7代目が挑む毛髪ミネラル検査の可能性――プロフェッショナル集団と描く未来
株式会社ら・べるびぃ予防医学研究所 代表取締役 筒井 大海氏
株式会社ら・べるびぃ予防医学研究所は、毛髪中のミネラルを分析する「毛髪ミネラル検査」を軸に、慢性的な栄養の過不足や有害金属の蓄積傾向を可視化する検査事業を展開しています。2000年の開始以来、毛髪という長期データに着目した独自のアプローチを続けてきました。7代目代表である筒井氏は、システムエンジニア出身という異色の経歴を持ちながら、解析と統計の視点で事業の可能性を広げています。本記事では、事業の社会的意義、経営判断の軸、組織づくり、そして海外展開への挑戦について伺いました。
目次
毛髪から読み解く「長期データ」――ニッチな検査の価値
――御社の事業内容と、毛髪ミネラル検査の特徴を教えてください。
当社は元素を専門に分析している検査機関です。元素というと少し堅い印象を持たれるかもしれませんが、分かりやすく言えば「ミネラル」です。身体に必要な栄養素であるミネラルを、主に毛髪から分析しています。
ブランド名としては「毛髪ミネラル検査」と打ち出しています。クリニックや美容室、そして個人の方に向けて展開しており、生活習慣の見直しに役立てていただくためのツールとして提供しています。
――なぜ毛髪を検体とするのでしょうか?
血液や尿との大きな違いは、毛髪が長期的な情報を反映する点にあります。血液や尿は直近の食事や行動の影響を受けやすい。一方、毛髪は排出された結果が蓄積されるため、短期間の努力では数値が変わりません。
根元から約3cmを採取しますが、髪は1か月に約1cm伸びます。つまり3か月間の平均値を見ていることになります。前日に食事を調整しても、毛髪にはほとんど反映されません。日々の習慣がそのまま表れるところが特徴です。
7代目として継承した理由――なくしてはいけない事業
――家業に入り、代表を引き継ぐことになった経緯を教えてください。
私は7代目ですが、創業者ではありません。もともとはシステムエンジニアでした。父が会長を務めており、退職後に「何をやっているんだ」と声をかけられ、アルバイトとして入りました。
当時はミネラルや栄養について何も知らない状態でした。30歳を過ぎて社員となり、その後、コロナ禍を経て「そろそろ社長をやるか」と言われ、代表に就任しました。ある意味、レールの上に乗った形です。
――需要が大きくない中で、事業を続ける意義をどう考えていますか?
日本で毛髪ミネラル検査を本格的に行っているところはほとんどありません。需要が大きいとは言えない。ただ、社会的な意義は非常に高いと感じています。
やっているところが少ないからこそ、なくしてはいけない。売上だけを追うのであれば他の選択肢もあるでしょう。しかし、この検査を通じて身体の状態を可視化できるという価値は残すべきものだと思い、引き継ぐ決断をしました。
主軸をぶらさない経営判断――検査から広がる事業展開
――経営判断を行う上で、軸にしていることは何ですか?
判断基準は一つで、「毛髪ミネラル検査から広がるものかどうか」です。あまりにかけ離れた検査は取り入れません。
検査をすると様々な課題が見えてきます。例えば亜鉛が低い、有害金属が高いなど。しかし、なぜ高いのかは毛髪だけでは分からない。そこで常飲常食している水や米の検査を行う。これは主軸から自然に派生したものです。
――毛髪ミネラル検査から派生した取り組みにはどのようなものがありますか?
ストレスの指標としてコルチゾールという副腎から分泌されるステロイドホルモンがあります。このコルチゾールを毛髪から測定する検査も取り入れました。また、ミネラルは腸から吸収されるため、腸内環境を確認する検査も取り入れています。
主軸をぶらさず、そこから身体全体を見られる体制を整えていく。それが今の方向性です。
自らの体験が示した可能性――ターニングポイントとなった出来事
――これまでのキャリアで転機となったエピソードを教えてください。
入社当時、私はミネラルや栄養について何も知らない状態でした。前職はシステムエンジニアで、かなりの激務でしたから、食生活も荒れ放題。慢性的にお腹を下すのが当たり前で、それを「自分の体質」だと思い込んでいました。
そんなとき、社内の管理栄養士に自分の状態を話したところ、「それはデフォルトではない」と言われました。検査結果を踏まえたうえで食事のアドバイスを受け、言われた通りに取り入れてみたところ、驚くほど体調が改善したのです。
それまで当然だと思っていた不調が、栄養の見直しで変わる。その体験を通じて、「栄養やミネラル検査は面白いかもしれない」と感じたことが、大きな転機になりました。
――解析や統計に取り組む中で感じている面白さとは何でしょうか?
もともと私は数字や統計を扱うことが好きでした。検査データを解析していく中で、まだ論文にもなっていない傾向が見えてくることがあります。既存の知見では説明されていない数値の動きが、自社のデータでは明確に出ている。その瞬間は非常に刺激的です。
誰も開拓していない領域が、少しずつ輪郭を持ってくる。血液や尿と競うつもりはありませんが、毛髪だからこそ分かるリスクや指標を見つけていきたいと考えています。
数値を読み解き、新しい意味づけができたときに、この仕事の面白さを実感します。それもまた、私にとってのターニングポイントだったと言えるかもしれません。
プロフェッショナル集団を支える立場としての経営
――現在の組織体制について教えてください。
業務委託を含めて6名の体制です。規模としては決して大きくありませんが、全員がそれぞれの分野で経験を積んできたプロフェッショナルです。実は社内では私が最年少になります。
分析担当は三井記念病院で30年以上従事されていた方で、リタイア後に当社へ来てくださいました。まさに分析のプロ中のプロです。ほかにも、システムや経理など、それぞれが専門性を持ち、自分の領域を担っています。
――社員が自律的に動ける組織づくりで意識していることは何ですか?
特別な仕組みを設けているというより、もともと自走できる方々が集まっているという感覚です。例えばシステム面で必要なことは、私よりも詳しい専任の担当が提案してくれますし、経理担当もデザイン経験を活かして率先して形にしてくれます。
私は形式上トップですが、実際には皆さんに支えていただいている立場です。仕事を振ることはありますが、どちらかと言えば教えてもらうことのほうが多い。コミュニケーションを取るというより、「ありがとうございます」と伝える場面が多い組織だと思います。
それぞれが専門性を発揮し、自分の判断で動く。その前提があるからこそ、少人数でも事業が回っているのだと感じています。
――今後、どのような人材と一緒に働きたいと考えていますか?
現在の社員のように、検査の善し悪しを理解しながら、自ら考えて行動できる方です。課題を見つけ、改善策を提案できる視点を持つ人と働きたいと思っています。
東南アジアへ広げる挑戦――海外展開の狙いと意義
――今後取り組みたい新たな展開について教えてください。
現在は台湾と中国にパートナーがおり、検査を取り扱っていただいています。今後はそれを東南アジアへ広げていきたいと考えています。
毛髪を用いた検査という特性上、髪質の影響は大きな要素です。東南アジアの方々は黒髪で太さも比較的近いため、基準値が大きく変わらない可能性が高い。ヨーロッパのように髪質が大きく異なる地域よりも、まずは東南アジアで分析のシェアを高めていきたいと思っています。
――海外展開における課題と、その先に描くビジョンとは?
当初は言語の壁が課題でした。ただ、AIの進化によってその障壁は大きく下がっています。やらない理由がなくなったと言ってもいい。まずは挑戦してみるという姿勢で進めています。
海外展開の目的は売上だけではありません。各国のデータを集めることで、日本の特徴がより明確になります。すでにシンガポールやモンゴルなどでの取り組みから、日本特有の傾向は見え始めていますが、それをよりはっきりさせたい。
例えば、特定の疾患が地域ごとに増えている背景に何があるのか。その糸口を、ミネラルの傾向から探れるかもしれない。もし「この地域は水銀が高い」といった事実が明らかになれば、予防のための具体的な提案が可能になります。
大企業が存在する中で、当社が続ける意味は何か。それは、データを通じて位置づけを明確にし、社会に開示していくことだと考えています。会社として何を残せるのか。その問いを常に持ちながら、海外展開にも取り組んでいます。
革新と自己鍛錬――尊敬する存在と経営者としての整え方
――尊敬している方や、影響を受けた存在を教えてください。
まず父の存在は大きいですね。父は革新派で、次々と新しいことを提案していくタイプです。その発想力や先見性には、今でも学ぶところが多いと感じています。私はそのアイデアをどう形にするか、どう調整するかという役割を担うことが多く、対照的な立場だからこそ影響を受けているのだと思います。
また、当社の顧問である薬学博士の先生も尊敬している方の一人です。毛髪ミネラル検査に関する論文を書き続けてくださっており、その姿勢や研究への向き合い方は非常に勉強になります。
さらに、社員一人ひとりも私にとって学びの存在です。最年長は73歳で、経験を積まれてきた方ばかりです。私はまだ若い立場ですから、日々教えていただいている感覚のほうが強い。父や顧問、そして社員の皆さんがいるからこそ、会社が成り立っていると感じています。
――お休みの日のリフレッシュ方法を教えてください。
昨年の夏からランニングを始めました。妻に体型を指摘され、測ってみるとウエストがバストを上回っていたことがきっかけです。
そこから「ワンパンマン」という漫画のトレーニングを真似し、筋トレとランニングを始めたところ、気づけばランニングにハマり、約15kg減量できました。
今では大会に出場するまでになったんです。オンライン中心で座りっぱなしの毎日だからこそ、無心で走る時間が良い気分転換になっています。