世界の現場課題に向き合う――キャニコムのものづくり

株式会社筑水キャニコム 代表取締役社長 包行 良光氏

400年続く刀鍛冶の精神を受け継ぎ、「使う人の身になったものづくり」を続けてきた株式会社筑水キャニコム。運搬車や草刈機を中心に、農業や林業のボヤキ(困りごと)を解決する製品を国内外へ展開しています。現在は世界56カ国でブランドを展開し、地域課題に合わせた製品開発にも注力。本記事では、代表の包行氏に、海外戦略や経営観、社会課題に向き合うものづくりの考え方について伺いました。

世界市場を見据えた“現場起点”のものづくり

――現在の事業内容や特徴を教えてください。

当社は製造業として、「運搬車」と「草刈機」を主軸としたものづくりを行っています。実際に現場で使われる製品を自社で開発から製造まで行っている点が特徴です。

国内では造園業者さんやプロ農家さんを中心に使っていただいており、海外ではランドスケーパーや施設管理、河川の草刈りを行う造園業者さんなどが主なお客様になります。現在では、海外売上が全体の約半分を占め、事業の柱の一つとして成長しています。

また、農業や林業など第一次産業における省力化にも力を入れています。単に機械を販売するのではなく、現場の課題をどう解決するか、作業体系そのものをどう変えていくかという視点を大切にしています。

――現在注力している取り組みについて教えてください。

世界的に農業従事者が減少する中で、「少ない人数でも成立する現場づくり」に注力しています。外国人労働力の不足も深刻化しており、従来のやり方だけでは維持できない状況になっているんです。

そのため、単なる機械化ではなく、省力化や安全性向上につながる新しい作業体系の提案が必要だと考えています。これまで当たり前だった作業を見直し、現場の働き方そのものを変えていくことが、今後のものづくりにおいて重要になると思っています。

海外展開切り拓いたキャニコムの成長戦略

――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。

2004年、24歳の時に入社しました。当時は国内売上が95%を占めており、海外は5%程度でした。ただ、国内市場だけでは将来的な成長が難しいという危機感があったんです。

そのため、2001年頃から「キャニコム」という自社ブランドで海外展開を始めました。それまではOEM中心でしたが、自分たちのブランドで勝負する方向に転換していったんです。

私は2004年から海外に出て、2010年に日本へ戻りました。その後、ものづくりの基盤をより強くするために経営へ深く関わるようになり、2015年に社長へ就任しました。

――海外展開を進める中で、どのような変化がありましたか?

一番大きいのは、「現場を見ながら変化し続ける必要がある」と感じたことです。

例えば農業も、昔は一人では管理できなかった規模を、機械化によって一人で運営できるようになっています。製品の所有形態も、個人所有から共同保有やレンタルへ変わっていくと思います。

製造業は変化が少ないと言われることもありますが、実際には政策や世界情勢によって大きく変わります。だからこそ、柔軟性を持ち続けることが重要なんです。3年後には今のラインナップがすべて変わっている可能性もある。そのくらいの感覚で考えています。

“ボヤキを具現化する”独自の製品開発

――地域ごとに異なるニーズには、どのように対応されていますか?

地域ごとに産業構造や課題が違うので、それぞれに合わせたものづくりをしています。

例えばマレーシアでは、最大作業能力5tの不整地運搬車「ムーンサルトダンパー」がパーム油の収穫で活用しています。以前は馬や牛で運んでいたものを機械化することで、収穫量や安全性が大きく改善されました。

また、タイではドリアン栽培向けに、現場のニーズに合わせた乗用草刈機を展開しています。現在、タイではドリアンの中国向け輸出が急速に伸びており、その需要に合わせた製品開発を進めています。

その地域の産業や課題に合わせて機械を開発することが、今後さらに重要になると思っています。

――特に御社は、ネーミングが特徴的ですよね。

製品のネーミングは、現会長である父が手掛けています。もともとは、中小企業として「どうやって目立つか」という発想から始まりました。

国内では「クスッと笑ってもらう」ことを大切にしています。一度聞いたら忘れないネーミングにすることで、製品への親しみも生まれると思っています。

ただ、面白さだけではなく、そこには現場への想いがあります。私たちは「お客様のボヤキ(困りごと)を具現化する」という考え方を大切にしていて、お客様の困り事をどう解決するかを常に考えているんです。

――事業を通じて、社会をどのように変えていきたいですか?

農業や林業の「作業体系」を変えていきたいと思っています。ただ、高い機械を売るだけでは意味がありません。なぜ必要なのか、どう社会課題を解決できるのかまで含めて伝えていく必要があります。単なるメーカーではなく、ストーリーテラーのような存在でもありたいですね。

“決めたことはやり切る”経営哲学

――経営者として大切にしている考え方を教えてください。

私自身は、社員を支えるバランス型の経営を意識しています。

ただ、譲れないのは「決めたことは必ずやる」ということです。父は「1000億を目指せ」と大きな目標を掲げるタイプですが、私はそこへ向かうためのマイルストーンを一つずつ積み上げていく考え方です。

高い目標を設定しながらも、地に足をつける。社員が自信を持ってものづくりに取り組める環境を作ることが、自分の役割だと思っています。

――2030年に向けた目標と課題を教えてください。

2015年に社長へ就任した時から、「ビジョン300」という考え方を掲げています。

「100年企業」「100カ国取引」「100億売上」という3つを軸にしており、海外展開に注力したことで売上100億は突破しました。今後は2030年に向けて、150億から200億を目指しています。

ただ、そのためには組織力が必要です。特にエンジニアの確保と育成は大きな課題ですね。現場の課題を具現化できる開発力は、これからさらに重要になると思っています。

また、世界情勢の変化も見極めなければいけません。今は電動化が大きなテーマになっていますが、業界全体でも方向性が揺れている部分があります。私たちの分野は化石燃料を多く使う産業なので、今後どう変化していくのかを慎重に見ていく必要があります。

だからこそ、急激に方向転換するのではなく、1年1年丁寧に準備していくことを大切にしています。その上で、まずは「100カ国取引」を実現していきたいですね。

――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

「自分の殻を自分で作らない」ということが大切だと思っています。

外へ出ることで目線が変わり、その変化が会社にも影響していきます。起業するなら、自分がどこを目指すのかを決めて、焦らずに取り組むことですね。

ただ、やると決めたら全部やる。優先順位をつけて一つずつではなく、できることは全部同時進行でやるくらいの気持ちが必要です。

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