伝統を未来へつなぐ――四代目が受け継ぐ松根屋の想い
株式会社松根屋 代表取締役社長 山本 慶大氏
大正3年の暖簾分け以来、扇子や団扇、カレンダーを取り扱いながら、日本の伝統文化を受け継いできた株式会社松根屋。浅草界隈という祭り文化が根付く地域で長年商いを続け、時代の変化に合わせながらも、日本の伝統工芸を守り伝えることを大切にしています。四代目を務める山本慶大氏に、創業の歴史や経営への想い、そして伝統文化の未来について伺いました。
創業から受け継がれる歴史と、日本文化を支える商い
――御社の創業の経緯について教えてください。
当社の始まりは曾祖父の代までさかのぼります。もともと「松根屋」という屋号で日本橋に団扇や扇の問屋があり、そこから暖簾分けという形で、大正3年に「松根屋扇店 山本商店」として入谷店を構えました。
その後、関東大震災の翌年である大正13年に現在の場所へ移転し、今日まで商売を続けています。
――現在の事業の特徴や強みについて教えてください。
創業当時から扇子、団扇、そしてカレンダーを取り扱っています。浅草界隈は祭りが盛んな地域でもあるため、扇子や団扇は長年欠かせない商品でした。
強みの一つは、長年築いてきた京都とのつながりです。扇子の多くは京都で作られており、昔から積み重ねてきた信頼関係があります。
また、団扇についても房州団扇を中心に取り扱ってきました。竹や和紙などの天然素材を使った伝統工芸品であり、環境への関心が高まる現在では、改めてその価値が見直されていると感じています。
一度はエアコンの普及などによって需要が落ち着いた時期もありましたが、伝統工芸としての魅力や、環境に配慮した製品として再び注目されるようになりました。そうした歴史や文化を受け継いできたことが、当社ならではの強みだと思っています。
伝統を守り、時代のニーズに応えていく
――理念やビジョンにはどのような想いがありますか。
以前は特別な理念を掲げていませんでしたが、数年前に「日本の伝統工芸・伝統文化を守り、伝えていく」という考えを理念として形にしました。
単に商品を販売することよりも、その背景にある文化や技術を未来へ伝えていくことを大切にしています。
――経営者になられたきっかけを教えてください。
幼い頃から祖母に「将来は継ぐんだから」と言われ続けて育ちました。当時はそれが当たり前で、自然な流れで家業を継いだという感覚です。もちろん途中で迷いや反発もありましたが、大きく進路を変えようとは考えませんでした。
大学卒業後は、大阪にあるカレンダーメーカーの下請け会社で約3年間働きました。祖母から「大阪へ奉公に行きなさい」と言われたこともきっかけです。
家業とは直接関係のない仕事でしたが、社会人として他人の飯を食べ、社会を経験した時間は非常に大きな財産になりました。
――経営で大切にしている価値観を教えてください。
理念を大切にしながらも、一番重視しているのはお客様のニーズに応えることです。
以前は名入れをしたカレンダーや扇子、団扇が販促品として多く利用されていました。しかし宣伝方法が変化し、その役割も少しずつ変わっています。現在では本来の涼を取る道具としてだけでなく、日本舞踊や祭りなど日本文化を支える道具としての価値がより重視されるようになりました。
最近特に大きな変化を感じるのはインバウンド需要です。海外からのお客様がお土産として購入されたり、日本から海外への贈り物として選ばれたりする機会が増えています。扇子は折りたたんで持ち運びやすく、荷物になりにくいため、お土産としても人気があります。
伝統工芸の未来を守るために
――今後取り組みたいことや展望を教えてください。
大きく新しい事業を始めようとは今のところ考えていません。ただ、以前から取り組んでいるレーザー加工機による扇子への名入れについては、新しい機械を導入したことで加工効率も向上しました。その設備をもっと活用していきたいと考えています。
一方で、私自身よりも業界全体として大きな課題だと感じているのが、職人の後継者不足です。担い手が減り続け、このままでは存続が危ぶまれる状況もあります。
伝統工芸を守るためには、業界全体がまとまり、行政などにも支援を働きかけながら後継者育成を進めていく必要があります。個人や一店舗だけでは難しい課題だからこそ、業界全体で取り組んでいかなければならないという危機感を持っています。
――店舗づくりについてのお考えも教えてください。
オンラインショップも運営していますが、現時点では店舗をより良くすることを優先しています。
店舗は実際に商品を手に取り、日本の文化に触れていただける場所です。最近は店内の内装を一部改装しましたので、今後は整理整頓を進め、さらに気持ちよくご来店いただける空間にしていきたいと思っています。また、ホームページについても少しずつ手を加えていきたいと考えています。
ロックと祭りが日々の活力に
――最後に、休日やリフレッシュ方法について教えてください。
ロック音楽が好きで、特に「マキシマム ザ ホルモン」の大ファンです。ライブやフェスに参加することが一番のリフレッシュになっています。家族も一緒に楽しみながら旅行を兼ねて出かけることも多く、良い気分転換になっています。
また、地域の祭りにも積極的に参加しています。担ぎ手として参加したり、スタッフとして手伝ったりすることもあります。祭りは扇子や団扇とも深い関わりがあり、仕事ともつながる大切な時間です。
これからも日本の伝統工芸と文化を守り、お客様のニーズに応えながら、その価値を次の世代へ伝えていきたいと考えています。