「街の縁側」として挑む、多様な夢が芽吹く「現代の縁側」づくり

一般社団法人鈴鹿カルチャーステーション 代表理事 坂井 和貴氏

三重県鈴鹿市。大手自動車メーカーや化学メーカーの拠点を擁し、ものづくりの街として発展してきたこの地で、一風変わったアプローチから地域社会を耕し続けている場があります。「鈴鹿カルチャーステーション(SCS)」。一見すると、よくある公共のカルチャーセンターを思い浮かべるかもしれませんが、その本質は全く異なります。

教育の世界から一歩踏み出し、地域そのものを豊かにする土壌づくりへと舵を切った坂井氏。スタッフや利用客とのフラットな関係性から生まれる新たなコミュニティの可能性と、そこへ向ける独自の経営哲学を伺いました。

出会いの場所「街の縁側」になるように

――まず、鈴鹿カルチャーステーションの現在の事業内容や、掲げられている理念について教えてください。

私たちは、一言で表現するなら「街の縁側」を作っていこうという思いで運営しています。人と人とが出会う場所、つまり「カルチャーステーション」でありたいという願いを込めて名付けました。

具体的な事業としては、複数の部屋をレンタルスペースとして様々な方へ開放しています。ビジネス向けの賃館はもちろんですが,地域に住まわれているお一人お一人、グループ、団体様からの「利用したい」という声に応えています。ママ会、家族会、同窓会、卒園・卒団・誕生party、合コン、試飲試食会、美容マルシェ、音楽・ダンス練習、ピアノ発表会、パブリックビューイングetc.と使い方は様々です。ご自身の教室を開きたいという方、これから新しくお店を出したいけれど、まずはスタートアップの練習をさせてほしいという方の支援も行っています。また、鈴鹿には大手企業の工場があるため海外からの労働者の方も多く、そうした方々も含めた国際交流の場としても機能しています。さらに、今のSDGsの流れを意識した「エコステーション」として、竹林整備・伝統工法炭焼き・原木椎茸栽培・日本ミツバチ養蜂等を行っているNPO法人・鈴鹿循環共生パーティーさんとも連携し、環境に配慮した暮らし方を体験する機会も提供しており、学びと交流が交差する多面的な場となっています。

――公共の公民館や一般的なレンタルスペースと比較した際の、御社ならではの強みはどこにありますか?

どんな方でも自分のやりたいことを試せる場であることを大切にしています。「自分の夢を叶えたい人」や「他の人と深く繋がりたい人」が集まり、自然と縁が結ばれていく。それこそが、私たちの最大の強みです。

ただし、ただ単に人が集まるだけでは、活動に永続性が生まれません。出会いの場でありながらも、私たち自身を含め、ここで企画や教室をされる方々が経済的にもしっかりと回っていける状態を作ること。今の社会では、人と人との繋がりやエコロジーといった価値と、経済活動のバランスを両立させることは簡単ではありませんが、この両者が車の両輪として機能する状態を目指しています。

名前に込められた「和」の精神と、体験から導き出した経営の軸

――坂井さんがこちらの活動を立ち上げ、経営の道に進まれたきっかけやキャリアについてお聞かせください。

私は大学で教育学や教育社会学を専攻していたこともあり、長年にわたって子ども達のサポートや学習塾の運営といった教育関連の仕事に携わってきました。現代の教育はどうしても受験や成績アップがメインになりがちです。学習塾自体は世の中に溢れており、それぞれの要望に応じた選択肢がいくらでもあります。「ここでしかできないこと」を模索する中で、教育という限定された枠組みを直接磨くよりも、そのベースにある地域社会そのものを耕す仕事の方が、今の自分にしかできないことなのではないかと考え始めました。私たちが活動しているこの場所が、まさにそうした地域づくりのアプローチがしやすい環境であったこともあり、教育からもう一歩踏み出して、地域社会の繋がりを生み出すチャレンジをしようと決意しました。

――経営における判断や、組織を率いる上での軸となっている価値観はありますか?

私の「和貴(かずき)」という名前は、聖徳太子の憲法十七条にある「和を以て貴しと為す」から取って曽祖父がつけてくれたものです。この言葉通り、やはり最初に「輪(和)」があって初めて、すべての物事が動き出すと考えています。それなしに、事業の成功や経済的な利益だけを追い求めても、肝心な芯の部分が抜け落ちてしまいます。

逆に、本当に心を開き合える強固な「輪」が真ん中にあれば、そこから自ずと新しい事業の展開や、それを支える経済的な仕組みが生まれてくる。これはこれまでの私の体験的な実感でもありますし、現在の活動を通してさらに確信へと変わっています。

お互いをリスペクトし、本音でディスり合えるフラットな空気感

――スタッフの皆様との関係性や、社内のコミュニケーションにおいて特に意識されていることは何ですか?

私たちのチームでは、スタッフがお互いは勿論、私のことも気兼ねなく「ディスる」ことができるくらいの関係性を大切にしています。先日、私たちが企画した音楽イベントに「下司(げし)」さんという大変珍しい名字のピアニストの方が来られたんです。「上司ではなく、下に司ると書いて下司です」というお話を聞いた時、非常にピンと来るものがありまして。あぁ、僕が目指しているのも上司ではなく、スタッフを文字通り下から支える「下司」のような存在だな、と。

――今後、新しいメンバーを迎え入れるとしたら、どのような人と一緒に働きたいですか?

周りの目を気にしすぎることなく、主体的に発信できる人ですね。もちろん、周囲と協調して物事を進める必要はありますが、誰かに依存するのではなく、自分が主体となってこの場を創っていくんだという意識を持った人同士が集まることが理想です。今のサッカー日本代表の組織作りにも通じますが、お互いの個性をはっきりと主張し合いながら、高め合っていけるような方と一緒に働きたいですね。

リニューアルから1年、人と経済の輪を繋ぐ半年・1年への展望

――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

ここを利用される方々が「こんなことをやりたい!」と持ち込んできてくれるアイデアの方が、圧倒的に面白いんです。私たちのスタッフもそのアイデアを非常に面白がり、ここへ来られた方の中にある夢や願いを形にするお手伝いをすること、そして私たちが想像もしえなかったような新しいことがポンポンと生まれてくる場にしていくこと。それ自体が街の活性化に繋がると信じています。

――今後の持続可能性に向けた、具体的な課題についてはどう捉えていますか?

やはり最大のテーマは、先ほどもお話しした「人と人との輪」を、どうやって「経済の輪」へと循環させていくかという点に尽きます。人が集まって楽しい空間ができるところまでは、この1年で確かな手応えを得ることができました。これからの半年から1年にかけて経済の輪が回っていけるかどうかの正念場だと考えています。

時代と共に変化する価値観に、しなやかに寄り添い続ける

――経営や人生において「これだけは譲れない」という信念はありますか?

今の時代、人々の価値観や社会の動きはものすごいスピードで変化しています。自分のこだわりを押し通すよりも、その時々の状況や、新しく生まれてくる価値観にしなやかに、臨機応変に対応していくこと自体が、私にとっての軸なのかもしれません。

――多忙な日々をお過ごしかと思いますが、普段のリフレッシュ方法や休日の過ごし方について教えてください。

私にとっては「仕事をしている状態」が一番楽で、精神的にもリラックスできているんですよ。私の場合はこの活動自体が「半分遊び」のような感覚に近いんです。

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