B型福祉の常識を破る「人として向き合う」誠実な支援
一般社団法人カケル サービス管理責任者 小西 恵氏
障害を持つ人々が自立を目指し、それぞれのペースで作業に取り組む「就労継続支援B型事業所」。福祉の現場では「優しく見守る居場所」としての役割が強調されがちですが、千葉県にある一般社団法人カケルは、一線を画す独自の哲学で運営されています。
障害を理由に甘えさせず、一人の人間として正面からぶつかり合う情熱的な支援スタイルは、なぜ多くの利用者や企業から選ばれ続けているのでしょうか。小西氏の歩みと、福祉の本質に迫るお話を伺いました。
目の前の利用者に寄り添う「居場所」
――まずは、一般社団法人カケルが運営するB型事業所の現状や、取り組まれている事業の特色について教えてください。
私たちは2024年7月に開設した、まだ若い就労継続支援B型事業所です。現在は職員4人の体制で運営しています。大きな特色としては、千葉県内で初となる「フードバンク事業」との連携が挙げられます。この連携によって、利用者さんに支払う工賃(作業報酬)の安定化を図っています。また、私の実家が米農家を営んでいるため、お昼の時間には実家のお米で作ったおにぎりを利用者さんに提供しているのも、うちならではの特色ですね。
私がもともと福祉業界の人間ではないこともあって、少し変わった内職も取り入れています。もちろん、一般的なB型事業所と同じように、シール貼りといった内職も豊富にあります。最近では社会福祉協議会からのご依頼で、アンケートのデータ入力や、年に数回発行される社協だよりの配達作業なども、利用者さんと職員が一緒になって取り組んでいます。
――ホームページに「自分たちなりに誰かのために活躍できる場所を育む」とありますが、理念やビジョンにはどのような思いが込められているのでしょうか。
障害を持っている方は、どうしても外に出づらい現状があります。社会側が採用に消極的であるケースもあれば、逆に障害を持つ側が「障害があるから、この程度でいいや」と甘えてしまうケースもあります。少しでも社会と繋がり、「ありがとう」と言ってもらえる仕事を通じて社会の一員となっていく。利用者さんにとって働きやすく、通いやすく、そして本当の意味での「居場所」になれるよう、日々全力で向き合っています。
利用者ファーストを貫くための「厳しい現実」の伝え方
――小西さんが福祉の世界に入り、経営の道を歩まれるようになったきっかけを教えてください。
私の母がずっと福祉の仕事をしていて、その大変さを間近で見て育ったので、「こんなに大変な仕事は私は絶対にやらない」と心に決めていました。
ところが、偶然知り合った方が「この場所で福祉事業を立ち上げたい」とおっしゃって。これも何かの縁だと思い、最初は軽い気持ちでお手伝いすることにしたんです。いざ始まってみると非常に忙しくなり、そこからは、事業を回すために必死でしたね。
――これまでの2年間で多くの決断をされてきたと思いますが、経営判断や支援における「軸」となっている信条や価値観は何ですか?
「利用者さんファースト」であることです。もちろん、会社が潰れてしまうような無理な資金繰りはできませんが、意思決定の基準はすべて「利用者さんのためになるか」「どうすれば働きやすく、通いやすくなるか」に置いています。
ただし、私たちの役割はただ優しく甘やかすことではありません。利用者さんの中には、最初は自分の要望ばかりを求めてしまう方も少なくありません。もちろん個人の得意・不得意は配慮しますが、「仕事だからやろうね」という境界線はしっかりと引きます。時には厳しい現実を突きつけなければならない局面もあります。うちの事業所は「その先を見据えた支援」をしたい。いつか社会に出て、自立してほしいという明確な目標があるからこそ、あえて厳しいことも伝えています。
B型だからこそクオリティで舐められてはいけない
――組織の運営や、職員・利用者さんとのコミュニケーションで心がけていることはありますか?
ビジネスライクに割り切って「波風を立てないように淡々と接する」ということはしません。障害を持っている方は、これまで周囲から過剰に配慮され、囲われて育ってきたケースが多いように感じます。配慮は当然大切ですが、その前段階として「人としてどうあるべきか」をうちの現場で学んでほしい。だから、良くない行動があれば本気で怒りますし、頑張ったときは全力で褒める。家族のようなメリハリのあるアットホームさを大切にしています。毎日これだけ本気でぶつかっているのに、利用者さんがうちの事業所から離れていかないのは、きっと居心地の良さを感じてくれているからだと信じています。
――職員の育成や、一般企業から移ってきた方への意識改革についてはどのように取り組まれていますか?
一般企業から福祉の世界に転職してきた方が一番最初に直面するギャップは、「工賃」の低さなんです。私は最初にそこを変えてもらいました。職員が「どうせ1円にもならない作業だからこの程度でいいや」という甘い気持ちでいると、それは必ず利用者さんに伝染します。そして、利用者さんも適当に作業するようになり、成果物のクオリティが下がってしまう。
「クオリティはこの程度で初詮はB型だよね」と世間から舐められるような仕事は、絶対にしないでほしいと職員にも利用者さんにも常に伝えています。これはB型だからとかではなく「確かなクオリティ」という信頼が不可欠だからです。クオリティの高い仕事を納品すればまた次の依頼に繋がります。2年間続けてきて、内職の契約を継続してくださる企業様が多いことが、私たちのやり方が間違っていなかったという何よりの答え合わせだと思っています。
地域に根ざし、人との縁を紡ぎ続ける未来
――今後の展望や、これから新しく挑戦していきたいことについてお聞かせください。
地域の方々との交流を大切にしており月に1回、一般の方を対象にした無料の「バスボム作り体験」を開催しています。「障害者」と聞くと、ニュースなどのイメージから「突然大声を出すのではないか」などと身構えてしまう方もまだいらっしゃいます。でも、こうして日常的に触れ合うことで知ってもらうきっかけになり、生きづらさを抱えている人が、精神障害者保健福祉手帳を取ったからといって「もう普通の社会には戻れない」と絶望するのではなく、「手帳を持っていても、自分の居場所はちゃんとここにある」と思える社会にしたいです。
――経営、そして人生において最も大切にされている信念をお聞かせください。
「人との繋がり、ご縁を大切にすること」です。お客様である企業様はもちろん、他の事業所さんや私に関わってくれた人は、大切なご縁だと思っています。福祉の現場では、時には激しいトラブルが起きたり、私自身が怪我をしてしまうような大変な瞬間もあります。それでも、向こうがうちを必要としてくれているうちは、絶対に手を離しません。
――お休みの日などのリフレッシュ方法を教えてください。
少しワークホリック気味で、24時間365日いつも仕事のことを考えてしまいますが、家族と過ごす時間や、我が家で飼っている1匹の日本石亀(イシガメ)の愛くるしい姿に日々癒されています。