微生物の可能性を社会へ──ゲノム編集技術で新たな産業基盤を築く挑戦

株式会社MycoGenome 代表取締役社長 林 修氏

微生物の力を活用し、これまで実現できなかった産業の可能性を切り拓こうとしている株式会社MycoGenome。東京理科大学発の技術をもとに、ゲノム編集という先端分野を社会実装へとつなげています。

同社はどのような理念で事業に向き合い、どんな未来を見据えているのでしょうか。代表取締役社長の林修氏に、事業の背景や経営への思い、組織づくり、そして今後の展望についてお話をうかがいました。

微生物の力を広げる事業と会社の現在地

──現在取り組まれている事業内容と、会社としての考え方を教えてください。

当社は、カビやキノコ、酵母といった真菌を対象に、遺伝子組換えだけでなく、非遺伝子組換え型のゲノム編集技術を提供しています。ゲノム編集は、自然界で起こり得る変化を人為的に再現する技術であり、従来の品種改良に近いコンセプトです。異なる種の遺伝子を導入する遺伝子組換えとは異なるため、食品や化粧品など、人の口に入ったり肌に触れたりする分野でも活用しやすい点が特徴です。

微生物は、日本酒や味噌などの発酵食品を通じて日本人にとって身近な存在でありながら、実際に産業利用されてきた種類はごく一部に限られてきました。当社の技術により、これまで活用されてこなかった多様な微生物にも対象を広げ、その潜在能力を引き出すことが可能になります。これによって、従来は化学合成に頼ってきた物質をバイオプロセスで生産したり、植物残さや食品残さといった未活用資源についても、真菌の分解・発酵能力を高めることで新たな価値へ転換していく可能性が広がると考えています。

技術に惹かれ、経営の道へ進んだ理由

──林さんご自身のキャリアと、経営者になられたきっかけを教えてください。

私は2022年に独立して以来、「テクノロジーを社会に実装する」ことを軸に、新規事業開発の支援や大学発スタートアップの創出支援に携わってきました。その過程で東京理科大学の先生方とご一緒する機会をいただき、このゲノム編集技術に出会いました。

これまで多くの大学技術を見てきましたが、分野横断的に活用でき、産業全体の基盤技術になり得るものは決して多くありません。この技術は、日本だけでなく世界中の産業に価値を届けられる可能性があると確信し、支援者という立場から一歩踏み込み、事業化の当事者として会社立ち上げに参画しました。 

経営者としてこの事業に取り組む理由は、独立以来培ってきた経験の集大成を投じ、できる限り事業の最大化へ導く責任を引き受けるべきだと感じたからです。新規事業の失敗確率を下げたいという従来の使命感に加え、この技術を社会に届けることそのものが、自分自身の使命だと考えるようになりました。

誠実さを軸にした組織運営とコミュニケーション

──組織運営や社員との関係で意識していることは何でしょうか。

現在は、創業メンバーと従業員を合わせて5名という小さな体制で事業を進めています。組織としての制度やルールで縛る段階ではなく、まずは私自身がどのように考え、どう意思決定し、どう動くのかを見せることが、最も重要なマネジメントだと考えています。

創業期は、企業との共同研究や技術相談など、事前には想定しきれない出来事の連続です。だからこそ、メールだけでやり取りを完結させるのではなく、その都度きちんと対話の場を持ち、判断の背景や狙いを共有することを意識しています。 

採用において一番大切にしているのは「誠実さ」です。当社の技術はプラットフォーム的な性格を持ち、多くの企業や研究者との連携を前提としています。その中で、「利他」の姿勢で相手を理解し、正直さと敬意をもって向き合える人でなければ、長期的な信頼関係は築けません。規模が小さい今だからこそ、一人ひとりの価値観や姿勢を重視して組織をつくっていきたいと考えています。

微生物とともに描くこれからの未来

──今後の展望や挑戦について教えてください。

当社の技術によって、これまで産業利用されてこなかった微生物を活用できる可能性が広がります。こうした未知の領域に果敢に踏み込み、企業や研究者の皆さまと連携しながら、新しい価値を社会に実装していきたいと考えています。

実際に、多様な企業や研究者と向き合う中で、私達だけでは気づけないニーズや応用領域が見えてくるはずです。そのため、企業に限らずアカデミアも含めて、可能な限り間口を広く取り、対話と協働の機会を増やしていきたいと思っています。

また、ゲノム編集に対する制度や社会的な受け止め方は国によって大きく異なり、日本は慎重な国でもあります。そのため、海外、特にアメリカで実績を積み、その成果を日本や他の地域へと還元していく展開も視野に入れています。 

創業からまだ日が浅い段階ではありますが、技術のポテンシャルを最大限に生かすためにも、できるだけ早いタイミングでグローバルな展開に挑戦していきたいと考えています。

日常の中でのリフレッシュ方法

──お忙しい日々の中でのリフレッシュ方法はありますか。

仕事の合間のリフレッシュは、もっぱら料理です。特別に凝った趣味というわけではありませんが、キャベツを丁寧に千切りしたり、玉ねぎをきつね色になるまでじっくり炒めたりといった単純な工程に時間をかけて向き合っていると、不思議と頭の中が整理されていきます。手を動かしながら余計なことを考えない時間をつくることで、結果的に良い気分転換になっていると感じています。

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