受け継いだ技術で新しい市場を切り拓く――巴屋清信有限会社の挑戦
巴屋清信有限会社 取締役社長 清信浩一氏
巴屋清信有限会社は、創業76年目を迎える菓子製造販売の会社です。主力商品「宮島さん」をはじめ、広島の素材を活かした商品づくりに取り組んできました。近年では、牡蠣や魚、鶏肉をプレスして焼き上げる独自技術「しぼり焼」によって、新たな市場を開拓しています。本記事では、取締役社長の清信浩一氏に、事業の歩みや商品開発、組織づくり、今後の展望について伺いました。
受け継いだ会社を、地元に愛される存在へ
――現在の事業内容や、これまでの歩みについて教えてください。
当社は創業から76年目ほどになります。もともとは父の会社で、私は神奈川で仕事をしていましたが、会社をやめるかもしれないという話を聞き、戻ってきました。
当時は「宮島さん」という商品がありましたが、広島ではもみじ饅頭が非常に強い時代でした。お土産として外へ売るだけではなく、いかに地元の方に食べていただくかを考え、スーパーや百貨店など、地元の方が自分のために買う売り場へ提案していきました。百貨店のお中元や歳暮のカタログにも入れていただき、単なるお土産ではなく、地元のおいしいお菓子として育ててきた感覚があります。
――新しい商品開発には、どのように取り組まれてきたのでしょうか。
小麦粉の煎餅という商品だけで食べていけるのかという不安は、入社当時からありました。そんな中、隣町の牡蠣屋さんから「牡蠣を焼いて煎餅にできないか」と相談を受けたのがきっかけです。
最初に試したときは非常に良いものができ、「これはいける」と思いました。しかし、商品化しようと本格的に研究を始めると、同じものがなかなかできませんでした。加工や焼き方を試行錯誤し、賞味期限も含めて満足できるものにするまで、1年半ほどかかりました。
牡蠣の煎餅だけでは広がりに限界もありましたので、広島の市場の方と協力して、広島で獲れる魚を使った商品も作りました。それが「海鮮しぼり焼詰め合わせ」です。1枚1枚丁寧に焼き、高級感のあるパッケージにして販売しました。
「しぼり焼」が生んだ独自の強み
――他社にはない強みは、どのような点にありますか。
牡蠣の煎餅は、牡蠣の産地であれば誰でも考えると思います。ただ、実際に商品として形にできていないということは、当社の煎餅にする技術が特殊なのだと思っています。
同じ機械で魚も加工しますし、鶏肉も加工します。この技術を私は「しぼり焼」と名づけ、商標も持っています。そこが、他社には真似できない部分だと思います。
――コロナ禍では、どのような対応をされたのでしょうか。
コロナ禍では、観光土産の売上が大きく落ち込みました。百貨店や高速道路、広島駅などの売り場は厳しくなりましたが、スーパーだけは賑わっていました。そこで、スーパーで売れる商品を作ろうと考えました。
その時に生まれたのが「チキンチップス」です。広島県産のブランド鶏を使い、しぼり焼の技術で鶏肉をプレスして焼き上げました。発売後、著名な方がおやつとして食べていると紹介してくださり、全国から注文をいただくようになりました。現在は香港のコンビニでも販売され、毎日忙しくしています。
家族的な雰囲気を大切にする組織づくり
――社内コミュニケーションで大切にしていることは何ですか。
大人数の会社ではありませんので、家族的な雰囲気を大事にしています。よく言うのは、本当に昭和のような雰囲気です。手を止めなければ話をしてもいい、というやり方をしています。
みんな仲良く、和気あいあいと働いてもらうことを大切にしています。私もほとんど怒ることはありません。その雰囲気が働きやすさにつながっているのか、辞める方が少ないことは自慢できる部分です。
――採用の際に重視していることはありますか。
話しやすい方、輪に溶け込める方を大切にしています。製造の仕事であっても、黙々と作業するだけではなく、周囲と自然に関われることは大事です。
もちろん、人と接するのが苦手な方もいます。そういう方にもこちらから話しかけたり、笑わせたりしながら、長い目で見て「昔よりよく話すようになったな」と感じられるように関わっています。楽しく勤めてもらうことを、私自身のモットーにしています。
食品をプレスする会社へ
――今後の展望について教えてください。
今は、東京進出を一番に目指しています。「宮島さん」や手焼きの煎餅を、なんとか東京まで持っていきたいと考えています。その次には、商品を輸出できるように準備しているところです。
――現在、向き合っている課題はありますか。
何もしなければ、来年は今より売上が落ちる時代だと感じています。だからこそ、毎年販売店を増やしたり、新商品を投入したりしながら、必死に売上を伸ばしています。
一方で、商品が大きく当たった時に、工場のキャパシティや従業員数の問題で受けたくても受けられない状況が来るかもしれません。工場のレイアウト変更や移転、機械化なども日々考えています。
今は、ただの煎餅屋から、魚や鶏肉など食品をプレスする会社へと業態が変わってきています。食品のプレス屋として確立させることが、今の一番の課題です。
手作りを守り、勇気を持って踏み出す
――これからも変えたくないことは何でしょうか。
手作りでやり続けることです。「宮島さん」は機械で作っていますが、それ以外の商品は人が1枚1枚焼いています。
新商品を出すと、大手がすぐに真似をするという話もあります。ただ、当社は小さい会社だからこそ、大手にはできない作り方ができます。人の手が必要な技術を大事にしながら、大手に真似できないものづくりを続けていきたいです。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
私は親から引き継いだ会社を守るために、煎餅屋を大きくするというより、煎餅屋が持っている技術で食品に踏み出してきました。外から見れば、はちゃめちゃに見えることもあったと思います。
それでも、勇気を持って一歩踏み出せば、道は切り拓けると思っています。意外になんとかなるものです。皆さんにも、ぜひ頑張って挑戦してほしいです。