アーティストが生き続けるための新しい働き方――ガリバー宇田川氏が描く「アーティスト経済圏」の未来
株式会社アーティストキャリア 代表取締役 宇多川 哲男氏
音楽やアートの世界で活動を続けたいと願いながらも、収入やキャリアの不安に直面する人は少なくありません。株式会社アーティストキャリアは、そんなアーティストたちが創作活動を継続しながら社会との接点を持ち、自分らしい人生を築ける環境づくりに取り組んでいます。同社の代表を務める宇多川哲男氏は、歌手としてメジャーデビューを経験し、現在も「ガリバー宇田川」の芸名でアーティストやタレントとして活動しています。アーティストとして活動する中で感じた課題や葛藤を原点に、NPO法人の設立を経て株式会社アーティストキャリアを立ち上げました。今回は、事業への想いや経営の背景、今後の展望について伺いました。
目次
アーティストが自ら価値を生み出す時代へ
――現在の事業内容について教えてください。
私自身、メジャーデビューを経験したボーカリストでした。しかし、デビューしたからといって必ず成功できるわけではありません。活動を続ける中で、アーティストが抱える課題を数多く目の当たりにしてきました。
そこで2010年にNPO法人を設立し、アーティスト自身が抱える問題の解決に取り組み始めました。アーティストはこれまで「仕事をもらう側」であることが多かったのですが、それだけではなく、事業を生み出す側や運営する側になることも必要だと考えています。
報酬や時間といった基盤を整えたうえで、クリエイティブへ投資できる環境をつくる。その考え方を広げてきた結果、2025年にNPO法人が10周年を迎えました。それを機に、人材紹介事業と音楽レーベル事業を中心とした株式会社アーティストキャリアを設立したのです。
――どのような企業へ人材を紹介しているのでしょうか。
私たちのミッションは、アーティストが長く活動を続けられる環境をつくることです。そのため、アーティストが希望する音楽業界やクリエイティブ業界だけにこだわっているわけではありません。
むしろ、「やりたいこととは別にキャリアを築くこと」を推奨しています。ビジネススキルやライフプランを学びながら、社会性を身につけ、安定した収入基盤を確保する。そのうえで本当にやりたい芸術活動にコミットしていくことが重要だと考えています。
紹介先の業種は幅広く、実績としては建設業界や教育業界が多いですね。最近ではIT企業からのニーズも非常に高く、現在いただいているオーダーの半数以上を占めています。ほかにも一般事務や施工管理、保育関連の支援業務など、さまざまな分野で活躍の場が広がっています。
自身の経験から生まれたアーティスト支援への想い
――NPO法人を立ち上げたきっかけを教えてください。
メジャーデビューした当時は、「これで売れる」と思っていました。しかし現実はそう甘くありません。契約しただけでヒットするわけではなく、結果が求められる世界でした。
その中で痛感したのが、音楽性だけではなく、営業力やブランディング、マーケティングの重要性です。売れているアーティストは、人間性や発信力を含めた総合力に優れていました。
契約終了後、私はテレアポの経験を活かして自分自身を営業してみました。全国のショッピングモールやイベント主催者へ直接アプローチしたところ、想像以上に仕事を獲得できたんです。
その経験から、「アーティスト自身が営業する」という発想の大切さに気付きました。結果として映画の主題歌やCMソングなど、新たな仕事にもつながりました。
こうした経験を一部の成功事例で終わらせるのではなく、多くのアーティストに届けたい。そんな想いからNPO法人を設立しました。
様々なデータを分析するうちに、メジャーアーティストとDIYで活動するアーティストの中間にいる層こそ、日本のアーティストの大多数だということが分かりました。その人たちが継続的に活動できる社会をつくることが、真の支援だと考えています。
アーティスト人材の可能性を社会へ届ける
――事業を進める中で感じている課題はありますか。
「アーティストを一般職に転用する」というサービスは、日本で私たちしかやっていません。人材紹介と人材開発を同時に行う特殊なノウハウが自慢ではあるのですが、企業の採用担当者からは「本当にアーティストに他の仕事ができるのか」という声をいただくこともあります。
ただ、私はアーティストの持つポテンシャルをよく知っています。夢を追いながら何年も働き続けている人たちは、強いモチベーションと継続力を持っています。そうした背景を丁寧に説明すると、多くの経営者の方々が共感してくださいます。
実際にアーティスト人材はITリテラシーが高く、素直で吸収力もあります。SNSで自ら発信している人が多いため、評価や改善についても理解が早い。企業にとって非常に魅力的な人材だと高評価をいただいています。
人材紹介、プロデュース、新規事業の3本柱で成長を目指す
――今後の展望について教えてください。
大きく3つあります。
まずは人材紹介事業の強化です。若手人材を求める企業とアーティスト人材を結びつけ、私たちならではの価値を発揮していきたいと思っています。特に社員の定着や若手育成に課題を抱える企業への支援を広げていく考えです。
2つ目はプロデュース事業です。アーティストを活用する私たちにとっては人材開発と同義です。働きながら音楽活動も成功できるモデルをもっと増やしたい。アーティストが安心して表現活動を続けられる仕組みは確立できたので、この仕組みをアーティストに活用してもらい、彼らと共に純度の高いクリエイティブを沢山発信していきたいです。
3つ目は新規事業への挑戦です。人材を紹介するだけではなく、アーティスト人材を活用した事業を自社で創出し、運営していく構想があります。今後3年ほどで形にし、新たな事業展開につなげていきたいですね。もちろん運営は兼業アーティストに担ってもらいます。
現在の売上を基準にするなら、3年後には10倍以上の規模を目指しています。そのためにも教育機関や企業との連携を強化し、兼業アーティストの活用を当たり前にしていきたいです。
音楽とともに生きる幸せを広げたい
――休日の過ごし方やリフレッシュ方法を教えてください。
私自身が兼業アーティストの象徴のような存在かもしれません。休日もアーティストのプロデュースや音楽制作をすることが多いですね。
もともとファッションも好きなので買い物に出かけることもありますが、その際もアーティストの衣装を見たりしています。結局、頭の中には常に音楽と仕事があります。
ただ、それが苦ではありません。音楽に関わる仕事を続けたいと思ってきましたし、その願いが実現できている今は本当に幸せだと感じています。
――最後に、社会に対して伝えたいことをお聞かせください。
私たちが目指しているのは、「アーティストによるアーティスト経済圏」の創出です。
今の時代、アーティストは決して特別な存在ではありません。皆さんの周りにもたくさんいます。
例えば専門学校を卒業して就職しない学生は、毎年約3万人もいます。これだけの労働力が就職市場に現れず、雇用の機会が失われているのです。アーティストがアーティストではない時の顔も肯定してもらうだけで、こうした労働力不足にも貢献できます。
アーティストもひとりの人間ですから、一生ひとつの仕事だけをしていられるわけではありません。人材としての有用性を企業や社会にもっと広げていきたい。そして、アーティストだけではなく、誰もが夢を諦めることなく、自分らしく生きられる社会を実現していきたいと思っています。