漫画文化を未来へつなぐために――ガリレオが守り続ける、子どもたちの居場所
ガリレオ合同会社 代表 上関 久美子氏
ガリレオ合同会社は、世田谷区三軒茶屋にある漫画喫茶『まんがの図書館ガリレオ』を運営する企業です。閉店予定だった店舗を引き継ぎ、漫画に触れられる場所を守り続けるとともに、近年は『こどもまんが図書館』の企画など、地域に根差した活動にも力を注いでいます。本記事では、代表の上関久美子氏に、事業の特徴や創業の経緯、今後の展望などについて詳しく伺いました。
漫画を通じて、地域の子どもたちに居場所をつくる
――現在の事業内容や、お店の特徴について教えてください。
当社では創業28年の老舗漫画喫茶『まんがの図書館ガリレオ』を運営しています。地域の皆さまに漫画を楽しんでいただく場として営業するだけでなく、近年は『こどもまんが図書館』というボランティア活動にも力を入れています。
お店の一番の特徴は、子どもが100円玉を握りしめて一人で漫画を読みに来られるような、明るくオープンなお店だということです。その特徴を活かし、昨年から子どもたちを無料で受け入れる活動を始めました。現在は学校へ通いづらい子どもたちを支援するNPOとも連携し、漫画を通じた居場所づくりにも取り組んでいます。
営利だけを目的とするのではなく、地域に貢献できる場でありたいという想いで活動を続けています。
――ガリレオとして大切にしている理念はありますか。
先代オーナーから受け継いだ、「漫画は子どもたちや地域に役立つ文化である」という考えを大切にしています。
ガリレオは、漫画が好きだった先代オーナーが「子どもたちに『火の鳥』や『三国志』などためになる漫画を読んで、世界のさまざまなことを知ってほしい」という想いで続けてきたお店です。私はその想いに共感し、店舗を引き継ぎました。
私自身も漫画に支えられてきた経験があるからこそ、漫画を読む場所を残すだけではなく、その価値を次の世代へつないでいきたいと考えています。
「この店をなくしたくない」――勢いから始まった事業承継
――事業を引き継いだきっかけを教えてください。
私はもともと、この漫画喫茶で週三日ほどアルバイトをしているフリーターでした。しかし2017年2月、突然「来月で閉店します」と聞かされ、大好きだった漫画が処分されてしまうことがどうしても受け入れられなかったんです。
そこで先代オーナーへ直接お願いに行き、「私に引き継がせてください」とお話ししました。オーナーの本業はまったく別ジャンルの会社ですが、漫画好きが高じて一店舗だけ漫画喫茶を運営されていた方で、私の漫画に対する熱意を受け止めてくださり、事業承継が実現しました。
会社設立や契約手続きなどを短期間で進め、本当に慌ただしいスタートでしたが、「この店を残したい」という一心で走り続け、気づけば10年が経ちました。
――はじめから経営者を目指していたわけではなかったのですね。
そうですね。大学卒業後は会社員として働き、水処理事業に携わりました。その仕事がとても好きで、退職後は水の専門家として講演活動や執筆活動も行ってきました。
昔から、やりたいと思ったことはやらずにいられない性格なんです。今回も「経営者になりたい」というより「この店を残したい」という気持ちが先で、その結果として経営者になっていた、という感覚です。
漫画に支えられた人生だからこそ、今度は誰かを支えたい
――経営判断の軸になっている価値観を教えてください。
私が経営で大切にしているのは、「自分にできることで社会に貢献する」という考え方です。私自身、これまでの人生で本や漫画に何度も支えられてきた過去があり、その経験を今度は誰かへつないでいきたいと思っています。そのため、利益だけを追求するのではなく、地域の子どもたちや居場所を必要としている人にとって役立つ取り組みであるかどうかを、一つの判断基準にしています。
事業として継続することはもちろん重要ですが、それ以上に「この場所があってよかった」と感じてもらえる存在でありたいんです。その積み重ねが、結果としてガリレオらしい経営につながると考えています。
――採用や育成で大切にしていることについてもお聞かせください。
採用では、「この店で何を実現したいのか」という目的意識を大切にしています。
一人ひとりの得意分野や興味を把握し、それを活かせる役割を任せるのが私の方針です。イラストが得意な方には店内のポップ制作、本の補修が得意な方にはメンテナンスをお願いするなど、それぞれの強みを発揮できる環境づくりを心がけています。
大切なのは、一方的に仕事を割り振ることではありません。本人がやりたいことや目標を尊重しながら、一緒にお店をつくっていける関係でありたいと思っています。
――スタッフとの関わりで印象に残っている出来事はありますか。
事業承継直後の組織づくりは、私にとって最も大きな経験でした。長年勤務していたベテランスタッフが多く、アルバイト歴3年だった私が経営を引き継いだことで、戸惑いや反発の声もあったんです。当時は理想どおりに進まないことも多く、人をまとめることの難しさを痛感しました。
それでも「一緒にお店を守りたい」という想いを伝え続け、最終的には経営者として責任を持って判断する覚悟が身につきました。当時の経験が、現在の組織運営の土台になっていると感じています。
形を変えてでも、この場所を未来へ残したい
――今後挑戦したいことはありますか。
現在はクラウドファンディングへの挑戦を考えています。その準備としてYouTubeチャンネルも始めました。これまでは情報発信を十分にできていませんでしたが、まずは自分自身が動かなければと思い、お店の現状や経営のリアルな裏側を発信しています。
また将来的には、お店を一般社団法人やNPOという形へ移行し、『こどもまんが図書館』を中心とした地域活動の拠点にすることも視野に入れています。そして私自身は、講演活動などを通じて漫画文化の魅力を発信していければと考えています。
――現在感じている課題についても教えてください。
現在の大きな課題は、物価高です。本や備品、家賃、人件費など何もかもが値上がりしています。小規模店舗ほど物価高の影響を受けているように感じています。
そのため、お店のことを少しでも知っていただけるよう、無料の親子ボードゲームイベントを開催したり、マスコミの方に本に囲まれた空間を撮影場所として活用していただいたりと、新たな収益づくりにも取り組み始めました。インフレ自体を止めることはできませんが、それ以上に収益を増やす工夫を続けながら、この場所を守っていきたいと思います。
――最後に、読者の皆さまへメッセージをお願いします。
漫画には、人の心を支え、世界を広げる力があります。私自身がそうだったように、誰かの人生を少し前向きにしてくれる存在だと信じています。
経営環境は決して楽ではありませんが、形を変えてでも漫画に触れられる場所は残していきたいと思っています。そして、地域の子どもたちが安心して集まれる場所として、これからもガリレオを育てていきたいです。
漫画文化の魅力と可能性を、一人でも多くの方に知っていただければ嬉しく思います。