支援の「隙間」を埋めるために――一人ひとりの一歩に寄り添う支援を目指して
一般社団法人マノ・ア・マノ 代表 村上 邦男氏
2020年に設立された一般社団法人マノ・ア・マノは、大人のひきこもり当事者とその家族を支援する団体です。支援制度が整いつつある今でも、「必要な支援が届いていない人」がいると感じ、その隙間を埋める活動を続けています。今回は代表の村上邦男氏に、法人設立の経緯や支援への想い、今後の展望について伺いました。
支援と支援の隙間を埋めるために
――法人を立ち上げたきっかけを教えてください。
法人を設立したきっかけは、自分の子どもが中学生のときに不登校になったことです。当時は行政や医療機関、民間の支援団体などさまざまな場所へ相談しました。しかし、不登校の子どもを持つ家族の立場から見て、本当に寄り添ってもらえる支援にはなかなか出会えませんでした。
その経験から、会社員を早期退職し、「支援と支援の隙間を埋める支援をしたい」と決意しました。準備を重ね、2020年に法人化し、現在の活動につながっています。
――現在取り組まれている事業の特徴や強みを教えてください。
私たちは大人のひきこもり支援を中心に活動しています。ひきこもりには、部屋から出られない人、部屋からは出られても家から出られない人、家からは出られるものの社会に出ることが難しい人など、さまざまな段階があります。
現在は、自分で外出できる人が利用できる居場所や支援は比較的充実しています。一方で、本当に支援が届きにくいのは、部屋や家から出られない方々です。そのため、私たちは訪問支援を大切にしています。
ご本人の了承を得たうえでこちらから訪問し、一緒に話を重ねながら、その人に合った「最初の一歩」を考えていきます。支援する側と支援される側という上下関係ではなく、お互いが対等な立場で向き合うことを何より大切にしています。
本人が安心して次の一歩を踏み出せるようになれば、その先は居場所や就労支援などにつないでいきます。その前段階を丁寧に支えることが、私たちの役割だと考えています。
継続できる支援体制を目指して
――法人として大切にしている理念を教えてください。
一言で表すなら、「ひきこもる方と対等な立場で、その方の一歩をサポートすること」です。
困っている人を支えるというよりも、一緒に歩む存在でありたいと思っています。
――法人化された背景にはどのような考えがあったのでしょうか。
民間の支援活動には、寄付やボランティアを中心に運営されている団体も少なくありません。それも大切な活動ですが、継続性という面では不安定になることがあります。
だからこそ法人化し、ご家族からいただく会費をもとに運営する仕組みを整えました。また、責任を持って活動に関わる理事とともに運営することで、安定した支援を継続して提供できる体制を築いています。
利益だけでは測れない支援のあり方
――経営の中で大切にしている価値観を教えてください。
私たちの活動は、利益を追求する一般的なビジネスとは少し異なります。
支援の対象となるご家族は60代、70代、80代の方も多く、年金で生活されている方も少なくありません。そのような方々に長期間高額な費用をお願いすることはできないと考えています。
そのため、講演活動や出版による収益も運営の柱の一つとしています。また、公的・民間の助成金もありますが、助成金に依存した活動にはしたくありません。
継続できる支援を実現するために、安定した法人運営を意識しています。
人とのつながりが支援を広げる
――組織運営で大切にしていることを教えてください。
現在は4名の理事がそれぞれ異なる専門性を持って活動しています。若者支援に取り組む方や、行政・労務管理に詳しい方など、多様な視点で支援を支えています。
理事同士では日頃から情報を共有し、一人で悩みを抱え込まないようにしています。それぞれが本業を持っているため、無理なく関われる距離感を大切にしながら連携しています。
また、支援団体や地域とのネットワークづくりも欠かせません。本人が次の居場所へ進みたいと思ったときに、安心してつなげられる環境を整えることも重要な役割だと考えています。
――今後、一緒に活動したいと考える人材について教えてください。
これまでに150名近いボランティアの応募がありました。
今後は、それぞれが持っている経験や得意なことを生かせるよう、活動内容を整理し、より多くの方が参加しやすい仕組みをつくっていきたいと考えています。
一人ひとりができることを生かしながら、多様な支援につなげられる体制を目指しています。
「目的のある居場所」を広げていきたい
――今後挑戦したいことを教えてください。
これから力を入れたいことは二つあります。
一つは、働く経験につながる居場所づくりです。その取り組みとして、現在は自分たちでフリーマーケットを開催しています。
ご本人が自宅にある品物を販売したり、対面が苦手な方は商品だけ預かったりすることで、「自分で稼ぐ経験」を積むことができます。収入を得るだけではなく、人とのつながりや社会との接点を少しずつ取り戻すきっかけにもなっています。「稼ぐ」という目的のある交流体験を目指しています。
もう一つは家族会の充実です。
家族会は悩みを共有するだけで終わるのではなく、次の一歩につながる具体的な情報交換や支援につながる場であるべきだと考えています。そのため、年代や状況が近いご家族同士が交流できる環境づくりや、専門家による講演なども取り入れながら、継続的につながれるネットワークを広げていきたいと思っています。
地域の企業や施設とも連携し、働く機会や居場所を継続的に提供できる仕組みづくりにも取り組んでいく考えです。
――最後に、休日のリフレッシュ方法を教えてください。
カラオケが好きなので、歌ったり、好きな時間を過ごしたりすることがリフレッシュになっています。
将来的には、そのカラオケを活用した地域活動にも取り組みたいと考えています。高齢者同士が交流し、見守り合える場をつくり、その中で社会参加に不安を抱える方が働く機会も生まれるような仕組みができれば理想です。
支援は一人で完結するものではありません。地域のネットワークや人とのつながりがあってこそ、本当に必要な支援が届けられると思っています。これからも一人ひとりに寄り添いながら、その人らしい一歩を支え続けていきたいと考えています。