100年先も陳腐化しない『ブランドの源泉』を設計する――15年の企画キャリアと、職人取材で磨いた『本質を見極める』企画力
KAZOO 代表 八田 雅也 氏
独立して15年。特定の業界に縛られず、商品や組織が持つ「本質的な魅力」をどう設計し、届けるかを探求し続けてきたKAZOO。
代表の八田雅也氏が掲げるのは、情報の拡散によって集まった人々の心を動かす『ブランドの源泉』の設計です。10年にわたる伝統産業の職人取材で培った「本質を見極める眼」を武器に、中の人が誰よりも面白がることで生まれる不変の価値。本記事では、15年の結実としての事業哲学と、人事領域への新たな挑戦についてお話を伺います。
目次
業界に縛られない「企画屋」としての事業領域
――現在の事業内容と、会社の特徴を教えてください。
私は「企画屋」として、独立後15年間活動を続けてきました。特定の業界に縛られることなく、ブランディングやプロモーションの設計を主軸に、商品・サービス、さらには企業や組織そのものの魅力をどう形にするかを担っています。
最大の特徴は、一般的なマーケティングが追求する「どう広めるか(拡散)」という手法とは異なる領域を専門としている点です。
マーケティングを駆使して声を遠くに届ける前に、人が集まった時に「そこで何を伝え、いかにして深い信頼を築くのか」。いわば、ブランドの「魅力の源泉」そのものをデザインすることが、私の主な役割です。
――具体的に、一般的なプロモーションとの違いはどこにありますか?
一般的なプロモーションは情報の到達数(リーチ)を重視しますが、中身が伴わない拡散は一過性の「打ち上げ花火」で終わるリスクがあります。
私は、拡散された先で人が触れる「情報の質」や「体験」の設計に特化しています。お金で広める手段は買えますが、受け取った人が「なぜこれが良いのか」を実感できる『中身』は、そう簡単には作れません。
企画の中心にいる人たちが誰よりも楽しみ、誇りを持っている「原熱」を、陳腐化しない価値へと翻訳していく。「中身の設計」に徹底的にこだわる点が、大きな違いです。
屋号「KAZOO」に込めた想い――本質的な魅力を伝える企画の出発点
――今の事業をどのような思いで始めたのか、その背景を教えてください。
原点は、独立前に在籍していたソーシャルメディアマーケティングの会社での経験です。
開発者が「なぜこの商品を作ったのか」という熱量を直接語ると、ブロガーの方々がスペックの紹介ではなく、心からの「感動」をそれぞれの言葉で発信し始めました。
広告費による拡散よりも、発信者の真実味のある言葉が届く「共感の連鎖」に、お金では買えない強い力を感じたのです。
この「本質的な魅力」をいかに掘り起こし、届けるかというプロセスに惹かれ、独立してこの道を歩み続ける原動力となりました。
――理念やビジョンにはどのような思いが込められていますか?
屋号の「KAZOO(カズー)」は、ハミング(鼻歌)を吹き込むことで音を奏でる楽器です。声を出さない限り、楽器単体では鳴りません。
会社員時代、表面的な情報だけで企画を提案した結果、クライアントから「何か違う」と言われてしまう苦い経験を数多くしました。その反省から、企画の主役はあくまでクライアントであり、私はその内なる想いを増幅させる「楽器」に徹しようと決めました。
クライアントが持つ「原熱」というハミングを丁寧に聞き出し、世の中に響く大きな企画へと変えていく。自分が目立つのではなく、対象の魅力を最大化することに徹する。その姿勢を屋号に込めています。
独立までの経緯と、ゼロから形をつくった創業期
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
私の独立は「成り行き」に近い形でした。
知人と会社を立ち上げる予定で前職を辞めたのですが、直前でその話が白紙になり、後ろ盾も仕事もない「ゼロ」の状態に放り出されてしまったんです。
当時は焦りましたが、やるしかないと開き直り、人のつながりを一つひとつ手繰り寄せていく中で、自分が介在する価値を模索してきました。
振り返れば、あの時「何もない状態」を経験したことが、特定の看板に頼らず自分の名前で仕事を作るという原点になったと感じています。
――独立当初はどのような状況だったのでしょうか?
当然、最初は実績もありません。知人の伝手を頼って小さな仕事をつないでいく毎日が数年続きました。
判断の甘さから騙された経験もありますし、貯金が底をつき、生活が立ち行かなくなるような精神的な追い詰められた場面もありました。
しかし、そのたびに不思議と新しいご縁に恵まれ、今日まで続けてくることができました。
潤沢な資金や計画があったわけではなく、「ここで損をしたら終わる」というギリギリの状況で試行錯誤し続けてきた感覚です。
あの時期の泥臭い経験が、手法よりも「人としての信頼関係」を何より大切にする、今の姿勢を形作ってくれました。
魅力を掘り起こし共有することを軸にした価値観
――事業を行う上で大切にしている信条は何でしょうか?
本人さえ気づいていない「隠れた価値」を掘り起こし、周囲と「これ、すごいよね」と言い合える瞬間が何よりも好きなんです。
利益の大きさよりも、知られていなかった魅力を共有したときに相手が驚いてくれる手応えに、15年間一貫して価値を感じてきました。
大切にしているのは、「中心にいる人が、誰よりもその企画を面白いと感じ、誇りを持てる状態であること」。
外側を整えても、中の人が「やらされ仕事」であればブランドは長続きしないからです。
例えばあるベーカリーでは、新商品開発のノルマに疲弊していた職人自身の想いをコンセプトに紐付けることで、開発が「自己表現」に変わり、連日売り切れ続けるロングラン商品が生まれました。
中の人が誇らしく語りたくなるきっかけをデザインすることが、最終的にファンを惹きつける最大の要因になると信じています。
伝統産業の職人との出会いがもたらした転機
――これまでのキャリアでターニングポイントになった出来事は何ですか?
約10年続けている伝統産業の職人への取材活動です。
以前の私は、数字重視の労働環境で「本質を大切にしたい」という自分の感覚が否定される経験もあり、迷っていました。
しかし、数百年の歴史を背負う職人たちの「譲れない美学」に触れ、「自分が大切にしてきた感覚は間違っていなかった」と確信できたんです。
彼らが言葉にできない想いを現代に伝わる言葉へと翻訳する修行のような期間を経て、本当の意味でプロフェッショナルとしての覚悟が決まりました。
――尊敬している人物や、影響を受けた存在はありますか?
取材してきた何人もの職人の方々すべてが私の師です。
特に印象に残っているのは、日本庭園の作庭家である中村雄三さんの「一流の作庭家は、自分が庭を造ったという「我」を前面に出さない。ワシの仕事は庭の魅力を引き出すこと。だから、庭の中にワシの姿は見えなくてええんや。」という言葉です。
彼の言葉は、私の企画観と完全に一致しました。企画屋も同じで、自分が目立つ必要はありません。クライアントが持つ「源泉」の魅力が世の中に正しく、美しく伝わる。その黒子としての役割に徹することに、最大の喜びを感じます。
信頼を基盤にした協働と、共に転びながら進む関係性
――今後一緒に仕事をする人に求めることはありますか?
固定の社員はいませんが、案件ごとにプロの方々とチームを組んでいます。
一番大切にしているのは、極めてシンプルですが「嘘をつかないこと」です。「源泉(想い)」を扱う領域では、建前や嘘が混じった瞬間に言葉の純度が失われ、企画が死んでしまいます。
だからこそ、腹を割って本音で話せる関係を重視しています。課題に直面したときこそ「この人となら一緒に転んでもいい」と思える相手と仕事をしたい。
一度の失敗で関係を切るドライな付き合いではなく、共に学び、次に活かしていける。そんな誠実な関係性こそが、面白い企画の出発点になると考えています。
企画屋の視点で挑む人事領域への新しいアプローチ
――現在取り組んでいる新しい挑戦について教えてください。
現在15年の結実として推進しているのが、人事・組織開発に特化した「INNERSHIFTPilot」です。https://inner-shift.jp/pilot/
これまでも「人が主役になる場作り」には一貫して取り組んできましたが、この企画はその経験を基に得た「外側だけを整えても、内側の心が動いていなければ真のブランドは成立しない」という確信から生まれました。
研修会社ではなく「企画屋」の視点だと、形骸化した人事研修に大きな違和感を覚えたのです。その違和感を起点に、人事が現場で誇りを持って展開できる仕組みを設計しています。
働く人々の内なる声を掘り起こし、中の人が「自分の仕事は面白い」と再認識する瞬間を創る。それが組織が進化する最大のエネルギーになると信じています。
――その取り組みで生まれる課題とどう向き合っていきますか?
既存の「研修」という枠に収まらないため、単発のワークショップのように誤解されるリスクはあります。
しかし、私が提供したいのは一時的な高揚感ではなく、メンバーが自律的に動き出すための「装置」の設計です。効率を重視する大きな組織にはできない、経験を積んだ「個人」だからこそ到達できた領域だという自負があります。
100年先も陳腐化しない魅力を、組織の「内側」から創り出していくために、全知見を投じてこの挑戦を続けます。
人と会い続けることが思考を深めるリフレッシュになる
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
仕事とプライベートを区切る感覚はありません。「人と会って話すこと」そのものが最大のリフレッシュだからです。
「企画屋」の仕事は、目に見えない魅力を掘り起こすこと。だからこそ、自分とは全く違う世界に生きる人の「源泉」に触れることが何よりの刺激になります。一人で机に向かうよりも、対話の中で思考が整理され、新しいアイデアの種が生まれます。
日常の会話の中に、100年先も陳腐化しない価値のヒントを探す。これからも多くの「源泉」に出会い、増幅させることで、誇りを持って働く人を一人でも多く増やしていきたい。
その想いは、私の人生そのものと深く結びついています。