泉
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
私は自分のことを「クレイジー・シュミッツ」と呼んでいます。スティーブ・ジョブズの「クレイジーな者たちが世界を変える」という言葉が好きだからです。 そのエネルギーを維持するために、何よりも「ウェルビーイング(健康)」を大切にしているので毎朝のランニングは欠かしませんし、冬はスノーボードで深い雪の中を滑るのが大好きです。日本には山が多いので山登りもします。自然が大好きなのでハイキングにもよく行きますね。
また、15年ほど前からダライ・ラマの医師に師事して瞑想を学んでいます。定期的に日本でも開催されているリトリート(瞑想合宿)に参加し、自分の中を整えることでもっと集中できるようになりました。
読書や音楽も欠かせません。特にジャズやクラシックが好きで、ピアノで即興演奏をすることもあります。以前のイベントでは、バレーダンサーや能楽師の方と即興でコラボレーションしたこともありました。 「生物多様性」だけでなく、あらゆる「多様性」が好きなんです。面白い人たちを集め、そこから楽譜のない即興演奏のように、予期せぬ可能性が生まれてくる瞬間。それが、私の仕事のパッションそのものですね。
――読者の方へメッセージをお願いします。
この記事を読んで、私たちのエコシステムに少しでも興味を持っていただいた企業やスタートアップ、投資家の方がいれば、ぜひ声をかけてください。
特に「環境課題を解決したいが、何から手をつければいいか分からない」という企業の方は、私たちの『クライメート・ラボX』を覗いてみてください。また、画期的なイノベーションを持つスタートアップの方は、アースショット・プライズへの挑戦を私たちが全力でサポートします。