特別ではなく、日常を支える介護を育てる──北海道介護福祉道場あかい花が目指す人材教育のかたち

北海道介護福祉道場あかい花 代表 菊地 雅洋氏

北海道介護福祉道場あかい花は、若手介護人材の育成を目的として活動する教育機関です。会社組織ではなく、ボランティアとして続けられてきたこの取り組みは、どのような思いから生まれ、何を目指しているのでしょうか。本記事では代表の菊地雅洋氏に、活動の背景や介護業界への問題意識、そしてこれからについて伺いました。

収益を目的としない教育機関としての現在地

――北海道介護福祉道場あかい花とは、どのような団体なのでしょうか。

北海道介護福祉道場あかい花は、会社組織ではありません。12年前に、北海道の若手介護人材を育成したいという思いから、僕自身が立ち上げた教育機関です。もともとボランティアとして始めた活動で、収益を目的とした事業ではありません。20代の若手介護人材を対象に、2年間かけて5名だけを育てるという形で、これまで6期・12年にわたって続けてきました。人数を限定しているのは、効率を求めるためではなく、一人ひとりと丁寧に向き合い、時間をかけて育てたいと考えているからです。

――なぜ、あえて少人数・長期間での育成にこだわっているのでしょうか。

介護の現場では、人手不足が深刻だと言われています。その結果、応募があれば誰でも採用するという状況が生まれ、どうしても現場の質の低下が起きてしまう。教育を受けないまま現場に出され、育つ前に辞めてしまう人も少なくありません。さらに大きな問題は、育てる側の人材が十分に育っていないことです。教え方が分からず、原理原則を持たないまま指導にあたっているケースも多い。だからこそ、まずは「教えられる人」「育てられる人」を育てる必要があると考えました。そのために、数を追わず、時間をかけて育てる形を選んでいます。

――収益面はどのように成り立っているのでしょうか。

道場そのものは、完全に収益のない活動です。そこで別に立ち上げたのが、あかい花介護オフィスという社団法人です。こちらは、僕自身がフリーランスとして行っているコンサルティングや講習業が中心で、介護事業者向けのコンサルティングや講演活動によって得た収益を、道場の活動に還元しています。教育そのものを事業化するのではなく、あくまで育成の場として守り続ける。それが、北海道介護福祉道場あかい花の変わらないスタンスです。

この道に進んだ理由と、「あかい花」に込めた意味

――この仕事、この分野に進まれたきっかけを教えてください。

僕は大学で社会福祉を学びました。北海道の札幌にある北星学園大学の、文学部社会福祉学科です。大学で学んだ社会福祉の知識を生かすなら、この道しかないだろうということで、卒業後は社会福祉法人に就職しました。正直に言えば、最初から強い使命感や高い志があったわけではありません。行ける大学、進める道の中で選んだ結果が社会福祉だった、という側面もあります。ただ、大学で学んだことを現場で生かせる仕事に就いたという意味では、今振り返ると自然な流れだったと思っています。

――現場では、どのような経験を積まれてきたのでしょうか。

社会福祉法人では、相談員としての実務をはじめ、さまざまな役割を経験しました。法人の母体が医療法人だったこともあり、医療分野のソーシャルワーカーの仕事にも関わり、医療法人の理事としてアドバイザー的な立場を務めたこともあります。精神科医療の分野にも関わってきました。介護だけでなく、医療、相談業務、さらには経営やマネジメントまで、現場の中で必要に迫られながら身につけてきた感覚です。いわゆる「叩き上げ」だと思いますが、その分、実務と理論の両方を知る立場になれたと感じています。

――「あかい花」という名前には、どのような思いが込められているのでしょうか。

「あかい花」という名前は、ある漫画の一節がきっかけです。物語の中で、「あかい花に慰められる人と、人を慰めるあかい花と、どちらになりたいのか」という問いかけがありました。その言葉がとても印象に残っていて、人の心を慰める存在でありたいという思いと重なったんです。そのフレーズを本の中で使わせてもらえないかとお願いし、最初に書いた本でも紹介しました。介護という仕事は、人の心や暮らしに深く関わる仕事です。その象徴として、「あかい花」という名前を使っています。

組織を持たないという選択と、人との向き合い方

――道場やあかい花介護オフィスの運営体制について教えてください。

僕は基本的に一人でやっています。あかい花介護オフィスも、いわゆるフリーランスの形で、社員はいません。誰かに手伝ってもらっているわけでもなく、企画から講演、コンサルティングまで、すべて自分一人で行っています。だからこそ、関わる相手は、道場の受講生や、講演やコンサルティングを依頼してくださる事業所の方々と、僕が直接向き合う形になります。組織を大きくすることよりも、一つひとつの関係性を大切にしたいという思いの方が強いですね。

――人とのコミュニケーションで、大切にしていることはありますか。

特別に工夫していることはありません。お客様も、最初はメールで連絡をもらい、そのままZoomで打ち合わせをする、という流れがほとんどです。こちらから何か型にはめるというよりも、相手に合わせて話をする、という感覚です。自分のやり方を押し付けるのではなく、その人や事業所が置かれている状況を聞きながら、一緒に考える。結果を急がず、対話を重ねていくことを大切にしています。

――少人数制の道場を長く続けている理由は何でしょうか。

もともと大きな目標があるわけではありません。2年間で5人だけ育てる道場を、12年間続けてきました。今も次の期を待ってくれている人がいて、「あと1年待ちます」と言ってくれる人もいます。だからこそ、できるだけ長く、穴を開けずに続けたいという思いがあります。健康を保ちながら、少しでも長く続けること。それが今の一番の願いです。卒業した人たちは、それぞれの職場でリーダーとして活躍しています。人数は多くなくても、その先でまた人を育ててくれる。その連なりが、結果として介護の現場全体を少しずつ良くしていくのだと思っています。

変化の中で問われる、介護のこれから

――介護業界は、今後どのように変化していくと感じていますか。

今、とにかく人材不足が続いているので、介護業界はこれからもっとグローバルになっていかざるを得ないと思っています。実際、外国人材が現場を支える存在になってきていますし、それに伴って価値観も大きく変わっていくでしょう。例えば、20年前であれば、老人ホームで亡くなる方に対して「死を告げる」ことは、まず考えられませんでした。でも、外国人の方から見ると、「なぜ教えてあげないのか」という疑問を持つ人が少なくありません。そうした価値観が現場に入ってくることで、日本の文化やこれまでの考え方と、どう融合していくのか。そこは避けて通れない変化であり、これから現場ごとに模索していく必要がある部分だと感じています。

――看取り介護については、今後さらに重要になっていくのでしょうか。

間違いなく重要になります。日本はこれから、亡くなる方の数が増えていく状況にありますが、看取り介護やターミナルケアを十分に受けられないまま亡くなっていく人も少なくありません。そうした状況を少しでも減らすためには、看取り介護の実践論を、もっと広めていく必要があると感じています。理想論を語るだけではなく、現場で実際に「何をするのか」「どう関わるのか」を具体的に伝えていく。その積み重ねが大切だと思っています。

――今後、特に注目している課題は何でしょうか。

人海戦術には、もう限界が来ています。だからこそ、テクノロジーをどう介護実務に取り入れていくかが、非常に重要な課題だと思っています。記録の分野ではかなり進んできていますが、介護業務そのものを軽減できる技術は、まだ十分とは言えません。展示会などを回りながら、現場で使えるものがないかを探しています。AIも含めて、使えるものは積極的に使う。その姿勢を持ち続けながら、少しでも現場が楽になる形を模索していきたいと考えています。

日常を整える時間が、仕事を支えている

――お忙しい日々の中で、リフレッシュはどのようにされていますか。

北海道日本ハムファイターズのファンでもありますけれど、今一番のリフレッシュは運動ですね。自分でも「運動オタクかな」と思うくらいで、実は取材の少し前までトレーニングをしていました。外で走るというより、室内での有酸素運動です。YouTubeの運動系チャンネルを見ながら体を動かしています。汗をかくと頭もすっきりしますし、気分転換としては一番合っていると感じています。

――運動以外で、気分転換になることはありますか。

本を読むことですね。仕事柄、介護や福祉の本を読むことも多いですが、プライベートでは全く違うジャンルを選びます。サスペンスやミステリーなど、純粋に物語として楽しめるものが好きです。仕事から一度頭を切り離す時間を持つことで、また冷静に現場や課題と向き合えるようになる気がしています。

――忙しい中でも、そうした時間を大切にされている理由は何でしょうか。

長く続けるためには、無理をしすぎないことが大事だと思っています。道場もコンサルティングも、一人で続けているからこそ、体調や気持ちのバランスはとても重要です。特別なことをするよりも、日常の中で体を動かしたり、本を読んだりする時間をきちんと持つこと。その積み重ねが、自分自身を整え、結果的に仕事の質を保つことにつながっているのだと思います。

これからも、無理なく続けられる日常を大切にしながら、介護の現場や人と誠実に向き合い、一つひとつの関わりを積み重ねていきたいと考えています。

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