「すべての人の可能性を引き出す」重度訪問介護の常識を変え、業界の未来をつくる
株式会社マツノケアグループ 代表取締役 松野 竜一氏
重度訪問介護は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)SMA(脊髄性筋萎縮症)等の難病、重度の疾患を抱える方の医療的ケア、介護ケアで在宅生活を支える事業です。日本の産業の中で最も人手不足や低賃金、支援者の孤立といった課題があるなか、株式会社マツノケアグループは、未経験者の積極採用、高待遇、異業種人材の登用、メディア戦略など、従来の枠にとらわれない経営を進めています。「すべての人の可能性を引き出す」という理念を掲げる松野氏に、重度訪問介護業界への思いや組織づくり、展望などについて伺いました。
目次
「すべての人の可能性を引き出す」を事業で体現する
――現在の事業内容について教えてください。
主にALS(筋萎縮性側索硬化症)SMA(脊髄性筋萎縮症)等の方を対象に、在宅での医療的ケア、介護ケアを行う「重度訪問介護」を手がけています。
――大切にしている理念を教えてください。
当社の企業理念は「全ての人の可能性を引き出す」です。この言葉は、従業員だけに向けたものではありません。
重い疾患によってできないことが増え、悩んでいるご利用者様に私たちが関わることで、その方ができることや望む生活を一緒にニーズを広げ、作っていく。それも「可能性を引き出す」ことだと考えています。
困っている人を助けたい。その思いが経営の原点
――経営者になったきっかけを教えてください。
起業するとき、「日本の産業の中で最も」経営や採用を継続することが難しいと言われる事業に挑戦したいと考えました。難しいということは、それだけ困っている方が多い領域でもあると思ったからです。
私は高卒で、兄弟がおらず、シングルマザーの家庭で育ちました。学生時代には住む場所に困った経験があり、祖母に助けてもらった時期もありました。
そうした経験があるからこそ、困っている方を助けたいという思いが強いです。その気持ちが、現在の事業にもつながっています。
――業界経験がほとんどないなかでの起業だったのでしょうか。
重度訪問介護の業界経験は、アルバイトとして1〜2か月関わった程度でした。むしろ経験が少なかったからこそ、固定観念にとらわれずに考えられた部分もあると思います。
以前から、業界を変えるようなことをしたいと考えていました。そのため、給与を高く設定したり、未経験者を積極的に採用したり、メディアに出たりと、新しい取り組みに踏み込んできたのです。
介護・医療は「やりたくない仕事」と見られやすい側面もあります。そうした印象自体も変えていきたいと思っています。
異業種の経験が交わり、支え合える組織をつくる
――採用や組織づくりにおける特徴を教えてください。
待遇面では、未経験の高卒の方でも試用期間後は月給35万円からスタートします。資格取得費用も当社で負担しており、平均年齢は29歳ほどの若い組織です。
元CAや長年エンジニアとして働いてきた方、アパレル店長、デザイナー、教員、プロのバイオリニスト、障がい当事者の方など、異業種で経験を積んだ人材も多く在籍しています。月1回、研修と食事会を行い、社員同士が交流する機会を設けているのも特徴です。
異なる分野で経験を積んだ人同士が互いを尊重し、新しい価値観に触れられる。そうした相乗効果は、当社ならではだと思います。
――現場で働く社員をどのように支えていますか。
重度訪問介護は直行直帰が基本で、1人のご利用者様の支援時間がロングになります。ほかの社員と会う機会が少なく、孤独を感じやすい仕事です。
難病の方、そのご家族と向き合うなかで、精神的な負担が大きくなる場面もあります。そのため、何かあればすぐに上司、メンターへ連絡できる体制を整えました。
365日24時間対応の事業だからこそ、現場の職員が1人で悩みを抱え込まない環境が重要だと考えています。月1回の研修や食事会も、孤立を防ぎ、相談しやすい関係をつくる大切な機会です。
――採用では、どのような人を重視していますか。
大切にしているのは、「素直さ」と「何でも人のせいにせず、自分にも改善できることがなかったかを考える姿勢」他責ではなく、自責の念が強い方です。
例えば、前職への不満を話す場合でも、愚痴だけで終わらず、「自分にも課題があった」「その企業を選んだのも自分だった」と振り返れる方であれば、自分自身と向き合える人だと感じます。
重度訪問介護は、命が関わる仕事で、人間性が強く問われる仕事です。だからこそ、当社では採用基準を高く設定しています。
「何者かになれる仕事」の価値を、もっと広く伝えたい
――重度訪問介護ならではの魅力は何でしょうか。
この仕事は属人性が強く、ご利用者様から「あなたに頼みたい」「あなたじゃないと難しい」と言っていただけることも特徴の1つです。難病を抱え、いつ疾患が進行するかわからない状況にいる方から、そうした言葉をいただく経験は、働く側にとっても大きな意味を持つと思います。
私は、重度訪問介護は「何者かになれる仕事」だと考えています。ご利用者様にとって、唯一無二の存在になれることがあるからです。
ご利用者様の人生の根幹に深く関わる経験は、支援する側の成長にもつながります。この仕事ならではの魅力ではないでしょうか。
――今はどのようなことに時間を使っていますか。
採用とブランディングです。業界最大の人手不足問題を解決する為に、様々な活動をしています。
数字でみる業界深刻度が下記になります。
令和7年度(2025年7月〜2026年6月)の全国の有効求人倍率は「28.37倍」です。つまり、ざっくり言えば求職者1人に対して約28件の求人がある水準です※出典:厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)『訪問介護員/ホームヘルパー』」令和7年度 ハローワーク求人統計データ
この状況を単なる「人手不足」という課題だけで捉えてはいません。
働く方が医療介護の仕事に魅力や誇りを感じ、安心して長く働き続けられる環境をつくること。そして、新たに医療介護の仕事を志す人を増やしていくことも、事業者の重要な役割だと考えています。
今後も人材の採用・育成と働きやすい環境づくりに力を入れ、重度訪問介護を必要とする方々へ、安定してサービスを届けられる体制づくりを進めてまいります。
ミッションである「全ての人がその人らしい生き方を実現できる社会」を目指します。
上場を目指し、重度訪問介護をより広く届ける
――現在抱えている課題はありますか。
重度訪問介護は業界的に課題は大きく「人材」「専門性」「働き方」「地域格差」「経営」の5つです。厚労省の議論でも、人材不足や長時間利用者へのサービス供給、地域による供給体制の差などが課題として扱われています。
マツノケアグループは業界課題に向き合い続け、解決していきます。
――今後、どのような展望を描いていますか。
現在、年商約5億円、正社員・アルバイト約130人が在籍しています。(株)マツノケアグループ代表取締役を務めながら、ALTWELLグループの取締役グループCOOとして、グループ全体の経営にも参画しております。
グループ全体では年商約15億円、従業員数は約300名です。今後は、M&Aロールアップ等により事業をスケールし、「医療・介護・福祉で支える力No.1」を目指しています。
また、重度訪問介護を含むグループとして将来的にはグロース上場を目指しています。
私の知る限り、重度訪問介護の業界には上場している企業がありません。上場によって社会的信用を高め、事業をさらにスケールすることができれば、支援を必要としているご利用者様をもっとサポートできると考えています。