夜間診療の“空白”を埋める挑戦――往診型動物医療が切り拓く新たな夜間診療インフラ

株式会社BARK 代表取締役社長 多々良 蒼真氏

ペットが家族として認識される時代において、夜間の医療体制は依然として大きな課題を抱えています。そうした中、夜間救急を“往診”という形で提供する新たなモデルに挑戦しているのが株式会社BARKです。本記事では、代表取締役社長の多々良氏に、事業の背景や課題、そして今後の展望について伺いました。

夜間診療の常識を覆す往診モデル

――現在の事業内容について教えてください。

BARK夜間救急往診動物病院を運営しています。ミッションとして掲げているのは「夜間診療プラットフォームの構築」で、どこにいても夜間診療を受けられる環境をつくることを目指しています。

現在、夜間動物病院は全国的に非常に少なく、地域によってはまったく存在しないケースもあります。そのため、飼い主の方は遠方まで移動するか、やむを得ず朝まで待つしかないという状況に置かれてきました。こうした課題に対して「往診」という形でアプローチすることで、自宅にいながら夜間診療を受けられる新しい選択肢を提供しています。

――従来との違いや強みはどこにありますか。

従来、動物医療は日中の診療が中心であり、夜間に適切な医療を受けられる環境は十分に整っているとは言えませんでした。
そのため、ペットが夜間に急変しても移動手段をお持ちでない方や、小さなお子様がいるご家庭などでは、医療を受けることができず、不安な時間を過ごさざるを得ないケースが多くありました。

当院では、こうした課題を解決するために「夜間救急往診」という新しい診療スタイルを確立し、ご自宅などへ直接訪問することで、場所を問わず夜間診療を受けられる体制を構築しています。

また、当院の特徴の一つとして、日中は各地域の動物病院で勤務している獣医師が、夜間に業務委託として診療にあたる体制を採用しています。
「地域の夜間医療は地域の獣医師で支える」という考えのもと、地域に根ざした持続可能な医療提供を目指しています。このような運営モデルは、全国的にも新しい取り組みです。

さらに、固定の施設を持たない往診型とすることで、コストを抑えつつ柔軟な対応が可能となっています。血液検査や超音波検査などの基本的な検査にも対応しており、夜間における初期対応や緊急性の高いケースにも一定の医療を提供できる体制を整えています。

原体験が導いた起業への決意

――起業のきっかけについて教えてください。

もともと犬猫の診療を行う一般的な動物病院で勤務していました。その中で、夜間に何かあった場合の対応について多くの相談を受けていたにもかかわらず、実際には「他の夜間対応している病院を探して、ご自身で行ってください」と案内するしかない状況に疑問を感じていました。

特に印象的だったのは、担当していた患者様が夜間に急変し、受診できずに亡くなってしまったケースです。こうした経験を通じて、夜間診療の課題を解決したいという思いが強まり、起業に至りました。

――これまでの経験が現在にどうつながっていますか。

学生時代には保護犬サークルを立ち上げ、約80名のメンバーとともに活動を行い、組織運営やメンバーのマネジメントを経験してきました。もともと行動力はある方だと自覚しており、「この課題は自分がやるしかない」という思いが起業の後押しになりました。

組織運営と直面した課題

――現在の組織体制について教えてください。

正社員は2名体制で、トリミング事業も並行して運営しています。夜間診療については業務委託の獣医師が3名在籍しており、それぞれが協力して業務を回しています。ただ、実際は往診業務の多くを自身で対応しています。

――経営者として印象に残っている出来事はありますか。

開業当初、動物看護師を雇用していましたが、勤務後に居眠り運転で事故を起こしてしまいました。幸い大きな怪我はありませんでしたが、労務管理や配慮が不十分だったと痛感しました。夜間業務特有のリスクを十分に考慮できていなかった点は、今後の大きな課題です。

事業拡大に向けた戦略と課題

――今後の展望について教えてください。

まずは関西エリアでの展開を強化し、3年以内に関西全域へ広げていきたいと考えています。現在は兵庫と大阪が中心ですが、今後は京都などへも拡大していく予定です。

売上としては、3年後には今の10倍規模まで成長させたいと考えています。

――現在の課題はどこにありますか。

最大の課題は人材の確保です。夜間診療に共感し、協力してくれる獣医師をいかに増やすかが重要です。また、診療の幅を広げるために機材導入も検討していますが、スピードとのバランスが難しい点も課題です。

集客については現状ホームページ中心ですが、リソースが限られているため、あえて大きな広告は行っていません。人員が整い次第、段階的に拡大していく方針です。

夜間医療の未来と社会への価値

――今後、どのような動物医療を実現したいと考えていますか。

夜間に診療を受けられず、諦めざるを得ない状況をなくしたいと考えています。自宅で医療を受けられる環境を整えることで、多くの命を救える可能性があります。

特に中毒などは数時間以内の対応が重要であり、夜間往診の存在によって救えるケースは確実に増えると考えています。

――最終的なビジョンを教えてください。

夜間救急往診を全国に普及し、さらに既存の夜間動物病院とも協力することで「夜間診療プラットフォーム」を構築したいと考えています。重症患者にも対応できる体制を整え、必要に応じて搬送まで行える仕組みをつくることで、夜間医療のインフラを日本に根付かせたいです。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

新しいことに挑戦するのは不安もありますが、それ以上にワクワクややりがいがあります。実際に動き出すことで、多くの人が共感し、支えてくれるようになります。

完璧に準備してからではなく、まず一歩踏み出すことが大切です。挑戦することで見える景色が必ずあるので、恐れずに行動してほしいと思います。

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