音楽を“続ける人生”をつくる――富山ジュニアオーケストラが目指す未来
一般社団法人富山ジュニアオーケストラ 代表理事 大田 和樹氏
一般社団法人富山ジュニアオーケストラは、富山県内の子どもたちを対象に、オーケストラとコーラスを通じた音楽教育に取り組む団体です。コロナ禍で音楽活動が制限される中、「待つのではなく、新しい挑戦を」という思いから立ち上げに踏み出したのが大田氏でした。社会人オーケストラの運営経験を背景に、富山に不足していた子ども向けの音楽の場を築き、現在は活動の拡大とともに、資金や運営体制の課題にも向き合っています。本記事では、大田氏に事業の背景や運営の実情、今後の展望について伺いました。
目次
子どもたちの成長を支える音楽教育事業
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
主な事業は、富山県内の小中高生を対象としたオーケストラとコーラスの指導・育成です。子どもたちが継続して音楽に取り組める環境を整えることを軸に活動しています。
その上で、外部からの演奏依頼の対応や、イベントの企画、また音楽関係の企画の一部受託なども行っています。ただ、あくまで中心にあるのは指導と育成であり、すべての活動はそこにつながる形で広がっているイメージです。
コロナ禍をきっかけに始まった挑戦
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
2020年のコロナ禍が大きな転機でした。それまで趣味で楽器を続けていましたが、活動が制限される中で、ただ状況が落ち着くのを待つだけではもったいないと感じたんです。
誰でもできる選択ではなく、このタイミングだからこそ何か新しいことに挑戦してみようと思いました。そこで新しくヴァイオリンを習い始めると同時に、活動を続けたい人たちと一緒に、社会人向けのアマチュアオーケストラを立ち上げました。
もともと経営を目指していたわけではありませんが、音楽を続けるための場を自分でつくるという選択が、結果的に今の活動につながっています。
――どのような経緯で、ジュニアオーケストラの立ち上げに至ったのでしょうか?
社会人オーケストラの活動を続ける中で、ヴァイオリン教室の先生と話す機会がありました。その中で「富山にはジュニアオーケストラがない」という話題になったんです。
必要性は広く認識されている一方で、運営できる人がいないという状況でした。
自分はすでにオーケストラを立ち上げた経験があり、関係者とのつながりもあったことから、「それなら一緒にやってみませんか?」とお声がけしたのが始まりです。
そうした流れの中で立ち上がったのが、現在のジュニアオーケストラの活動になります。
少人数運営で支える組織体制
――現在の組織体制について教えてください。
組織としては、私一人で運営しています。いわゆる社員という形で関わっているのは自分だけです。
一方で、指導にあたる講師の方や演奏エキストラの方々には都度関わっていただいており、業務委託という形ではなく、その月の稼働に応じてお支払いする形で支えていただいています。
生徒は現在およそ100人ほど在籍しており、講師は30人程度です。
スポンサー企業については小口が中心で、約20社にご支援いただいています。こうした多くの方々の関わりによって、活動が成り立っている状況です。
資金課題と向き合いながら進める運営と改善施策
――現在、どのような課題を抱えていますか?
そもそもオーケストラやコーラスは収益事業として成立しづらい側面があります。こうした団体は自治体や外郭団体が主体となるケースが多く、収益構造としては税金や助成金に依存しやすい環境です。
さらに対象が子どもということで、学校の部活動をイメージしていただけると分かりやすいですが、音楽活動は教師の方々の人件費・時間拘束をボランティア的な要素ありきで成り立たせていた側面も大きく、そして楽器の費用や活動場所の確保といったハードルも高い。結果として、人を増やすことや場所を確保するための資金づくりが難しい状況です。
現状としては、私自身の報酬以外はなんとか回せているものの、そこまで手が回っていないというのが正直なところです。この事業の在り方自体を変えていく必要も感じています。
――課題解決に向けて取り組んでいることは何ですか?
まずは団員数を増やすことが重要だと考えています。安定した収益につなげるためにも、今いる子どもたちに「団費以上の価値がある」と感じてもらえる環境づくりに力を入れています。
例えば、毎回の練習に複数の指導者が関われるようにしたり、練習しやすい環境を整えたりと、活動の質を高める工夫を重ねています。楽器も始めやすくなるよう、少しずつ備品の整備も進めています。
単に所属するだけでなく、しっかりと価値を感じてもらうことが、結果的に人の増加につながると考えています。
――スポンサー開拓についてどのように進めていますか?
スポンサーについては、知人の紹介などを通じて少しずつ広げています。経営者の方を紹介していただき、直接お話しする機会を作る形です。
提案の際は、活動内容や今後の展望を正直にお伝えしています。ただ、このような活動は明確なリターンを提示しづらい面もあり、簡単ではないと感じています。
現状では限界も見えているため、今後の進め方については模索しているところです。
音楽を続ける人を増やすために――今後の展望
――今後の展望や目標を教えてください。
一番の目標は、オーケストラやコーラスの活動を通じて、大人になっても音楽を続ける人を一人でも多く増やすことです。
吹奏楽などはコンクールをきっかけに燃え尽きてしまい、そのままやめてしまう人も少なくありません。競争意識が高い学校ほどその傾向は強いと感じています。
音楽のもつ魅力を文章だけで伝えることは難しいです。何百年と残り続けてきた作品に対して、真摯に向き合い再現する活動は、いつまでも続けていく価値があるということを伝えていきたいと考えています。
現在は県内での活動が中心ですが、今後は県外の団体とも連携しながら広げていきたいと思っています。
――理想とする組織の姿はどのようなものですか?
生徒数としては、現在の約100人から200人規模へと拡大していきたいです。
一方で、組織としては経営者に依存しない形を目指したいと考えています。最終的には自治体や外郭団体との統合といった形で、恒久的に存続できる仕組みにしていくのが理想です。
この活動で利益を追求したいという考えはなく、社会にとって必要な存在として続いていくことが重要だと思っています。そのためにも、実績を積み重ね、数字面も整えていく必要があります。
音楽とともにある日常――仕事とリフレッシュが重なる感覚
――仕事以外でのリフレッシュ方法や大切にしている時間はありますか?
もともと音楽が趣味なので、この活動を仕事と完全に切り分けて考えている感覚はあまりありません。自分の中ではひとつの大きな括りになっていて、仕事でありながらリフレッシュにもなっている存在です。
何か別のことをして気分転換するというよりも、音楽に関わっている時間そのものが、自分にとって自然なリズムになっています。そうした状態だからこそ、無理なく続けられているのだと思います。
――最後に、これを読んでいる方にメッセージをお願いします。
自分も数年前までは、こうした立場になるとは思っていませんでした。人生は何が起こるか分からないものです。
大変な状況に直面することもあると思いますが、そういう時こそチャンスだと感じています。ぜひ積極的に挑戦していただけたらと思います。