誰もが受けやすい薬物検査で、公平な競技環境と正しい知識を広げる
一般社団法人日本簡易ドーピング検査協会 代表 萩原 雄樹氏
スポーツ団体や大手ジムなどが主催する大会に向けて、薬物検査事業を展開する萩原氏。ドーピングという言葉は、一般的にスポーツの世界と結びつけて語られることが多いものです。しかし、同協会が見据えているのは、競技の公平性を守ることにとどまりません。薬物使用を未然に防ぐための正しい知識を届け、スポーツの枠を超えた社会課題として向き合っていくことを目指しています。今回の取材では、現在の事業内容、起業に至った背景、今後の展望について伺いました。
目次
スポーツ大会の公平性を支える、手軽な薬物検査
——現在取り組まれている事業について教えてください。
現在、主に取り組んでいるのは薬物検査事業です。お客様はスポーツ団体や大手ジムなどで、そうした団体や企業が主催する大会において、薬物検査を実施していただいています。
一般的にドーピングと聞くと、オリンピックなどで禁止されている薬物を使用してはいけないという、国際的なスポーツのルールを思い浮かべる方が多いと思います。確かに、ドーピングという言葉はスポーツと強く結びついています。
一方で、禁止薬物の中には、麻薬取締法や大麻取締法などに関わるような薬物も含まれています。そのため、広い意味でのドーピングは、スポーツだけに限った話ではないと考えています。
日本には、世界アンチ・ドーピング機構と連携する形で、日本アンチ・ドーピング機構があります。そこでは、オリンピックや世界大会に出場するようなトップレベルの選手を対象とした検査が中心になっていると認識しています。いわば、富士山で例えると頂点に立つ方々に対する検査です。
しかし、その下には多くの競技者や大会があります。そこには、まだ十分に検査が行き届いていない領域があると感じています。
——検査が行き届くように工夫していることはありますか。
私たちが取り組んでいるのは、誰もが安く、いつでも受けられるような検査を広めていくことです。本格的なドーピング検査は、実施するとなると大きな費用がかかります。
もちろん、私たちが行う簡易的な検査は、対象物質の数や検査の規模という点では、本格的な検査と同じではありません。それでも、より多くの大会や団体が導入しやすい形にすることで、検査の裾野を広げていきたいと考えています。
ちなみに、契約対象は選手個人ではなく、BtoBとして大会の主催者様です。検査のタイミングは主催者様によって異なりますが、大会の途中や終了時に対象者を選んで実施されていると聞いています。
薬物使用を未然に防ぐために、正しい知識を届けたい
——この事業を始められた背景には、どのような思いがありますか。
私の目的は、お金儲けというよりも、ひとつの社会課題に対して自分ができることをやってみたいという思いです。日本社会には、問題が発覚してから「どうしようか」と考える傾向があるように感じています。
学校でのいじめなども、実際に問題が表面化するまで「うちに限ってそんなことはない」と考えてしまうことがあるのではないでしょうか。薬物の問題についても、未然に防ぐための対策は、まだ不十分な部分があるのではないかと考えています。
最近では「うっかりドーピング」という言葉もあります。本人にそのつもりがなくても、知らないうちに摂取してしまうことがあるわけです。また、スポーツに限らず、学校の寮のような閉鎖的な空間で薬物の所持が問題になることもあります。
先輩から勧められて少しだけ手を出してしまい、そこから抜け出せなくなる人がいるかもしれません。そう考えると、スポーツを切り口にはしていますが、薬物に対する正しい知識を社会に届けることには大きな意味があると思っています。
——検査以外の事業展開は考えていますか。
今後は薬物使用を抑止するための活動にも取り組んでいきたいです。薬物使用はいけないことだという認識は多くの方が持っていると思いますが、それを自分なりに伝えるために、講演会やコンテンツ制作なども考えています。一般の方にも届くような形で、薬物に対する正しい理解を広げていきたいです。
そのうえで、自分たちの検査が本格的なドーピング検査とどう違うのかを明確にし、自分が考えている思いをどう届けていくか、日々考えているところです。
大会の公平性を守るために、検査が果たす役割
——薬物検査を導入することで、大会主催者にはどのようなメリットがありますか。
一番わかりやすいのは、ドーピングをしている人を選手から排除できることです。また、検査を実施しているという事実そのものが、出場を抑止することにもつながります。その結果、大会の公平性を一定程度担保できると考えています。
ドーピングをしている人としていない人が同じ条件でステージに立つと、結果に大きな差が出てしまいます。そして、実際にドーピングをしているかどうかわからない状態では、不公平感も残ります。
検査を入れることで、その大会が公平に行われていること、あるいは公平に行う努力をしていることを示すことができるのです。
とはいえ、多くの選手はドーピングをしていません。だからこそ、公平性が担保されることは、大会の継続にも関わります。
「こんな不公平な大会には出ていられない」と思われてしまえば、大会は縮小していく可能性があります。検査を導入することで、翌年もまた出場したいと思える環境づくりにつながると考えています。
未開拓の領域だからこそ、挑戦する姿勢を大切に
——現在の組織体制や、今後仲間を迎えるうえで大切にしたいことを教えてください。
現在は、ほぼ一人で事業を進めています。忙しいときには家族に検査キットづくりやデータ入力を手伝ってもらうこともありますが、いわゆる社内組織として大きな体制があるわけではありません。今後は、事業の大きさに合わせて仲間を増やしていきたいと考えています。
今後迎える仲間には、失敗を恐れず、どんどん挑戦してほしいと思っています。
検査の普及から、正しい知識を届ける活動へ
——今後は、どのような展開を考えていますか。
まずは、大手ジムやスポーツ団体など、スポーツを運営する企業・団体とのつながりを増やしていくことが、事業を広げるうえでの最初のステップになると考えています。
現在は薬物検査事業が中心ですが、将来的には薬物使用を防止するための教育や勉強会といった活動にも広げていきたいです。スポーツ大会の公平性を守ることを入り口に、薬物に対する正しい知識をより多くの人に届けられるよう、これからも取り組んでいきます。