不動産を売るのではなく、くらしをつくる──“Living is more”を体現するLivmoの挑戦
株式会社Livmo 取締役会長 源 侑輝 氏
「Living is more くらしを豊かに」という言葉をミッションに掲げ、不動産という“ハード”ではなく、“暮らし”というソフトに価値を置く株式会社Livmo。ホテルやアパートメントホテル、マンスリーマンション、シェアハウス、コミュニティ型共同住宅の運営から企画開発までを手がけ、新しい暮らし方を提案しています。本記事では、創業の原点から経営哲学、組織づくり、そしてこれから描く未来について、取締役会長の源侑輝氏に伺いました。
目次
運営・開発・仲介の三事業で“暮らし”を扱うLivmoの現在地
――現在の事業内容と、その特徴について教えてください。
私は「Living is more くらしを豊かに」という言葉をミッションに込めて、2012年にLivmoを設立しました。今期で14年目になります。従業員は業務委託の方も含めて55名です。
事業は大きく三つあります。まず一つ目がオペレーション事業です。売上の約7割を占めていて、ホテルやアパートメントホテル、マンスリーマンション、シェアハウス、コミュニティ型共同住宅などの運営管理を行っています。ただ施設を回すのではなく、「そこにどんな人が集まり、どんな時間が流れるか」までを考えて運営しています。
二つ目が開発事業です。物件を持つオーナー様に対して、「どうすればこの場所に新しい価値が生まれるか」「街にどんな賑わいをつくれるか」という視点で企画提案を行い、施設づくりから関わります。
そして、三つ目が仲介事業です。単に部屋を紹介するのではなく、「その人にとっての暮らし」を届けることを大切にしています。外国籍の方に特化した部屋探しなど、既存の仕組みでは取りこぼされがちなニーズにも向き合ってきました。
私たちは「泊まる」も「住む」も含めて、1日単位から暮らしを提供している会社です。不動産を売るのではなく、暮らしをつくる。その姿勢が、Livmoの一番の特徴だと思っています。
――なぜ“暮らし”にこだわっているのでしょうか。
私自身、寮生活で縁あって出会った仲間と暮らした経験があります。そのとき感じたのは、建物そのものよりも、そこで生まれる関係性や空気感のほうが人を豊かにするということでした。
だからこそ私たちは、間取りや設備だけではなく、「どんな時間を過ごせるか」「どんな出会いがあるか」といったソフトの部分を設計します。暮らしの価値を上げることで、不動産の見え方も変わる。そこに面白さと可能性を感じながら、日々プロジェクトに向き合っています。
実際に、同じ建物でもコンセプトやコミュニティ設計を変えるだけで、集まる人も空気も大きく変わります。だからこそ、ハードありきではなく、まず「どんな暮らしを実現したいのか」から逆算する。その発想を、これからも大切にしていきたいと考えています。
北海道での寮生活と空室アパートが教えてくれた「暮らし」の価値
――創業の原点を教えてください。
私は北海道・函館の出身で、祖父母が農家でした。幼い頃から畑や自然が身近にあって、「地域を元気にしたい」という思いはずっと心の中にありました。大学時代も、おじいちゃん、ばあちゃんを元気にしたいという気持ちから、農業や一次産業を盛り上げる道を本気で考えていました。
転機になったのは、大学2年生のときです。函館に戻った際、祖父が建てたアパートが空室続きになっているのを目にしました。一方で私は、札幌の寮で450人の学生と暮らし、縁あって出会った仲間と第二の家族のような時間を過ごしていました。
「この空いているアパートを、仲間と一緒に住んだらどうだろう」と思い、実際に住んでみたところ、すぐに満室になりました。建物を変えたわけでも、家賃を下げたわけでもありません。ただ、自分たちが欲しいと思える暮らしをつくっただけでした。このとき、「人が求めているのは不動産ではなく、暮らしなんだ」と気づいたんです。
――その後、どんな葛藤や転機がありましたか。
学生時代、本気で農業にも取り組みました。でもうまくいかず、周囲に迷惑をかけてしまったこともあります。理想だけでは通用しない現実を知りました。
その後、八百屋を起業し、売上は伸びました。しかし、商店街の別の八百屋が閉店したとき、胸がざわつきました。自分は地域を元気にしたいはずなのに、競争の中で誰かを追い込んでいるのではないかと。
そこで「戦う競争ではなく、共に創る共創をしたい」と強く思いました。ちょうどシェアリングエコノミーという考え方に出会い、資源や空間を共有して価値を生み出す世界に可能性を感じ、東京へ出る決断をしました。ここが大きなターニングポイントでした。
――経営判断の軸になっている価値観は何ですか。
経営に絶対的な正解があるとは思っていません。だからこそ、私の判断軸は一つです。「豊かな暮らし」というビジョンに沿っているかどうか。
安易な利益に流れていないか、自分たちの原点から外れていないか。その問いを、自分に投げかけ続けています。その積み重ねが、今のLivmoをつくっているのだと思います
農業の挫折と八百屋経営の葛藤から見えた“共創”という選択
――組織運営で大切にしていることは何ですか。
創業当初のLivmoは、今以上に一人ひとりの裁量が大きい組織でした。大きな裁量を渡し、成果にフォーカスする。振られる仕事の塊も大きく、手取り足取り教えるスタイルではありませんでした。その分、達成できたときの成長実感は強かったと思います。
ただ、会社のステージが上がるにつれて、一人ではできないプロジェクトが増えてきました。そこで掲げたのが「One Livmo」です。個人プレーではなく、チームで大きな挑戦に取り組む。互いを尊重しながら、一つの方向に進む組織へと変化しています。
現在の組織づくりの軸は三つあります。一つ目が「One Livmo」居心地がよく、「ひとりじゃない」と感じられる組織であること。役職や部署を越えて、安心して話せる、挑戦できる空気をつくることを、全員が前提として大切にしています。二つ目がOKRによる目標管理です。チームの目標を明確にし、それを個人の役割に落とし込むことで、全員が同じゴールを見ながら動けるようにしています。三つ目がユーザーファーストです。これは設立当初から変わらない価値観で、既成概念にとらわれず、目の前のユーザー一人ひとりの「らしさ」や「ストーリー」に根ざした価値を届けることを大切にしています。
――ユーザーファーストを組織の中でどう体現していますか。
ユーザーファーストは、お客様の価値観やストーリーからサービスを考える姿勢です。ただ、それを本当に実現するには、まず働くメンバー自身が「自分はどうしたいのか」を持っていなければならないと思っています。だから私は、採用や面談の場で必ず「あなたはどうなりたいのか」と問いかけます。
その人自身の意思があってこそ、ユーザーに対しても誠実に向き合える。そう信じています。
また、半年に一度は全員参加のカンファレンスを開催しています。業務から離れ、価値観やビジョンを深掘りする一日です。清掃スタッフも含めて全員が参加します。言葉として知っているだけでなく、自分の体験として腑に落ちる。そうした場づくりも、組織運営で大切にしていることの一つです。
裁量と責任を土台に、One Livmoとユーザーファーストを貫く組織づくり
――今後の展望について教えてください。
私たちは「暮らしをつくる会社」です。だからこそ、常に考えているのは「次の暮らしとは何か」という問いです。ここ数年で、多様性やライフスタイルの変化が一気に進んだと感じています。働き方も住み方も価値観も、以前よりずっと自由になりました。私たちにとっては、その変化こそが大きな機会です。
不動産価格や建設費が上がる今、ハードそのものの価値を高めるだけでは限界があります。だからこそ、私たちはソフト、つまり暮らし方そのものを設計するアプローチをより重視しています。建物を変えるのではなく、使い方を変える。関係性を生む仕組みを入れる。そこに可能性を感じています。
コミュニティ型住宅や、気の知れた人同士でのルームシェアなど、既存の間取りを活かしながら新しい価値をつくる企画を進めています。
――具体的に、どのような方向性を考えていますか。
例えば、知らない人同士のシェアハウスはハードルが高くても、友人や兄弟など気心の知れた人同士ならルームシェアをしたいというニーズはあります。既存の間取りを見直すだけで、住まいの選択肢は広がると考えています。
また、宿泊と居住の間にあるような、新しい滞在のかたちにも可能性を感じています。単に泊まる、住むという二択ではなく、「暮らしの一部として滞在する」という発想です。多様な価値観を持つ人たちが、自分らしく選べる余白をつくりたい。
まだ具体的に確定しているものばかりではありませんが、多様化する社会にフィットする暮らしを研究し続けています。私たちにしかできない切り口で、新しい暮らしを形にしていきたい。それがこれからの挑戦です。
影響を受けた考え方と、経営者としてのこれから
――尊敬している人物や影響を受けた考え方はありますか。
私はアショカ財団のビル・ドレイトン氏に影響を受けました。彼が提唱する「チェンジメーカー」という概念が好きです。
単に魚を与えるのではなく、釣り方を教える。さらに、その村が釣り方を忘れてしまうような社会構造そのものを変えていくという発想です。目の前の課題を解決するだけでなく、構造から変えていこうとする姿勢に強く共感しました。
ビジネスの論理だけでは届かない領域に踏み込みながら、経済も回していく。その両立に挑む姿勢は、私自身の経営観にも大きな影響を与えています。社会課題を解決しながら、持続可能な形で価値を生み出す。そんな経営者であり続けたいと思っています。
――リフレッシュ方法を教えてください。
スープカレーをつくることです。料理をしているときは、香りや音、色味、味見など、五感をすべて使います。自然と仕事のことから頭が離れ、目の前の工程に集中できるんです。
何かをつくるという意味では仕事と通じる部分もありますが、そこには純粋な楽しさがあります。鍋の前に立つ時間が、私にとって大切な切り替えの時間です。
これからも、社会と向き合いながら、より良い暮らしをつくり続けていきたいと思っています。