縫製の灯を消さない承継経営――逆風の中で「日本製肌着」を守る清光ランジェリーの挑戦

株式会社清光ランジェリー 代表取締役  松本 良氏

株式会社清光ランジェリーは、「愛」を理念に掲げ、原材料から縫製・加工まですべて国内で行う日本製インナーにこだわる企業です。創業から受け継がれてきた思想を守りながら、M&Aによって事業を承継した松本氏は、国内縫製の存続という課題と向き合っています。本記事では、日本製への徹底したこだわり、生産背景の保守という使命、そして厳しい市場環境下での経営戦略について伺いました。

M&Aで承継した「日本製」専門メーカーの挑戦

――御社の事業内容と、事業を引き継いだ経緯を教えてください。

当社は、日本国内の縫製にこだわり、日本製品だけを扱う肌着メーカーです。原材料から縫製、加工に至るまで国内で行い、「Made in Japan」として安心安全な商品を届けることを軸にしています。海外製品は一切扱っていません。

もともと私は繊維業界とは畑違いの立場から入社しました。業界を知る中で、日本製が次々となくなっていく現実を目の当たりにしたんです。後継者がいないという事情もあり、廃業のタイミングでM&Aという形で事業を承継しました。

国内の縫製工場は、家族経営の家内工業が多く、仕事が減ればすぐに廃業に追い込まれます。企業が海外に生産を切り替える中で、国内の生産背景が崩れつつある。その流れを少しでも食い止めたいという思いがありました。自社工場を大きく抱えるのではなく、アウトソーシングで業務委託し、固定費を抑えながらスタートしたのは、そのためです。

――なぜ「日本製」に徹底してこだわるのですか?

日本製にこだわる理由は、生産背景の保守にあります。縫製工場がなくなれば、人材も育たず、技術も継承されません。今、現場を支えているのは後期高齢者の職人が多く、このままでは本当に続かないのではないかという危機感があります。

大手企業が海外へ切り替えていく中で、当社はあえて逆を行く選択をしました。労働環境を守るという意味もありますし、日本人が日本の生産者から供給された商品を使う世界であってほしいという思いもある。単なる商品戦略ではなく、ものづくりの国としての日本を守る意識が根底にあります。

価格競争の中で戦う、日本製インナーの現在地

――大手が海外生産を進める中で、御社の価格はどのように受け止められていますか?

正直に言えば、当社の商品も決して安いわけではありません。「衣料品」という枠で見ると、日本製はどうしても価格が高くなります。実際に小売店からも「結構お高いですね」と言われることはあります。

ただ、GMSやネットで販売されている価格帯と比べると、海外製品の品質も向上してきています。その中で日本製を選ぶのは、主に年配のアッパー層です。

若い世代は海外製か日本製かを強く意識しない傾向がありますが、肌に直接触れるインナーに関しては、肌当たりや安心感を重視される方が一定数いらっしゃいます。

価格だけで競うのではなく、直接身につけるものだからこそ求められる安心安全という価値を、どれだけ理解していただけるかが重要だと感じています。

――物価高の中で、どのように生き残りを図っていますか?

物価高が続く中、「衣・食・住」の特に「衣」の部分は節約対象になりやすく、消費は冷え込んでいます。

だからこそ、当社が生き残る道は、日本製マーケットのシェアを取ることしかありません。海外製と併売している企業も多い中、当社は日本製一本です。

本来であれば値上げしたいところですが、今期も価格は据え置きました。体力勝負という状況です。他社で日本製の取り扱いがなくなる中、「御社でお願いできないか」という声を集める。それが今の現実的な戦略です。

「愛」と「思いやり」を軸にした商品づくり

――御社の理念やビジョンについて教えてください。

理念は「お客様の笑顔」です。愛ある商品、思いやりのある肌着を届け、笑顔になってもらう。それに尽きます。

創業から受け継がれている「愛」という言葉は、今も変わりません。小規模な企業だからこそ、一人ひとりの思いを形にできるものづくりを大切にしています。規模で勝負するのではなく、思いで勝負するという感覚です。

――商品企画で大切にしていることは何でしょうか?

「思いやり肌着」を掲げている以上、綿100%にこだわり、機能性のある糸を用いるなど、肌への配慮を徹底しています。

素材選びや色バランスも、お客様のニーズに合わせて考えます。大量生産ではなく、一人のために企画する感覚を忘れない。着た瞬間に安心感があるかどうかを基準にしています。

縮小市場での戦略転換と販路の再構築

――ECや問屋との連携など、販売戦略はどのように変化していますか?

私が承継して2年目になりますが、創業は約60年続いてきた会社です。社名も商品も残しながら、そこにプラスアルファを加える段階にあります。

以前は小売店を直接回っていましたが、一人社長として営業も兼ねる中で、そこまで手が回りません。そこで、中間問屋や商社の力を借り、販売マーケットを広げてもらう方向に切り替えました。

また、ECサイトを本格的に動かしています。小売店が閉店し、購入先を失ったお客様がEC経由で買ってくださるケースが増えている。今はその流れを大切にしています。

――海外展開や新たなターゲット層へのアプローチは考えていますか?

アジア圏では肌着文化が根付いているため、韓国の百貨店などと取引をしたこともあります。ただ、回転率の問題で撤退しました。越境の難しさは経験しています。

肌着インナーは間口が狭く、アパレルのようにブランディングしてグローバル展開する商品とは性質が異なります。ターゲットを無理に広げるより、既存顧客を守るほうが現実的だと考えています。

――高齢者施設や医療機関など、BtoB領域への展開についてはどのようにお考えですか?

当社のターゲットはアッパー層であり、かつ高齢化社会という背景を考えると、高級老人ホームや医療機関といった領域は自然な発想だと思います。実際に、老人ホーム内で催事を行う業者の方々とお話をしたこともあります。

ただ、現実にはコストの壁があります。病院ではいわゆる「CSセット」のような仕組みがあり、消耗品や日用雑貨は導入されやすいのですが、肌着はどうかというと優先順位が高くありません。パジャマやリネン類は必要でも、インナーまでセットに含める必然性が弱いのが実情です。

インナーは「なければ困る」けれど、「圧倒的に必要」という位置づけではない。そのため受注生産に近い形になり、単価やロットの面で折り合いがつきにくくなります。小ロットで提案しても、最終的に海外製品に切り替わることも多い。日本製を守りたい気持ちがあっても、BtoBの現場では価格が大きな判断基準になる。そのもどかしさは常に感じています。

耐える経営と次の一手――官公需への挑戦

――現在取り組んでいる新たな施策などはありますか?

大きな挑戦というより、まずは「耐える」という姿勢が前提にあります。その上で打った一手が、官公需への参入です。全省庁統一資格を取得し、官公庁からの依頼を受けられる土俵には立ちました。まだ承継して2年目ということもあり、機会が巡ってくる可能性に備えている段階です。

コロナ禍でのマスク供給のように、官公庁経由で動く案件は一定の役割を持ちます。そうした機会が来るまでは、ECを軸に認知を広げるしかありません。知ってもらう環境づくりと、足で動く営業の積み重ねが現実的な施策です。

加工賃の仕事も受けています。ウェディングドレスの部品加工など、数十円単位の案件もありますが、それはあくまで補完的なものです。最終的には「清光ランジェリー」というブランドをいかに守り続けられるかが、本質的なテーマだと考えています。

――厳しい環境下で、どのような覚悟で経営に向き合っていますか?

正直に言えば、今の経済状況の中で大きな理想を語るのは簡単ではありません。ただ、私の中にある思いははっきりしています。「日本人は日本製品を使おうよ」と自然に言える社会に戻ってほしいということです。

さまざまな事情で海外製品に頼る現実は理解しています。それでも、かつてのように、日本人が日本の生産者から供給されたものを選び、それを身につけて暮らす。そんな循環がもう一度生まれてほしいと思っています。

デジタル化が進み、効率化や自動化が重視される時代ですが、ものづくりにはアナログでしか成り立たない部分がある。人の感性や手の感覚は、機械では代替できません。廃業や合併のニュースが相次ぐ中で、元々あった「ものづくりの日本大国」という姿を守りたい。その思いを胸に、日々経営と向き合っています。

仕事に向き合い続ける日常とリフレッシュ

――お休みの日のリフレッシュ方法を教えてください。

実は、別事業として個人事業も行っています。一時期話題になった改良メダカや多肉植物を扱っており、趣味の延長のような形で運営しています。大規模ではありませんが、道の駅と連携して販売会を行ったり、催事に出たりすることもあります。

完全に仕事から離れるというよりは、違う分野で手を動かしている感覚です。とはいえ、生活の中心はやはり仕事ですね。1に仕事、2に仕事、3と4はなくて、5に仕事という毎日です。それでも、自然や生き物に触れる時間は、気持ちを切り替える大切な時間になっています。

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