職人社長が挑む──二次下請けの壁を越え、一時受注へ挑む造作大工

株式会社早月工務店 代表取締役 田中禎高氏

マンションや学校、ホテルなどの内装木工事を手がける株式会社早月工務店。大工として現場に立ち続けてきた田中禎高氏は、仲間とともに会社を立ち上げ、今まさに“次の段階”へ進もうとしています。本記事では、事業の現状、経営への思い、組織づくり、そしてこれからの挑戦について伺いました。

造作大工として築いてきた現在地

――現在の事業内容について教えてください。

メインでやっているのは、マンションなどの内部をつくる木工事です。床を張ったり、壁の下地を立てたり、天井に木を張ったり。いわゆる内装工事に近い造作大工の仕事ですね。建物の構造ができあがったあとに入る工事が中心です。図面通りに納めるのは前提ですが、実際の現場では図面だけでは収まらない細かな調整も出てきます。そこをどうきれいに仕上げるかが腕の見せどころです。

学校などの公共工事や、ホテル、商業施設の木工事も手がけています。最近はリゾートホテルのような規模の大きい案件も増えてきました。構造はRCでも、内装に木を取り入れるケースは確実に増えていると感じます。完成した現場を見たときに「ああ、いいな」と思える瞬間があると、この仕事をやっていて良かったと思います。

うちは造作大工が専門です。ネット上ではさまざまな業種が並んでいることもありますが、何でもできる会社ではありません。できないことはできないと線を引く。その代わり、任された分野は責任を持って丁寧に納める。それが基本姿勢です。

――仕事をするうえで、特に大切にしていることは何でしょうか。

求められた以上のものを出せるかどうかです。図面通りに終わらせるだけでは、正直なところ自分の中では納得できません。もちろん、まずは指示通りに仕上げることが大前提です。ただ、その一歩先に「使う人がどう感じるか」「次の工程の人が仕事しやすいか」という視点を持てるかどうかで、仕上がりは変わると思っています。

現場では段取りがすべてです。段取りが悪いと、どんなに腕があってもいい仕事にはならない。だからこそ、自分たちは自分たちの持ち場をきちんと整え、次の職種に気持ちよく渡せるように意識しています。細かい納まりや見えない部分こそ手を抜かない。それが信頼につながり、また呼んでもらえる理由になるのだと思います。

職人としての意地もあります。言われたことだけをやるのではなく、「ここまでやってくれたのか」と思ってもらえる仕事をする。それを積み重ねてきたからこそ、今があると感じています。

個人事業から会社へ──仲間と進む決断

――会社設立のきっかけを教えてください。

もともとは個人事業主で大工をしていました。自分指名で現場に呼ばれることも増えて、ありがたいことに仕事は途切れなかったんです。ただ、案件が重なってくると、一人でこなせる量にはどうしても限界がある。応援を頼み、仲間が増え、中国人のグループも一緒に動くようになって、気づけば大所帯になっていました。

そのときにふと、「これはもう個人で抱える規模じゃないな」と感じたんです。仕事の段取り、支払い、安全管理、責任の所在――どれを取っても、個人事業の枠を超えていました。だから会社にしたいという夢が先にあったわけではありません。「この形で続けていくなら、会社にするしかない」というのが正直なところです。

みんなでやっていくなら、看板も責任も共有できる形にしたい。そう思って会社にしました。自分が儲けたいとか、規模を大きくしたいとか、そういう気持ちはあまりなかったですね。私は大工の仕事が好きなんです。木に触れて、形にして、完成した空間を見る。その瞬間は何度経験しても嬉しい。でも、どんな現場も一人ではつくれません。仲間がいて、それぞれが役割を果たして初めて成り立つ仕事です。だからこそチームワークは崩したくない。会社にした今も、その気持ちは変わっていません。

――会社を作ってから、意識の変化はありましたか。

大きかったですね。個人のときは「自分が動けば何とかなる」と思っていました。自分が現場に入って、自分が段取りを組んで、自分が納める。それで完結していた部分がありました。でも会社にすると、自分一人の問題ではなくなります。段取りひとつで仲間の動きが変わるし、判断ひとつで会社全体に影響が出る。自分の決断が、そのまま仲間の仕事や生活につながっていく。そこは強く意識するようになりました。

現場に立ちながらも、「この先どう続けていくか」を考えるようになりました。目の前の仕事を納めることだけでなく、次につながる動きができているかどうかも考えるようになった。自分が叩き続けるだけでは限界がある。仲間が力を発揮できる環境を整えることも、自分の役目だと感じています。

自分一人が上手くいけばいいという考えではなく、全体がうまく回るかどうかを見るようになった。その視点の変化が、一番大きかったと思います。

仲間とつくる現場力

――組織づくりで大切にしていることは何でしょうか。

今、大工は私以外に一人親方大工が7人協力してくれてます。そのうち年配の2人は、実は自分の師匠なんです。弟子だった自分についてきてくれている。それは本当にありがたいことですし、正直、身が引き締まる思いもあります。自分が中途半端なことをすれば、そのまま現場に出てしまう。だからこそ、会社としての姿勢は常に意識しています。

強みはチームワークだと思っています。うちは一人親方の集まりではなく、同じ方向を向いて動けるチームでありたい。手直しになりそうな部分は事前に話すし、「ここはこう納めたい」と自分の考えも伝えます。現場では直接声をかけることを大事にしています。図面だけでは伝わらないニュアンスもあるので、顔を合わせて共有する。それだけで仕上がりは変わります。

年配の職人も若い職人もいますが、経験の違いがあっても現場では同じ方向を向くことが大事だと思っています。自分が間に立ち、考えを共有しながら動くことで、現場全体のまとまりが出てくると感じています。

――現場との距離感については、どのように考えていますか。

現場は好きですし、できるだけ回ろうと思っています。経営者になったからといって机に座っているだけでは、やっぱり分からない。職人としても、経営者としても、現場を見ないと判断できないことが多いんです。

求められた以上のものを出せたとき、初めてプロだと思っています。図面通りに終わらせるだけでは物足りない。「ここまでやるのか」と思ってもらえる仕事をしたい。そのためには、自分が現場の空気を感じ続けていることが大事だと感じています。

弟子だった自分が会社をつくり、師匠と肩を並べて仕事をする。その関係性を大切にしながら、もう一段上の仕事を目指していきたいと思っています。

二次下請けの限界を越えて──主導できる会社へ

――現在の経営課題は何でしょうか。

今は大手ゼネコンの二次下請けとして入ることが多いです。個人事業の頃からの流れもあり、その延長でここまでやってきました。ただ、このままでは限界があると感じています。

二次のままだと、うちの職人は三次になります。応援を頼めば四次になる。そうすると、手間受けや常用の仕事が中心になり、利益にもどうしても限界がある。せっかく仲間と会社にしたのに、この形のままでいいのかと考えるようになりました。

段取りの悪い上位会社に振り回されることもあります。職人としては「やるべきことをやってから言ってくれ」と思う場面もある。でも立場上、飲み込まなければならないこともある。だからこそ、自分たちで主導できる立場を目指したいと思っています。

――その課題に対して、どのような取り組みを始めていますか。

まずは流れを変えることから始めました。交流会に出て、新しいつながりを広げています。これまでの延長線だけではなく、別のルートをつくろうと動き出しました。

マンションのリノベーションもその一つです。公共工事のように時期で波が出にくく、年間を通して需要があると感じています。実際に始めてみると、安定して声をかけてもらえるようになりました。

そして今、見積もりや営業にも取り組んでいます。これまで現場中心だった自分にとって、図面から数量を拾い、相場を確認し、数字を出す作業は初めてのことばかりです。三角スケールを手に、図面と向き合いながら一つずつ覚えています。正直、現場に出られないほど事務作業に追われる日もありますが、避けては通れないと思っています。

――今後の展望について教えてください。

目標は、一時下請けとして材料から受け、段取りから主導できる体制を整えることです。ただ、焦って広げるつもりはありません。何でもやりますとは言わない。木造住宅のリノベーションなど、やってみたい気持ちはありますが、今の体制で本当に責任を持てるかどうかが判断基準です。

最後まで胸を張って納められる仕事かどうか。そこをぶらさずに、できることを確実に広げていきたい。仕事も縁も、丁寧に積み重ねながら、仲間とともにもう一段上を目指していきます。

縁がつなぐ、もう一つの原動力

――仕事を続ける中で、大切にしているものは何でしょうか。

私はもともと大工として現場に立つことが好きです。木に触れて、形にして、最後に仕上がった空間を見る。その瞬間はやっぱり嬉しい。

でも、今はそれだけではなく、人とのつながりも大事にしています。交流会に出たり、現場以外の場所で人と会うようになったのもここ数か月です。それまでは、正直そこまで外に出るタイプではなかった。けれど、新しい縁から新しい仕事の話が生まれることもあると実感しています。

――リフレッシュ方法はありますか。

飲みに行くのが好きですね。仲間と時間をつくって集まることもありますし、一人で飲みに行くこともあります。

一人で行った居酒屋で知り合った人と、その後も交流が続くこともあります。実は会社のロゴも、仙台の居酒屋で知り合ったデザイナーにお願いしました。公務店という名前はどうしても堅い印象があるので、少し柔らかさのあるデザインにしてほしいと伝えてつくってもらいました。

そういう偶然の出会いが形になることもある。これからも、仕事も縁も、どちらも大事にしていきたいと思っています。

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