“管理組合”という特殊な顧客に向き合う――マンション管理士・稲葉早苗氏が描く「再生」と「人を育てる」挑戦

株式会社マンション夢設計 代表取締役 稲葉早苗氏

分譲マンションの管理組合を顧客に、運営のコンサルティングを行う株式会社マンション夢設計。管理規約の見直しや管理会社選定、長期修繕計画、大規模修繕工事など、マンションの維持管理に関わる課題は多岐にわたります。稲葉早苗氏は、マンション管理士として「管理組合」という意思決定が複数人にまたがる特殊な相手と向き合いながら、近年は“お金がない”がゆえに再生に踏み出せないマンションの支援にも注力。さらに自治体と連携した事業も仕掛けるなど、業界の枠を広げる挑戦を続けています。独立に至る背景や転機、組織のつくり方、そしてこれからの展望を伺いました。

管理組合の運営を支える「コンサルティング」が仕事の本質

――御社の事業内容について教えてください。

当社の主な顧客は、分譲マンションの「管理組合」です。個人ではなく、団体としての管理組合が顧客になる点が、この仕事の特徴だと思います。管理組合は、マンションの維持管理や運営を担う組織であり、当社はその運営を支えるコンサルティングを行っています。

管理規約の見直し、管理会社の選定支援、長期修繕計画の検討、大規模修繕工事に関する助言など、マンション管理に関わるさまざまなテーマについてサポートしています。

最近特に力を入れているのが、「マンション再生」に関するコンサルティングです。建物の老朽化が進む中で、建替えや敷地売却、更新などを検討しなければならないマンションも増えています。ただ、現実には多くの管理組合が共通して「資金不足」という課題を抱えています。

マンションを再生するためには、どうしても資金の問題を避けて通ることができません。だからこそ、その壁をどう乗り越えていくのか、管理組合と一緒に考えながら支援していくことが、今の大きなテーマになっています。

転職を重ねた先に見えた「学歴よりも、やった分だけ伸びる世界」

――経営の道に進まれたきっかけや背景を教えてください。

私は宮崎県の高校を卒業して東京に出てきました。高卒で、アパート暮らしをしながら生活していたので、家賃を払うためにも、若い頃は給料の高い会社へ転職を重ねていました。

その中で証券会社に勤めた経験があります。証券会社はフルコミッションの世界で、営業成績によって収入が大きく変わります。うまくいけば月収が100万円ほどになることもあり、「学歴だけで決まるわけではない。やった分だけ結果につながる世界もある」と実感しました。

会社勤めを続ける中で、「40歳になったら行政書士として独立しよう」という思いを持っていました。ちょうどその頃、マンション管理士制度が創設されました。もと夫から「これから重要になる資格ではないか」と勧められたことがきっかけで勉強を始めました。

勉強を進めるうちに、マンションの維持管理の問題と、当時社会的に大きく取り上げられていた年金問題が重なって見えてきました。マンションは多くの人にとって人生で最も大きな資産の一つであり、その管理のあり方が将来の生活にも大きく関わる重要な問題であると感じました。

そこで、当初考えていた行政書士ではなく、マンション管理士として独立することを決めました。独立前には、これまで経験していない業界にも触れておきたいと考え、保険業界で1年ほど勤務した後、マンション管理士として独立しました。

2004年に「稲葉マンション管理士事務所」として個人事務所を立ち上げ、2011年に法人化して株式会社マンション夢設計を設立しました。

ターニングポイントは「離婚」――“もう後がない”からこそ踏ん張れた

――これまでを振り返って、ターニングポイントだと感じる出来事は何ですか。

個人事務所から法人化したときも一つの転機ですが、人生全体で振り返ると離婚が大きなターニングポイントだったと思います。

離婚すると、自分の力で生活を成り立たせなければなりません。それまでは家庭があり、収入が多少不安定でも生活は成り立っていましたが、自分一人で生きていく自信がなく、なかなか踏み切れませんでした。

そんなときに女性起業家が集まる会に参加する機会があり、相談してみたところ「思い切って前に進んだ方がいい」と背中を押していただきました。それが決断のきっかけになりました。

仕事の転機というより、「もう後がない」という状況になったことで踏ん張るしかなかったというのが正直なところです。子どももいましたので、何としてもやっていかなければならないという思いでした。

「管理組合に営業する」難しさを越えた、実績づくりと紹介の流れ


――管理組合の理事長の連絡先すら分からないことも多いと思います。どう開拓していくのでしょうか。

そうですね。マンション管理士は名称独占資格で、独占業務があるわけではありません。ですから最初は実績を積むしかありません。
自治体の無料相談会に相談員として参加しながら経験を積みました。さいたま市でも相談会があり、最初は先輩のマンション管理士と一緒に相談を受けながら経験を重ねました。

私の最初の顧客も、さいたま市にある15戸の管理組合でした。ただ、自分で開拓したというより先輩のマンション管理士からのご縁です。その方は会社勤めで顧問契約を受けることができず、「やってくれる?」と声をかけていただいたのがきっかけでした。当時は月額1万9,000円でお受けしました。今では考えられない金額ですが、頼まれた仕事でしたのでお引き受けしたのがスタートです。

その後、業界で影響力のある方と出会い、弟子入りのような形で1年ほど一緒に仕事をしました。その方の業務を手伝いながら顧問契約が増える中で担当を任されるようになり、経験を積んでいきました。

相談会を続けていると声がかかるようになり、「紹介」が増えていきます。以前相談したマンションの住民の方から、別のマンションで理事をしているので見積もりをお願いしたいと連絡をいただくこともありますし、管理会社から紹介されることもあります。

さらに私は東京都マンション管理士会に所属しており、港区や中央区などで相談員を担当しています。そこから管理組合の方が「管理規約を改正するので見積もりを出してほしい」と依頼してくださることもあり、その場合はプレゼンを行い業務を受託する形になります。

このように、一つひとつのご縁を積み重ねながら、少しずつ仕事が広がっていったというのが実際のところです。

自治体と組む“仕掛ける営業”

――近年は自治体を巻き込んだ動きもされているそうですね。

近年は新潟県湯沢町で、毎月マンション管理のセミナーと相談会を開催しています。湯沢町には51のマンション管理組合があり、100戸以上の大型リゾートマンションが多い地域です。

リゾートマンションでも維持管理の課題は一般の住宅マンションと変わりません。大規模修繕や修繕積立金不足など、将来の維持管理に悩む管理組合も少なくありません。

そこで「湯沢町まるごとサポート事業」を立ち上げ、自治体とも連携しながら支援を進めています。町の大会議場を無償でお借りし、広報や資料印刷にも協力していただいています。

この取り組みを持続させるため、現在は管理組合向けの顧問契約も進めており、この春には最初の契約が生まれる予定です。

――この取り組みは、地域のマンション管理士の活躍の場づくりでもあるのでしょうか。

そうですね。地方では、首都圏のマンション管理士のように業務を広げていくのが難しいケースも多いのが実情です。また、地域の管理士会が東京都マンション管理士会のように活発に活動できているかというと、必ずしもそうとは言えません。

私自身、この取り組みを利益追求だけを目的として始めたわけではありません。地方でこうした活動を進めていくと、必ずマンション管理士の力が必要になります。そうなったときには、まず地域のマンション管理士の方々に担っていただければいい。もし地域で対応が難しい場合には、マンション夢設計から人材を派遣することも考えています。

また、やる気のある方であれば、当社で教育し、実務を身につけてもらうこともできます。マンション管理士という資格は、名乗るだけでは仕事にはなりません。実務を身につけてこそ、はじめて社会の中で役割を果たせる資格だと思っています。

だからこそ、実際に活躍できる場をつくることが大切だと考えています。地域のマンションを支援する取り組みを通じて、マンション管理士の仕事が生まれ、そこから雇用も生まれる。支援でありながら、同時に持続可能な事業として成り立つ形をつくりたい―そういう思いで取り組んでいます。

組織は「提携」でつくる。1人ではできないからこそ、理念でつながる

――3年後の売上目標を「5倍」とお話されていましたが、実現に向けた課題は何ですか。

一番の課題は人材です。手伝ってくれる人、実際に現場で動ける人、そして仕事としてきちんと責任を持てる人材が必要です。マンション管理士は名称独占資格で、そもそもの人数が多くありません。さらに言えば、私の考え方や取り組み方に共感してくれる方でないと、一緒に仕事をするのは難しい面があります。

湯沢町まるごとサポート事業は、将来につながる取り組みだと考えているからこそ続けています。毎月1回、新幹線で通うことも私にとっては楽しみです。こうした思いを共有できる人であれば、この取り組みを一緒に進めていけると思います。

目先のコンサルティングフィーだけを基準に「この仕事はいくら」という考え方だけではなく、地域のマンションの課題を解決し、その結果として仕事が広がっていく――そういう発想を共有できることが大切だと考えています。

実際には、そうした考え方に共感してくださる方は男女問わずいらっしゃいますが、どちらかというと女性の方が柔軟に理解してくださる方が多い印象もあります。いずれにしても、最後はやはり“考え方”が合うかどうかが重要だと思っています。

65歳までに“二拠点”へ。宮崎に拠点を移し、組織で動ける形をつくる

――最終的に会社をどういう姿にしていきたいですか。

私は今61歳ですが、65歳までには宮崎にも拠点を持ちたいと考えています。会社の本拠は現在の場所に置きながら、宮崎との二拠点で活動できる体制をつくりたい。宮崎は私の実家があり、育った場所でもありますので、将来的には月の半分以上を宮崎で過ごすような働き方ができればと思っています。

今はオンラインでも多くの業務ができる時代です。もちろん人材不足は課題ですが、仲間が増えてくれば、それぞれのメンバーに現場を担ってもらうことも可能になります。私は全体を俯瞰して監督する立場として、組織として動ける形にしていきたいと考えています。

現在、提携していただいているマンション管理士の方は3名ほどいらっしゃいますが、今後はその体制をもう少し広げていくのか、あるいは社員として迎える形にするのかは、まだこれから検討していく段階です。ただ、いずれにしても人材をしっかりと育て、私はその活動を支える立場になっていきたいと思っています。

リフレッシュは「ペット」と「韓国ドラマ」。仕事を切り替える時間も大事

――お休みの日のリフレッシュ方法を教えてください。

家ではペットと過ごす時間が一番のリフレッシュですね。猫が1匹と、犬が2匹います。犬はシェットランド・シープドッグ(シェルティ)の兄妹です。休日は一緒に過ごしたり、シャンプーに連れて行ったり、家でシャンプーしてあげたりしています。

それから、年に数回は娘と休みを合わせて、犬と泊まれるホテルに出かけます。春と秋に1回ずつ、年に2回くらいですね。その日は「絶対に仕事を入れない」と決めて、一泊ですがリフレッシュするようにしています。

もう一つ、最近は韓国ドラマにもはまっています。以前は「何がそんなに面白いのだろう」と思っていましたが、見てみると想像以上に面白く、すっかりはまってしまいました。

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