“らしさ”を起点に会社を進化させる――常識にとらわれない組織とファンづくりの経営論

株式会社島田電機製作所 代表取締役社長 島田 正孝氏

株式会社島田電機製作所は、1933年創業のエレベーター用意匠器具メーカーです。モノづくりに加え、「組織づくり」「ファンづくり」の3軸で事業を展開し、“らしさ”輝く世界を掲げた経営を進めています。島田氏は5代目として会社を継ぎ、下請け体質からの改革や組織変革を推進してきました。本記事では、事業の特徴、経営の価値観、組織づくりの工夫、そして今後の展望についてお話を伺いました。

創業90年超のモノづくり企業が掲げる「3つの軸」

――現在の事業内容と特徴を教えてください。

当社は1933年創業で、エレベーターの押しボタンや到着灯といった「意匠器具」をオーダーメイドで作り続けてきたモノづくりの会社です。

事業は「モノづくり」だけにとどまらず、「組織づくり」「ファンづくり」の3つを軸に活動しています。

特に力を入れているのがファンづくりです。もともとは下請けとして誰からも知られていない無名の存在でしたが、取り組みを重ねる中で、現在は年間2万人以上が会社を訪れるようになりました。

製品だけでなく、会社そのものに関心を持っていただける存在へと変わってきていると感じています。

――代表として掲げているビジョンにはどのような思いがありますか?

当社が掲げているのは『“らしさ”輝く世界をつくる』というビジョンです。

働く人、会社、製品のすべてにそれぞれの“らしさ”があるはずで、それを活かせること自体が喜びや次の挑戦につながると考えています。

世の中には自分らしさを発揮できないまま働いている人も多いと感じていますが、この会社が社員にとって“らしさ”を出せる場所であってほしい。自由な風土や一体感のある組織を意識しているのも、そのためです。

こうした働き方が、中小企業における新しいロールモデルになればと思っています。

後継ぎとしての葛藤と、攻めの経営へ転じた転機

――経営の道に進まれた背景を教えてください。

積極的に目指したというより、自然な流れで後を継いだ形です。最初から強く言われたわけではありませんが、親がやっていた流れもあり「自分がやるのだろう」という感覚がありました。

しかし実際に仕事を重ねる中で、経営は自分のやりたいことを実現できる場だと気づきました。どれだけ挑戦するかによって結果が変わる点に大きな魅力を感じています。

最終的に社会に貢献し、喜ばれることにつながるところにもやりがいを見出しています。

――事業を引き継いだ当初、どのような思いがありましたか?

会社には35年在籍しており、社長になったのは2013年です。長く働いていたので会社の事情は理解していましたが、経営者の感覚は従業員とはまったく違うと強く感じました。

後継ぎという立場には良い印象を持たれにくい面もあります。だからこそ、自分の考えをしっかり持って進めなければならないと思いました。

最初は守りの気持ちで引き継ぎましたが、その姿勢では経営は難しいと気づき、攻めの姿勢に切り替えました。自分らしさを活かし、会社を面白く進化させたいという思いでビジョンを掲げて取り組んできました。

「常識にとらわれない」経営判断の軸と価値観

――経営判断の軸となっている信条は何でしょうか?

大切にしているのは「常識にとらわれない」ことです。

これまでの延長線だけでは新しいことは生まれませんし、常識通りでは勝ち残れない場面も増えています。だからこそ、その常識自体を疑う視点を持つようにしています。

もうひとつは「面白がる」「楽しむ」という姿勢です。

真面目に頑張るだけではなく、真面目に楽しむことが重要だと思っています。ユーモアを忘れず、楽しみながら挑戦することが、結果的に新しい価値を生むと考えています。

町工場からの脱却、海外挑戦、本社移転――3つのターニングポイント

――これまでのキャリアで転機となった出来事を教えてください。

大きな転機は3つあります。

まず1つ目は、入社当時に典型的な町工場だった会社を大きく改革したことです。当時は下請け気質が強く、仕事は上から降ってくるような体制でした。その状態を変えるために改革を進めた結果、40~50人ほどいた社員のうち、3分の2ほどが退職するという大きな変化も経験しました。それでも、会社のあり方を見直したことが最初の転機になったと感じています。

2つ目は、2007年に海外へ渡り、上海で起業してゼロから事業を立ち上げた経験です。現地で仕事をする中で、日本との価値観の違いを強く実感しました。日本の良さだけでなく、改善すべき点にも気づけたことで、視野が大きく広がった出来事だったと思います。

3つ目は、2013年に本社を移転したタイミングで中国から戻り、社長に就任したことです。拠点の移転を機に、組織改革やCI(コーポレートアイデンティティ)の見直しを進め、会社そのものをどうしていくのかを改めて設計し直しました。

古い町工場の改革、海外への挑戦、本社移転と社長就任。この3つが、現在の事業につながる大きなターニングポイントになっています。

“らしさ”を引き出す組織づくりとユニークな採用・育成

――主体的に動ける組織にするための取り組みを教えてください。

現在の社員数は約60名です。取り組みは数多くありますが、軸にしているのは一人ひとりの“らしさ”を活かすことを常に意識しています。

そのため、まず自由な風土をつくり、社内で自然に会話や活動が生まれるような仕組みを整えています。イベントや飲み会の機会を多く設けているのも、互いの個性を出しやすくするための工夫です。

特徴的なのは、さまざまな場面にゲーム性を取り入れている点です。

大きなサイコロを振って賞金を決める企画(サイコロ金)を行ったり、社内で気軽にお酒を楽しめる場(ボタンちゃんcafe&bar)を設けたり、外での飲み会費用を会社が負担する(タダ飲み会)こともあります。楽しみながら関係性を深めることで、主体的に動きやすい空気をつくっています。

教育面では外部研修の費用を負担するだけでなく、本人がパフォーマンスを高めるために通う習い事の費用まで会社で支援(SOS制度)しています。個人における人としての成長がそのまま組織の力になると考えているからです。

採用の段階でも自由度の高い仕掛けを取り入れています。

履歴書ではなく、会社への想いを手紙や絵で表現してもらう「ラブレター採用」を行い、面談は自由な服装で参加してもらっています。さらに、ガチャガチャから出た質問に答える「ガチャ質問」という形式も取り入れ、自分らしさが自然に出る入り口づくりを意識しています。

――コミュニケーション面で大切にしていることは何ですか?

重視しているのは、“らしさ”を引き出したうえで、会社や仲間にどう貢献するかを考えてもらうことです。個性を出すだけでは組織として機能しません。

自分らしさと貢献のバランスをどう取るかが重要で、その調整こそが組織づくりの要だと感じています。

――どのような人と一緒に働きたいと考えていますか?

周囲にポジティブな影響を与えられる人が理想です。自分だけが成果を出すのではなく、周りを巻き込んで結果につなげられる人に魅力を感じます。

前提として大切なのは会社への共感度の高さです。スキルがあっても行動につながらない場合がありますが、想いが伴えば主体的な動きが生まれます。

スキルと行動の間にある“想い”やエンゲージメントを重視しています。

「モノづくり・組織づくり・ファンづくり」それぞれの未来戦略

――今後取り組んでいきたい挑戦や展望を教えてください。

当社は「モノづくり」「組織づくり」「ファンづくり」の3つを軸にしているので、それぞれに展望を掲げています。

まず「モノづくり」では、これまで下請けとして続けてきた体制から脱却し、メーカーとして自立していきたいと考えています。自分たちの製品ラインナップを持ち、自ら提案したものが採用されていくような事業体へ進化させることが目標です。

次に「組織づくり」では、「管理しない組織」をつくることを掲げています。目的や価値観をしっかり共有できていれば、管理に頼らなくても主体的に行動し、結果を生み出せる組織になると考えています。

そして「ファンづくり」については、これまで多くのメディアにも取り上げていただいてきましたが、今後はこれを明確に事業として成立させていきたいと思っています。社内にある遊びの空間には年間2万人以上が訪れ、海外からの来訪者も増えています。

この取り組みを評価される形にしながら、事業としての価値を高めていきたいと考えています。

――展望を実現するうえでの課題と取り組みは何でしょうか?

一番の課題は、経営者である自分がいなくても会社が面白く進化し続けられる体制をつくることです。

これまではアイデアを出しながら動かす役割が大きかったため、その仕組みを次の組織へどう引き継ぐかを考えています。

影響を受けた存在と、仕事そのものを楽しむスタンス

――影響を受けた人物や出来事を教えてください。

若い頃から音楽が好きで、特にパンクロックに影響を受けました。中でもTHE BLUE HEARTSのボーカルである甲本ヒロトさんの言動には大きな刺激を受けています。

価値観や姿勢の部分で、今の自分に影響していると感じます。

――休日のリフレッシュ方法はありますか?

特別なリフレッシュ方法はあまりありません。趣味が会社そのものと言えるほど、仕事を楽しんでいます。常に考え続けたり動いたりすることが、自分にとってのバランスになっています。

強いて言えば音楽を聴くことが気分転換になる程度です。

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