「世界に誇る最高の技術」を守り、老舗を未来へつなぐ第二の創業

株式会社銀座テーラーグループ 代表取締役会長 鰐渕 美恵子 氏

銀座テーラーグループは、1935年創立の歴史を持つ、手縫いの洋服づくりを主軸とする会社です。創業者が築いた「世界に誇る最高の技術」という言葉を大切にしながら、時代の変化に合わせて歩みを重ねてきました。今回の取材では、代表取締役会長として組織を牽引する鰐渕氏に、企業のこれまでの歩みや理念、今後の展望などについて伺いました。

絡まった毛糸を一つずつほぐすように、危機から始まった第二の創業

——御社の歩みについて教えてください。

銀座テーラーは1935年に創立。手縫いの洋服を制作している会社です。戦前に会社ができ、創業者が銀座テーラーの基盤を作りました。その後、二代目である私の主人が継いだのは、ちょうどバブルの時代が来た時期です。

銀座界隈で不動産を持っている会社には、金融機関から大きなお金が動くようになり、実態よりも大きな借入金を抱えることになりました。ところがバブルがはじけると、返済するための実態がなく、倒産する会社が増えていくという事態に陥ったのです。

その最中に、私も会社に入って手伝うことになりました。名前はあるけれど「ないない尽くし」の状態でした。今までの経営方針ややり方では、とてもその波を乗り越えられない。洋服を作ろうという人自体がいなくなってしまった中で、洋服を売らなければならなかったのです。

当時の会社は、絡まった毛糸の玉のような状態でした。それを一つひとつほぐしていくように、再建に取り組みました。30人いた営業マンも、会社の危機を感じたのだと思います。次々に辞めていき、最終的には残った従業員と私の3人で再建することになりました。

——理念について教えてください。

理念として大切にしているのは、創業者が残してくれた「世界に誇る最高の技術」という言葉です。これをスローガンとして、常に守らなければならないと考えています。「世界に誇る最高の技術」とは何なのかを追求し続けることが、私たちの軸です。

戦後には「高松宮賞」を二度いただきました。また、世界洋服業界の大会には日本代表として4年に一度、4回出場しています。

巨人の一軍選手のユニフォームを手縫いで縫っていた時代もありましたし、スカルノ大統領がお作りになりに来られたこともあります。そうした歴史を整理し、誰が携わってきたのかを基盤にして、新しいブランディングを行いました。

信念を背骨に、技術と人を育てる

——経営者として大事にしていることを教えてください。

価値観として一番大切にしているのは、「世界に誇る最高の技術」というスローガンを曲げないことです。私は社是も作りました。その中には「お客様の幸せづくりを第一と考えます」という考えがあります。

社員の方々にも浸透するようにし、まずは精神性、会社の背骨となる部分を作っていきました。そして、綻んでいるところを直していくことから始めました。

社長として就任したのは2000年です。そこから、老舗と呼ばれるベンチャー企業を目指そうと考えました。

手紙と鍋から始まった、顔の見える組織づくり

——社員との関係性や、社内コミュニケーションで大事にしてきたことを教えてください。

当時は、営業が少なくなった分、職人の数の方が多くなりました。技術のところだけは人をカットせず、そのまま継続しています。職人は仕事が終わった後に一杯飲みたいものですから、1週間に一度、私がお鍋を作って、一升瓶を持っていき、「ご苦労さん」というような形で意思の疎通を図るところから始まりました。

また、一人ひとりに手紙を書いたこともあります。この会社に何を望んでいるのか、自分がどういうことをしたいのか。こちらからは、その技術者に何を望んでいるのか、どういうことをやってもらいたいのかを書き、手渡して意思の疎通を図りました。

現在は、以前のように頻繁に一緒に食事をすることは少なくなりました。ただ、期の終わりや、長く勤めた人が辞める時、新しく入ってくる人がいる時などには、食事会をするようにしています。

洋服を超えて、人が求める価値を形にする

——今後の展望や、挑戦していきたいことを教えてください。

売り方について言えば、30年ほど前はブランドが出始めの頃でした。しかし今の銀座は、ブランドだらけです。ブランドでなければ洋服が売れない時代が来たと思います。

西洋から来ているブランドには、一着の服を何百万円として売る力があります。その力がどこにあるのかを、私たちも学び、参考にしなければならないと考えています。

また、将来に向けて一番大切なのは、職人を作っていくことです。今の若い方は、30年前に学校を出た方とは考え方が違います。家でやりたい、好きな時にやりたいなど、いろいろな働き方があります。そこはお互いに話し合っていけばよいと思います。ただし、技術に関しては妥協しません。

——今後のブランディングについてはどう考えていますか?

ブランディングについては、単なる洋服作りだけではなく、人的なネットワークを会社の関係の中で作っていくことも大切だと考えています。2010年には、若い経営者に向けて、社会で起きていることや日頃聞けない話を聞くための勉強会として「平成サムライ塾」を作りました。

東京大学名誉教授の藤原帰一さんとともに、最初は10名ほどから始め、今も続いており、75回目になっています。講師にお呼びするのは、ほとんどが実際の経営者です。

学校の先生ではなく、大使など、現実に世界で自分が体験していることを、自分の口で話してくださる方をお呼びしています。そこから参加者がエスプリを得たり、次の代のことを考えたりして、それぞれの道をつけていくのではないでしょうか。

挫けない心を支えた言葉と、日々の体づくり

——影響を受けたことについて教えてください。

負債を負っていた会社の負債を返すために、60代半ばぐらいまで銀行と交渉をしてきました。どんなことがあっても挫けない、雑草のように跳ね返すということは『三国志』から学びました。

そして、辛い時には、映画『風と共に去りぬ』を観ました。「明日はまた違う日が照るのだ」という言葉を心に入れて頑張ってきた過去があります。

——企業としての将来についてどう考えていますか?

会社経営においては、人間がどう生きるかということに突き詰められるのではないでしょうか。信念のないところはだめですし、そして、これから先に必要とされるものでなければだめです。

必要か必要でないかは相手が決めます。売れないというのは、相手が悪いのではなく、自分の方に売れるものを出していないということです。

目の前の5年から10年の中で、人間の社会の中で何が必要とされるのか、何を欲しいと思われるのか。それを現実にものにしたり、ストーリーにしたりしたものが売れるのではないでしょうか。

——日々の過ごし方について教えてください。

体力のことを考え、1週間に一度は必ずトレーニングを受けています。また、今まで運転を担当していた方がお辞めになったこともあり、できるだけ公共交通機関を使い、歩くようにしています。目標は1日5000歩です。これを毎日継続するように心がけています。

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