当事者と経営者、2つの視点で挑むLGBTQ施策の仕組み化と幸せの連鎖

株式会社LGBTQ Ordinary 代表取締役 佐古田 陽登氏

多くの企業がLGBTQをはじめとする性的マイノリティへの対応や配慮を求められる時代になりました。しかし、その施策の多くは「社内規定の改定」や「形だけの研修」にとどまり、形骸化しているケースも少なくありません。

かつて当事者として深く悩み、30歳まで生きることを諦めていたという佐古田氏。なぜNPOではなく「株式会社」という形態を選び、企業経営の核心に迫る支援を行っているのか。その原動力となる切実な原体験から、独自の経営方針、「運任せにしない誰もが幸せになれる社会」の未来像まで、じっくりとお話を伺いました。

幸せを「運」で片付けないために

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

私たちは、LGBTQに対する正しい知識や認知を社会に広げていくための活動を、個人向けと企業向けの両方で展開しています。最初は個人向けのサービスからスタートしましたが、現在はより社会的な影響力の大きい企業向けの支援に注力しています。

メインとなるのは研修の実施ですが、単に「当事者に配慮しましょう」と呼びかけるだけのものではありません。私たちはマーケティングの視点を絡めながら、LGBTQへの対応や施策をどのように企業の利益に変えていくか、という具体的な戦略までを伝えています。

――社会的な運動(アクティビズム)としてのLGBTQ支援団体は多くありますが、それらと比較した際の御社の強みはどこにありますか?

最大の強みは、「当事者の視点」と「経営者の視点」の双方を併せ持っている点です。

世の中にあるLGBTQの団体の多くはNPO法人などの形態をとっており、どうしても社会運動の色が強くなりがちです。「平等のために戦う」「外側から社会のルールを埋めていく」といったアプローチが目立ちますが、私はそれだけでは企業の根底は変わらないと感じていました。企業活動の現場に寄り添い、共に伴走する形が必要だったのです。

私自身もゲイの当事者であり、男性のパートナーとパートナーシップを結んでいて、生活のすべてが当事者としてのリアルな視点に基づいています。

――この事業を立ち上げられた背景には、どのようなお気持ちがあったのでしょうか。

私自身、中学生の頃から性的マイノリティとしての自覚がありましたが、ずっと周囲に嘘をつき続けているような感覚で、自分の存在意義が分からなくなり、「何のために生きているんだろう……」と絶望していました。そんな私を救ってくれたのが、大学時代の後輩であり親友でもある存在でした。その親友から温かい言葉の数々をもらいました。 こうして今、幸せに生きられているのは、偶然にも理解ある親友や両親、職場に出会えたという、ただそれだけの「運」によるものではないか、と。

周囲の理解が得られず、今も苦しんでいる当事者がたくさんいる中で、幸せの選択肢は、誰もが当たり前に持っていていいはずです。だからこそ、まずは自分の目の前にいる当事者を救うというミニマムなところから始めようと、世の中を変えるための決心をしました。

背中を押してくれた「まさかの受賞」。アイデンティティを軸に据えた起業への決断

――経営者になられた経緯を教えてください。

「自分に何ができるだろう」と漠然と考えあぐねていた時、ふと目に留まったのが、「アディーレ未来創造基金」の奨学金返済支援プロジェクトでした。応募したところ、なんと大賞をいただくことができ、抱えていた奨学金を全額返済してもらうことができたのです。

この受賞は、社会から「あなたの想いを応援しているよ」と背中を強く押されたような感覚でした。もう言い訳はできない、とにかく動こうと覚悟が決まりました。

――佐古田社長の判断の軸になっている価値観や信条を教えてください。

私のアイデンティティの根本にあるのは、かつて親友が私に言ってくれた「佐古田は佐古田だしね」という言葉です。あの苦しかった時期に、何者でもない「自分という存在」そのものを認めてもらえたあの瞬間が、私の人生のベースを作っています。

「未来を共に創る仲間」

――組織運営で意識していることを教えてください。

私が最も大切にしているのは、「その方がなぜ、うちの会社やこの仕事に興味を持ってくれたのか」を徹底的に理解することです。

お互いに目指す方向性や、社会に対する熱量が同じでなければ、本当の意味で良い仕事はできないと考えています。だからこそ、業務委託という形態であっても単なる外注先としては見ず、その人がどんな未来を創りたいと願っているのかを一緒に見つめ、同じ志を持つ「大切な仲間」として接することを意識しています。

――今後、組織を拡大していくにあたり、どのような人と一緒に働きたいですか?

私はどちらかというと、情熱が先行して思い切り突き進んでしまうタイプです。ですから、今後常勤のメンバーを迎え入れるとしたら、私にはない着実さや、計画性を持って物事を1つずつ組み立ててくれる方がいてくれたら本当に嬉しいですね。

自分にない強みやキャラクターを持っている人と出会い、お互いに足りない部分を綺麗に補い合える関係性を築ける組織を作りたいです。

人間特性の多様性へも広げる。目の前の1人から社会を動かす新しいコミュニティづくり

――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

直近の取り組みとしては、企業向けに無料のエンゲージメントのサーベイを実施し、より可視化されたデータをもとに課題を抽出するアプローチを始めています。

将来的には、LGBTQという枠組みだけに限定せず、広く「ダイバーシティ」の本質に向き合っていきたいと考えています。それぞれの個性が孤立するのではなく、お互いに弱さを認め合い、自然と助け合えるような温かい場所を創り出すことが、私の大きな目標です。

世の中の古い価値観や構造そのものを変えていくこと、これが最大のテーマです。だからこそ、法律の改正や社会の仕組みといった「外側からの変化」をただ待つのではなく、企業という組織の「内側からの理解」を促すアプローチを、地道に積み重ねていくしかないと思っています。

――経営の中で「これだけは絶対に譲れない」という哲学はありますか。

この事業は、私自身の痛烈な体験と、そこから生まれた「誰もが自分らしく生きてほしい」という切実な想いから始まったものです。だからこそ、「何のためにこの事業をやっているのか」という初志だけは、どんなに規模が大きくなっても絶対に忘れたくありません。

私たちが生み出す1つの幸せが起点となり、それが企業の成長を生み、さらに多くの当事者や周囲の人々へと、幸せの連鎖がどこまでも繋がっていく。その循環を生み出し続けることこそが、私の経営における絶対の哲学です。

心のバランスの保ち方

――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。

私にとって一番のリフレッシュは、大切なパートナーと一緒に旅行に出かけたり、美味しいごはんを食べに行ったりする時間です。何気ない日常の対話や、一緒に新しい景色を見る時間が、日々の活動の大きなエネルギーになっています。

ただ、元々が色々と深く考え込んでしまうタイプでもあるので、バランスを保つためには「1人の時間」を充実させることも同じくらい大切にしています。

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