自由という名に込めた想い──治療と支援で「笑顔になれる社会」を目指す挑戦
株式会社Vapaus 代表取締役 田中宣臣 氏
障がいのある人やその家族が感じる不自由を少しでも減らし、笑顔で過ごせる社会をつくりたい──。そんな思いから事業を展開しているのが株式会社Vapausです。治療院の運営を軸にしながら、障がいのある方への支援の可能性を広げようと取り組んでいます。本記事では、事業の背景や社名に込めた意味、今後の展望について、代表の田中宣臣氏に伺いました。
社名に込めた「自由」という理念と事業の現在
――現在の事業内容と理念について教えてください。
もともとは鍼灸の治療院として事業をスタートしました。ただ、会社としてはもう少し福祉の領域にも広げていきたいという思いがあり、放課後等デイサービスの事業を立ち上げようと考えてホームページも作りました。しかし、その事業は最終的にオープンまで至らず、現在は治療院を中心とした活動になっています。
社名の「Vapaus」はフィンランド語で「自由」という意味です。フィンランドは世界でも幸福度が高い国として知られていて、その言葉を調べたときに「自由」という意味がとても印象に残りました。
障がいという括りにされている方や、そのご家族は、現在の社会では不自由を感じることが多いと感じています。だからこそ、その不自由を少しでも減らして自由な方向へ進める手助けができたらという思いで、この名前をつけました。
治療院に来てくださる方が安心して過ごせたり、少しでも笑顔になって帰っていただける社会にしていきたい。その思いが事業の根底にあります。
治療という仕事を通して、身体の不調だけでなく、その人の生活や気持ちにも寄り添える存在でありたいと考えています。一人ひとりが自分らしく過ごせるような環境をつくることも、私たちの役割の一つだと思っています。そうした思いを大切にしながら、できることを少しずつ広げていきたいと考えています。
娘の存在が変えた人生と治療家への道
――治療の道に進まれたきっかけを教えてください。
一番のきっかけは娘の存在です。もともとは別の仕事をしていましたが、娘が生まれて少し経った頃、脳性麻痺という障がいを発症したことをきっかけに、自分にできることはないかと考え、鍼灸の資格を取るために仕事を辞めて学校に通いました。小さな身体で生きようと頑張る子どものために、何か力になれることをしたいという思いが大きかったですね。
治療院を始めた当初は、周りから「腰痛など痛みの治療の方が患者数が多いから、まずはそこから始めた方が安定する」と言われ、腰痛を中心とした治療を行ってきました。
もちろん痛みが楽になって喜んでいただけるのは嬉しいことです。しかし、自分の中では「本当にやりたいことは何だろう」という違和感もずっとありました。娘のためにこの道に進んだのに、なぜ腰痛の専門治療をしているのだろうと考えることもありました。
志なかばでの断念とはなりましたが、娘が学校とデイサービスで撮った写真を見比べた時に、あまりいい顔をしていないことを目にしました。それを見て、「娘が笑顔になれる場所をつくりたい」と考えるようになり、放課後デイサービスの開設を決意しました。
今はその思いを大切にしながら、障がいのある方への治療にも関わり、少しずつ自分の目指す方向へ広げていきたいと考えています。娘の存在があったからこそ、この仕事の意味を深く考えるようになりました。目の前の一人の人生に向き合う仕事だからこそ、これからも自分自身の原点を忘れずに歩んでいきたいと思っています。
人として向き合う治療と組織づくり
――組織づくりや働く仲間について、どのように考えていますか。
現在は一人で治療院を運営しています。今後、人を増やす可能性はありますが、今の時点ではすべて自分でやっている状況です。
もし一緒に働く人を迎えるとしたら、同じ思いを持ってくれる人がいいですね。私の考え方に共感してくれる方であれば、一緒に取り組んでいけるのではないかと思っています。
治療に対する考え方も、できるだけ「人全体を見る」ということを大切にしています。例えば腰痛でも、腰だけを見ればいいというわけではありません。首や足など、体全体の状態が影響していることもあります。
症状や診断名だけで人を見るのではなく、その人自身をしっかり見るということを大切にしています。障害のある方でも、大人でも子どもでも、同じ一人の人として向き合うという考え方です。
今よりも笑顔で過ごせる状態になれるように、将来を変えていく覚悟で接していきたいと思っています。そうした姿勢を共有できる仲間と出会えれば、より多くの人に寄り添える治療ができるようになるのではないかと感じています。まだ小さな体制ではありますが、一人ひとりと丁寧に向き合う姿勢を大切にしながら、少しずつできることを広げていきたいと考えています。
障がいのある方と社会の「垣根」をなくす未来へ
――今後の展望について教えてください。
まずは、障がいのあるお子さんや身体に不自由がある方への治療を、もっと広げていきたいと思っています。身体的なことだけでなく、発達の部分も含めてサポートできるような形にしていきたいですね。
また、放課後デイサービスの事業は実現できませんでしたが、業界全体がもっと良くなっていくことも大切だと考えています。中には、療育よりも利益優先のように感じる事業所もあるという印象を持つことがあります。
そうではなく、しっかりと利用者のことを考えた事業所が増えていくことが大事だと思います。自分が事業をやるかどうかは別として、そうした考え方を広げていく存在になれたらと思っています。
障がいがあるかどうかで線を引くような社会ではなく、垣根がなくなっていく社会になればいいと思っています。私自身、娘がいるからこそ、その思いは強いですね。
障がいのある方も、そのご家族も、もっと自然に社会の中で過ごせるようになること。それが最終的に目指している方向です。そのためにも、治療という形だけにとらわれず、関わる人たちの理解が広がっていくことも大切だと感じています。小さな取り組みであっても、目の前の一人と向き合うことを積み重ねながら、少しずつ社会の意識が変わっていくきっかけをつくっていければと考えています。
自然の中で心を整えるリフレッシュ時間
――お仕事以外のリフレッシュ方法を教えてください。
自然のある場所に行くことですね。山などに行って、ぼーっと過ごす時間が好きです。
家族と出かけることもありますが、リフレッシュという意味では一人で自然の中に行くことが多いです。軽く山に登ったり、自然の中で静かに過ごすだけでも気持ちが整います。
日々の仕事の中ではいろいろなことを考えますが、自然の中にいると頭がすっきりします。そういう時間を大切にしながら、また仕事に向き合っています。
忙しい日々の中でも、自然に触れる時間を持つことで気持ちをリセットし、自分自身と向き合うことができると感じています。そうして心を整える時間があるからこそ、治療に向き合うときにも落ち着いて一人ひとりと向き合えるのだと思います。
自然の中で過ごす時間は、自分にとって大切な原点のようなものでもあります。静かな環境の中に身を置くことで、日々の出来事を振り返ったり、これからどう進んでいきたいのかを考える時間にもなります。そうした時間を重ねながら、自分の気持ちを整え、また新しい気持ちで仕事に向き合っていきたいと思っています。