さくらんぼにこだわり、産地を次世代へ――果樹農業の未来をつなぐ挑戦

株式会社やまがたさくらんぼファーム オーナー 兼 取締役会長 矢萩 美智氏

祖父の代から続く果樹農業を受け継ぎ、生産だけでなく直売、観光、飲食、加工へと事業を広げてきた株式会社やまがたさくらんぼファーム。現在は販売先の95%以上を直販が占め、お客様との距離が近い独自の事業モデルを築いています。一方、農家の減少や地球温暖化など、農業を取り巻く環境は大きく変化しています。今回はオーナーの矢萩氏に、事業の歩みや組織づくり、さくらんぼ産地への思い、そして次世代に託す農業の未来について伺いました。

3代にわたって築いてきた、つくって自ら届ける農業

――現在の事業に至るまでの歩みを教えてください。

私は果樹農家の3代目です。祖父が1969年に創業し、さくらんぼやりんご、ぶどうなどを生産するようになりました。その後、父の代では、一般的なJAや市場を通じた販売だけではなく、自分たちで農作物を売る直売に取り組むようになったんです。

父が1986年に事業を法人化し、初代社長になりました。私の代では、さらに飲食や加工などへ事業を展開しています。2011年には法人名を変更し、私が代表取締役に就任しました。

――御社ならではの強みは、どのようなところにありますか。

一番の強みは、自分たちでつくったものを自分たちで売り、価格決定権を持てることですね。一般的には農産物がお客様の近くへ流通していきますが、私たちは観光やカフェも手掛けているため、お客様のほうから私たちのところへ来てくださいます。

現在、販売先の95%以上が直販です。原料や原価が高騰する中でも、お客様にご理解いただきながら価格へ反映し、きちんと利益を確保できる。そこは大きな特徴だと思っています。

家族や仲間を大切にし、産地そのものを守っていく

――経営理念には、どのような思いを込めていますか。

もちろんお客様は大切ですが、それ以上に、まず一緒に働く仲間やその家族を大事にしたいと考えています。

今、農業は後継者不足が深刻で、農家の数も少なくなっています。実際に私たちのところにも、「農業を辞めるので農地を引き受けてほしい」という話が毎年たくさん来るんです。美しい果樹園の風景を次世代につなぐためにも、そうした農地をできる限り引き受けていきたいと思っています。

そして、さくらんぼを中心にしっかり生産し、利益を出す。そのうえで雇用や納税など、さまざまな形で地域に貢献できる農業法人でありたいですね。

――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。

果樹農家の3代目で長男でしたから、最初は義務感が大きかったですね。小さい頃から果樹園で育ち、大学卒業後すぐに就農しました。

ただ、その年に父と大喧嘩をして家を出て、東京で2年間サラリーマンをした経験もあります。その後、祖父から「後継者がいないと寂しい」「好きなことをやっていいから」と説得され、戻ってきました。

なお、私は以前から「50歳になったら社長を辞める」と15年以上にわたって宣言していました。50歳を迎えたことを機に3月末で代表を退任し、4月からは弟が新社長となっています。今は求められれば「自分ならこう考える」とアドバイスしますが、最終的な意思決定は新社長に任せています。

農業だからこそ大切にする、家族的な組織づくり

――社内のコミュニケーションで大切にしていることは何でしょうか。

私は、家族的な関係がいいと思っています。農業は現場で管理作業をし、お客様と直接接しながら商品やサービスを提供する仕事です。人と人との関わりが欠かせません。

働き方も一般企業とは違います。さくらんぼは年間売り上げの6割を占め、6月、7月の収穫期は非常に忙しくなります。今年は収穫が44日間あり、私自身も50日ほど休みませんでした。その代わり、シーズンが終われば2週間ほど休んだり、冬場の休みを増やしたりしています。農業には農業の働き方、休み方があるんです。

さくらんぼのシーズン前には一緒に食事をし、終われば反省会を行います。忘年会や年1回の研修旅行もあります。世の中では会社と社員の関係がドライになっているとも聞きますが、私たちは逆なのかもしれませんね。

――採用では、どのような方と一緒に働きたいと考えていますか。

学歴よりも、素直な方がいいですね。ありがたいことに求人を出さなくても、若い方から「働きたい」と言ってもらったり、大学の先生などから紹介をいただいたりします。そのため、誰かとのつながりを通じた採用が多いです。

通年で働くスタッフや役員などは20名ほどですが、さくらんぼの収穫期には人手が足りません。その時期はアプリなども活用し、1日に50~60人ほど短期雇用することもあります。

環境が変わるなら、自分たちも変わり続ける

――今後、挑戦していきたいことを教えてください。

農業には今も「きつい」「汚い」といったイメージがあります。もちろん、そういう部分がないわけではありません。ただ、農業は食べ物をつくる産業ですから、絶対になくならない仕事だと思っています。子どもたちが「農業をやってみたい」と思えるような産業にしたいですね。

私はさくらんぼにこだわりたいと思っています。温暖化によって、将来は山形でさくらんぼをつくることが難しくなる可能性もある。そのときには山形を拠点にしながら、より北の地域でもさくらんぼをつくり、リレー栽培をすることも考えられます。さらに将来は海外という可能性もあるでしょう。どこまでもさくらんぼにこだわった事業を続けてほしいと思っています。

――今、特に力を入れている投資について教えてください。

今は栽培への投資ですね。離農する方から引き受けた農地は、そのまま使うのではなく、一度ゼロに戻すこともあります。ハウスを解体し、木を抜いて整地したうえで、将来性のある樹種や品種へ植え替えていくんです。

補助金も活用しながら、5年後、10年後を見据え、しっかり収益を生み出せる果樹園へつくり替えています。品種やつくり方、管理方法を工夫しながら、環境に合わせて私たち自身も変わっていかなければならないと思っています。

「山形のさくらんぼ」を守り、次の世代へ

――経営の中で、これだけは譲れないという思いはありますか。

私が社長になったときにつくった経営理念に、すべて詰まっています。私たちだけが良ければいいわけではありません。産地そのものを盛り上げることが大切なんです。

山形県がさくらんぼの生産量日本一だからこそ、私たちはこの事業をさせてもらっている。そのことを強く感じています。だからこそ、この産地を守り、盛り上げていくという思いは絶対に譲れません。

――お休みの日は、どのようにリフレッシュされていますか。

さくらんぼのシーズンが終わると、まずは本当にぐっすり寝ますね(笑)。旅行も好きですし、農産物を見に行ったり、同じような業態の農業法人を視察したりするのも好きです。仕事につながることでも、興味があるので楽しめます。

あとは野球観戦ですね。時々、実際に球場へ足を運んで観戦しています。

これからも時代や環境の変化に合わせながら、さくらんぼにこだわり、この産地と果樹園の風景を次の世代へしっかりつないでいきたいですね。

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