女性の声を戦略に変える――フォー・レディーが貫く“消費者起点”のマーケティング
株式会社フォー・レディー 代表取締役 鯉渕 登志子氏
株式会社フォー・レディーは、社員全員が女性という体制を続けている会社です。しかし、代表の鯉渕登志子はこう語ります。「女性経営者と強調されるのは、あまり好きではありません。仕事で評価されたいだけなんです」目指してきたのは、女性のための会社ではありません。きちんと成果を出せば、性別は関係ないのです。その事実を示すことでした。
目次
原点は「婦人服なのに、女性の意見が通らない」
――設立の経緯から、設立のときの思いを教えてください。
29歳で起業する前、私はアパレル団体の事務局で経営情報紙を編集していました。日本を代表するアパレル経営者をほぼ全員取材し、経営の考え方や戦略を間近で学ぶことができました。
ただ、ずっと違和感がありました。婦人服を扱う業界でありながら、意思決定はほとんど男性。女性の意見は参考にはなっても、最終決定には反映されにくい空気があったのです。
ある社長に「なぜ女性の意見を聞かないのですか」と尋ねたこともあります。当時は女性をアシスタント的に捉える考え方が一般的でした。それは平等ではないと感じ、アパレル団体を退職し、民間企業へ転職しましたが、そこでも状況は変わらず、「自分でやるしかない」と起業の道を選びました。
社名に込めたのは、主張ではなく姿勢
――社名の由来を教えてください。
「フォー・レディー」という社名は、退職を決めた頃から考えていたものです。少し変わった名前かもしれませんが、女性がきちんと意見を言える環境をつくりたいという思いを込めました。
ただし、いわゆる「女性らしさ」を前面に出したいわけではありません。
私が大事にしてきたのは、「使う人の声をきちんと聞く」という姿勢です。それを商品設計や広告戦略にどう落とし込むか。そこに経営の差が出ると考えています。
女性だけの会社でも成果は出せる。それを数字で示すことが、最も説得力のある方法だと思っています。
売上130%を達成できたのは、“視点”
――事業内容と強みを改めて教えてください。
現在は化粧品通販企業を中心に支援しています。過去には大手4社を支援し、対前年比130%の成長を実現した事例もありました。特別な手法を使ったわけではありません。変えたのは“視点”です。
多くの広告は売り手の論理で設計されがちです。しかし私たちは、受け手の立場に立ちます。
たとえば、煽る表現をやめ、納得できる理由を丁寧に示します。短期的な反応よりも、継続的な関係を優先し、設計変更を行います。
また、私たちは消費者の声を聞くことを重要視しています。お客様調査やアンケートなどを通じて、企業がまだお客様の思いに至っていない場合は「お客様はこう思っていますよ」と伝える。それに対して企業が何を伝えるか、制作物で表現します。実際にお客様の意見を聞く習慣をつけてもらうところまで含めて支援しています。
また、お客様の声をすべてそのまま採用するわけではありません。声を分類し、「なぜそう感じるのか」を整理し、戦略に落とし込む。そこが私たちの仕事です。
レッドオーシャン時代に必要なのは“一気通貫”
――業界の流れを見て、感じている変化は何ですか。
化粧品通販業界は、いま大きな転換点にあります。市場自体は伸びていますが、その一方で競争はかつてないほど激しくなりました。初回半額施策の常態化、広告費の高騰、定期解約トラブルなどですね。
店頭メーカーのEC参入も進み、もともと通販を主軸としてきた企業にとっては、資本力の大きな企業と真正面から戦う構図になっています。
さらに、生活者はスマートフォンで簡単に情報を比較し、賢く選択する時代です。「安いから買う」ではなく、「納得できるかどうか」で判断されるようになっています。
こうした状況のなかで感じるのは、部分的な改善ではもう追いつかないということです。
「新規獲得だけを強化する」「CRMだけを見直す」「広告表現だけを変える」。それぞれは大切ですが、支援が分断されると、企業の思想も分断されてしまいます。けれど、向き合う相手は“お客様一人”。
その方にとっては、新規もCRMも広告も関係ありません。ブランドとして一つの体験しか存在しないのです。
だからこそ、商品設計の思想から広告、顧客育成、さらには社内体制まで、一気通貫で考える必要があると感じています。
私たちが重視しているのは、単発の成果ではなく、構造そのものを整えること。正しくつくり、正しく伝え、正しく育てる。レッドオーシャンだからこそ、誠実な仕組みづくりが、最終的にはいちばん強いと考えています。
社内でも「意見が言える構造」をつくる
――社員が自分の考えで動けるよう、どんな工夫をしていますか。
私は創業者なので、ワンマンな部分もあり、強く方向を示すこともあります。ただ、いま多くの企業が直面しているのは「事業承継」の難しさです。理念は、仕組みがなければ残りません。
だからこそ社内ではチーム制を取り、チームリーダーが社内ルールづくりや半期決算、レポート作成にも関わる体制にしています。会社の実情や数字を共有しなければ、自立は生まれないからです。
私一人が決めるのではなく、まずリーダーと議論し、みんなで方向を定める。最初は背伸びでもいいので、自分で考え、計画を立て、意見を言う機会をつくっています。
理念を守るために、意見を言える構造を整える。それが継承への第一歩だと考えています。
経営判断の軸は変わらない
――今後の挑戦や、目指す姿について教えてください。
「人は平等であるべき」という考えは学生時代から変わりません。ですが、それを声高に主張するつもりはありません。女性に任せても業績は上がる。その事実を積み重ねて示していくことが、私の役割だと思っています。
休日は「整える」ことが仕事の土台に
――お休みの日のリフレッシュ方法があれば教えてください。
休日は散策をしたり、マッサージや美容院に行ったりします。特別なことはしませんが、体調を整えることも経営の一部だと考えています。
納得できる判断を続けるには、まず自分が整っていること。
派手な挑戦よりも、積み重ねを大切にする。それが私の経営スタイルです。
支援会社が「新規レスポンス率を上げる」など一品型になりがちだと、企業側の考え方がバラバラになり、一気通貫にならない。相手はお客様一人なのに、息継ぎができず無駄が増える。結果、右肩下がりになって消えてしまう。そうならないように通貫で支え、必要なパーツは各社も活用する。そういう提案をしています。