再生の当事者として生きる――金沢サムライズ経営の現在地
株式会社金沢サムライズ 代表取締役 田中理人氏
バスケットボールチームの運営を行う金沢サムライズ。かつては資金繰りに行き詰まり、消滅すら現実味を帯びていた時期がありました。そんな状況から「B.LEAGUE ONE」への参戦決定へとつなげ、いまは地元経済界からも前向きな追い風が生まれています。
本記事では代表の田中理人氏にお話を伺い、地域課題にも目を向けるクラブ経営のあり方などお話を伺いました。
地域に火を灯すクラブ経営
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
弊社は、プロバスケットボールチーム「金沢武士団(KANAZAWA SAMURAIZ)」の運営を行う会社です。主に試合を開催して、入場料やグッズの収益をつくりつつ、試合やチームを活用した企業様の広告宣伝を中心にビジネスを展開しています。
――他チームとの差別化や強みはどのような点にありますか。
正直、他のバスケットボールチームに対する強みはあまり意識していません。と言いますのも、他のバスケットボールチームは基本的に競合ではないんですよね。エリアが違うので、金沢サムライズが例えば千葉ジェッツのようなチームに対して強みを示す必要があるかというと、そうではないと思っています。
むしろ競合は「人の余暇時間の奪い合い」だと思っています。月並みですけど、イオンの様な地域のショッピングモールやNetflixのような家での娯楽の存在も含めて、余暇時間の取り合いです。だからこそ、私たちは「家族の余暇時間になること」を磨いています。
――仕事をするうえで、実現していきたい目標や夢はありますか。
経営理念そのものですね。最上位概念として、「全ての人と豊かな時間を共有し、生きる喜びを創出する」というビジョンを掲げています。
「豊かな時間」とは、ただ幸せな時間というだけではなく、後々振り返ったときに「あの時間、本当に良かったよね」と思ってもらえるような時間です。我々サムライズとお客様のタッチポイント、つまり試合会場での体験はもちろん、試合が始まるまでの期待や準備期間も含めて、心がたぎる感情や演出、プレーの熱量を感じてもらえるようにしたい。それをきっかけに「サムライズがあるから、明日も頑張ろう」と思えるような生きる喜びにつなげていきます。
この場所は震災もあった地域です。日本自体が良いニュース、明るい話題が少ないと言われる時代の中で、被災者の方だけではなく、多くの皆さんへ少しでもポジティブな気持ちになれる“きっかけ”に、サムライズがなれればと考えています。
最後尾から始めたクラブ再生
――経営者になられた経緯を教えてください。
私自身バスケットボールは未経験で、触ったのも体育の授業くらいでした。完全に事業側の人間としての関わりです。前職はBリーグで、各クラブチームの経営をサポートする部署に入り、担当者、そして責任者も務めていました。その中で、金沢サムライズが財務危機の状態だったので、昨シーズンの1年間、リーグの担当者として再生に携わりました。そして企業再生のスキームである事業譲渡に目処がついた後、「その後の経営者がいない」という状況になり、Bリーグの担当者を退職し、私が金沢サムライズの経営者をやることになりました。ですから法人になってからは、まだ半年も経っていません。
――まさか、チームがそのような苦しい状況であったとは思いませんでした…
Bリーグ全体が右肩上がりで伸びている中で、サムライズは置いていかれていました。過去にB2に昇格したことはあるのですが、そこからが大変で。B2に上がると選手人件費も含めて費用が増える一方、収入が思ったほど増えませんでした。結果として赤字が続き、債務超過が膨らみ、そこから緊縮財政にしても資金繰りに行き詰まり、その状態が4〜5年続く中で、コロナや震災がとどめを刺す形になりました。最後は、事業再生のスキームを使わないといけない状態で、チームが危機的な状況にまで来ていました。
だからこそ昨シーズンの1年間は、「B.LEAGUE ONE」へ参戦を決めることが、事業再生の面でも重要でした。今は、北陸朝日放送がオーナーで、CCIグループ(旧:株式会社北國フィナンシャルホールディングス)も報道のとおり参画してくるという前向きな状況をつくり出せています(取材日現在。2/27(金)に正式に経営参画を公表)。V字回復はまだこれからですが、ようやく底を打って、上がり目が出てきたと感じています。我々は最後尾にいるし伸び代がある。サムライズには一番成長のポテンシャルがあります!と、自分では言っています。
理念に立ち返る意思決定
――仕事をする上で大切にしている価値観は何でしょうか。
私が経営者である以上、結局、会社の経営理念とイコールだと思っています。ビジョン・ミッション、そして判断の場面ではバリューにも沿った内容になります。そこに常に立ち帰れるようにしています。
――組織運営で意識していることを教えてください。
現在会社としては、社員・アルバイトを含め15名での体制となります。
経営者の仕事は意思決定なので、基本は私が判断し決めていくのですが、あえて最初から決めないこともあります。それはなるべく自分たちから意見が出るようにしたいからです。スタッフはすごく真面目で、優秀な人が多い一方で、自ら0→1を作り出すタイプが少ない。ですから、私が0→100まで全部作ってしまうと、もう従わざるを得なくなります。0→1くらいを持っていって、「嫌だったら、こっちの方がいいよね」という意見が出る“揺らぎ”をあえてつくる。そこは意識しています。ただこれが難しい…。うまくいっているかは、まだ難しいところです。
勝った先の景色を示すクラブ経営
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
企画レベルのことでいえば、家族連れはB.LEAGUEとの相性が良いので、そこに向けた新しい取り組みを考えています。2月末の試合で行うのが「父子(お父さんと子ども)でサムライズ」という企画です。お父さんと子どもで試合に出かけてもらい、お母さんの自由時間をつくる、という設計を考えています。背景には、石川県の共働き世帯における夫の育児参加時間が全国ワーストという統計があり、2021年時点で平均36分、女性の7分の1という数字も出ています。地域課題として、何かきっかけづくりに貢献できないかと思ったのが理由です。もちろん集客として私たちにもプラスになりますし、地域にもお役に立てる形で実施したい。2月はホームゲームが3節あり、そのうち28日と3月1日の土日にやりたいと思っています。
あとは、自ら「シンデレラストーリー」と言うのはおこがましいですが、サムライズは経営難で、本当に消滅の危機も迎えていたチームです。だからこそ、そんなチームがここまで踏ん張ってきたことを、まずはきちんと伝えていきたいと思っています。
ただ「頑張っている」だけではなく、B.ONEに入った、3年以内に優勝してB.ONEの頂点に立つ、ゆくゆくはB.PREMIERという世界最高峰の舞台に挑戦する——。もしそれを成し遂げられたなら、潰れかけていて、一番下のリーグでシーズン1勝しかできなかったようなチームが、ここまで上がったんだという姿を、毎年見せていけるはずです。会場で一緒に体験してもらうことによって、人々の心に火をつけたり、日本を良くする方向に持っていきたいと思って経営をしてます。
スポーツチームの経営は、勝ち負けにこだわる一方で、お金や地域のことが二の次に見えてしまい、「スポンサー営業=お金ください営業」と受け取られてしまうことがどうしてもあります。だからこそ、私たちは何のために勝ちを目指すのか、勝った先にどんな景色を見たいのかを、きちんと伝えていくことが大事だと思っています。その思いが伝わる形になれば嬉しいです。
趣味より大切な時間
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
実は一番困る質問だったりします…。あまり趣味がないので。
旅行へ行ったり、カラオケで歌ったりするのも結構好きで、お付き合いの飲み会や家族と一緒に旅行へも行きますが、それぐらいかなと思っています。質問から逸れますが、人間って仕事・家族・趣味の3つあるうち、絶対1個は犠牲にしないと駄目だなと思っていて、3つをバランスよくやるという手段もありますけど、個人的には趣味に時間を使いたい欲がないのです。ですから仕事に思いっきり時間を振ってる割に、家族との時間はそれなりに使っているつもりなので、家族との時間が私のリフレッシュの時間ですね。