「誰もが使える医療データ基盤」を目指して――中小企業に寄り添う“データの職人”の挑戦

ものさしヘルスデータ合同会社 代表 村中 祥生氏

医療・ヘルスケア分野では、データ活用の重要性が高まる一方で、高品質なデータ基盤を利用するには多額のコストがかかることも少なくありません。ものさしヘルスデータ合同会社は、そうした課題に着目し、中小企業でも手が届く価格で医療データインフラを提供することを目指して創業しました。今回は、代表の村中祥生氏に、創業の経緯や事業への想い、経営哲学、そして今後の展望について伺いました。

中小企業でも活用できる医療データ基盤を目指して

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

当社は、医療・ヘルスケア分野の中小企業やベンチャー企業が利用しやすいデータインフラの提供を目指しています。創業のきっかけは、医療機器メーカーでスピンオフプロジェクトへ携わった経験でした。

会社の規模が小さくなると、それまで利用できていたデータインフラの維持コストが大きな負担になることを実感しました。その経験から、中小企業でも無理なく活用できるデータ基盤には確かなニーズがあると考えたのです。

国や省庁が公開している商用利用可能なパブリックデータを活用し、それらを使いやすい形へ整理・標準化して提供することが当社の事業です。独自の技術による徹底した自動化が低コストデータ基盤の実現につながりました。また、クライアントがリアルタイムでデータへアクセスできる環境を構築しています。

――会社名に込めた想いや理念について教えてください。

「ものさし」という社名には、業界の共通言語となる標準をつくりたいという願いを込めています。同時に、誰にとってもちょうど良い基準となる存在でありたいという想いもあります。

私が目指しているのは、大規模なシステムを構築して市場を囲い込む企業ではありません。国や省庁が公開する信頼性の高いパブリックデータを丁寧に磨き上げ、本当に必要としている方へ低価格で届ける「データの職人」のような存在でありたいと考えています。

一つひとつのサービスを丁寧につくり、本当に必要としている方へ届けることを大切にしています。

30年以上の経験が導いた、新たな挑戦

――経営者になられた経緯を教えてください。

私はヘルスケア業界において営業やマーケティングを中心に仕事を続け、30年が過ぎました。日本のほか米国でもマーケティングや事業開発を経験しました。幸いなことにどの職場でも高品質なデータへのアクセスができ、成果も出しやすい、恵まれたビジネス環境の中で経験を重ねてきました。

しかしスピンオフプロジェクトを通じて、データ環境の整備や維持には大きなコストとノウハウが必要だと気付かされました。新会社の立ち上げには成功したものの、ひとたび大企業から離れると、それまで利用できていたビジネスインフラと同じ水準のデータ環境を再構築することの難しさを目の当たりにしました。現在も外資系医療機器メーカーでの職務を全うしつつ、パラレルキャリアとして当社を立ち上げましたが、その経験が現在の事業構想につながっています。

これまで培ってきた戦略立案や事業開発の経験を生かし、私が直面したものと同じような課題をもつ方々に向けて手が届きやすい解決策を提供したい、その思いから創業を決意しました。

――仕事をする上で大切にしている価値観は何でしょうか。

最も大切にしているのは顧客志向です。ヘルスケア業界では「ペイシェントファースト(患者中心主義)」という考え方が大切にされていますが、その価値観を事業にも反映しています。

クライアント自身よりも早くニーズを見つけ出し、本当に必要とされるサービスを、手が届きやすい形で提供することが重要だと考えています。

また、大企業が投資先として注目しにくい分野にも目を向けています。例えば希少性のある疾患では、患者数が少ないため十分なデータが集まらず、研究や投資が進みにくい現状があります。しかし、患者数が少ないからといって必要性が低いわけではありません。そうした「日の当たりにくい領域」で生じやすい「情報の非対称性」という課題に取り組むことも、当社の役目だと考えています。

人や組織の成長段階に合わせた関わりを大切にする

――組織運営で意識していることを教えてください。

現在当社は私一人で事業を運営しており、当面は従業員を採用する予定はありません。そこで、今ではなく将来、この事業が拡大した場合を想定してご回答します。

チームとして良いパフォーマンスを発揮する上で、意識しているのは、一人ひとりが置かれている状況や成長段階に目を向けることです。受け手のタイミングによって言葉の伝わり方は大きく変わります。

「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉を学ぶ機会がありました。ひなが卵の殻を内側からつつくタイミングと同時に、親鳥が外側から殻をついばみ、ひなが出てくるのを助ける、親子関係や師弟関係で引用される禅宗の教えだそうです。これは組織運営にも通じると考えます。

人であれ組織であれ、今どのような準備状況・成長段階(Readiness)にあるのか、どのような支援(または介入)を必要としているのか、それを見極めることが効果的な影響の源泉となり、成果につながると考えています。

――将来的に一緒に働きたい人物像を教えてください。

自ら主体的に考え、職務への責任感と高い倫理観を持って仕事に向き合える方と一緒に働きたいと思っています。

細かく指示を与えたり成長を強いることは、できればやりたくありません。それよりも、お互いを尊重し、信頼関係を築きながら仕事を進める方が効率よく成果につながると考えています。そのためにも、仕事に対する責任感・倫理観やプロ意識は欠かせない要素だと考えています。

データの標準化から、新たな医療情報プラットフォームへ

――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。

創業から最初の2年間は、医療施設データベースの提供を事業の基盤として確立することを目標にしています。

サービス対象は比較的規模の小さな製薬企業様、医療機器企業様、市場調査会社様、医療系ITスタートアップ企業様などをイメージしています。小規模の企業様にも手が届きやすい低価格で提供し、データインフラを支える環境を整えたいと考えています。

その後は、希少性のある疾患に関する情報提供プラットフォームの構築を手がける計画です。治療の提供が可能な医療機関や関連情報を分かりやすく提供し、患者目線からの情報不足という課題の解決に貢献したいと思っています。

さらに、データ提供は国内企業だけに限定せず、将来的には多言語対応も視野に入れ、日本への投資を検討中の海外企業様へのサービス展開も考えています。

一方で、AIをはじめとする新しい技術の進化は非常に速く、自社が構築するデータ基盤の在り方も、常に変化する環境へ適応させる必要があります。だからこそ、できるだけ早期に標準となる基盤を整備し、AIが参照する価値あるデータとして認識される存在を目指します。

思考をリセットする時間が、新たな着想につながる

――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。

一昨年、初めてオートバイの免許を取得しました。当初は最寄り駅までの移動の利便性を考えて取得したのですが、実際に乗ってみると、外の空気に触れて走る時間が大きなリフレッシュになっています。

日々の大気のちょっとした変化や季節の移り変わりを感じながら、川沿い、農道、街中、と変化する景色の中を走行することでストレスも和らぎます。新しい発見や着想につながる時間でもあり、仕事に向き合う上でも良い影響を与えていると感じています。

医療データを「必要な人へ、手が届きやすい形で届ける」という創業時の想いを軸に、医療・ヘルスケア業界における新たなデータ基盤づくりへの挑戦を続けてまいります。

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