企業の“意図”を技術で翻訳する思想駆動型プロダクトの経営哲学
株式会社CORIN 代表取締役 中村聖子氏
株式会社CORINは、アパレル・小売企業を中心に、アプリの開発・運用を支援するプラットフォーム「TENCO」を提供しているIT企業です。2015年の創業以来、女性社長ならではの細やかな視点と、業務理解に基づいた開発・提案力を強みに、企業の売上向上とユーザー体験の改善に取り組んできました。
その中でCORINがたどり着いた独自のアプローチが、“思想駆動型プロダクト” です。従来のSaaSが前提としてきた「テンプレートに事業を合わせる」という発想から脱却し、企業が大切にしている価値観・CX・収益構造を深く理解し、それをプロダクトに反映していくという考え方です。
本記事では、代表取締役の中村聖子氏に、創業の背景、思想を軸にしたプロダクトづくりの哲学、組織づくり、そして今後の展望について伺いました。
目次
事業を伸ばすためのアプリは“仕組み”からつくる
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
TENCOは、ノーコードで運用できる管理画面を備えつつ、デザインや導線、機能の優先順位まで、企業の独自性を反映できる柔軟さが特徴です。また、基幹システムやPOS、MAツールなど、外部システムとの連携にも強く、既存のアセットを活かした最適な体験設計を実現できます。
私を含めた創業メンバーが業務システムの出身であるため、システム全体の連携や業務フローを踏まえて提案・設計できることも、他社にはない大きな価値だと考えています。
さらに、プッシュ通知やクーポンなどの基本機能に加え、ガチャ機能や抽選、アドベントカレンダーなど、売上向上につながるマーケティング機能も充実しています。私たちが重視しているのは、“アプリを作る”のではなく、企業の思想をシステムに落とし込み、“事業を伸ばすための仕組みをつくる”ことです。
――他社との違いや強みはどのような点にありますか。
一般的なアプリ開発サービスはテンプレートをベースにデザインや機能を当てはめていくものが多いですが、TENCOは「事業の構造や背景を理解するところから始める」点が大きく異なります。
企業ごとに、「どんな顧客体験を提供したいのか」「どの導線が売上に寄与するのか」「どのデータをどのタイミングで活用すべきか」といった“前提となる思想”が異なります。私たちはその思想を深く理解したうえで、アプリの構造やUI、外部連携、運用フローまで含めて設計します。
そのため、単なるツール提供ではなく、事業の成長に必要な仕組みを、技術と運用の両面から支援できることが、CORINの大きな強みだと考えています。
システムに合わせる時代に終止符を打つための起業
――創業の経緯について教えてください。
前職では、基幹システムやPOSなどの業務システムに携わっていましたが、その中で「お客様が本当にやりたいことが実現できない」場面を多く見てきました。
たとえば、「ベンダー間の関係性によって連携が制限される」「仕様という免罪符で切り抜けようとする」といった状況です。そのたびに、「なぜ想いのある事業主側がシステムに合わせなければいけないのか」という強い違和感を抱いていました。
企業にはそれぞれの価値観や顧客体験、収益構造があり、本来はその“思想”に合わせてシステムが変わるべきだと考えていました。その想いが強くなり、制約に縛られず、お客様の成長に寄り添えるサービスをつくりたいという気持ちから独立を決意しました。
この経験が、現在の思想駆動型プロダクト TENCOの原点になっています。
正しいことを正しくやるための思想を軸にした経営
――経営において大切にしている価値観を教えてください。
お客様との関係では、言われたことをそのまま実行するのではなく、必要であればリスクも含めて意見を伝えることを大切にしています。
「本当にその企業のためになるのか」「長期的に見て正しい選択なのか」「企業のその先のお客様のためになっているのか」を軸に判断し、違うと感じた場合には、理由を含めてきちんとお伝えします。
また、他のお客様やパートナーに影響が出る可能性がある場合は、お断りすることもあります。価値に見合った価格で、健全で誠実な関係性を維持することも、長期的な信頼につながると考えています。
社内においても同様に、社員の意見を尊重しながら、できないことは明確に伝えることを重視しています。納得感を持って働けるよう、ソクラテス式問答法を用いて、自分自身で最適解を見つけられるような対話を大切にしています。
判断軸を持つ組織が最強のチームをつくる
――組織運営で意識していることは何でしょうか。
以前はフラットで風通しの良い組織を重視していましたが、それだけではかえって迷いや負担が生まれることに気づきました。
現在は、役割や指示系統を明確にし、「自分の判断軸を持って、お客様のために動ける状態」をつくることを大切にしています。ルールは縛るためのものではなく、メンバーが迷わず力を発揮できる“土台”だと考えています。
その土台があることで、個々の強みが自然と立ち上がり、結果としてチームとしての成果にもつながると考えています。
――社員に求める人物像について教えてください。
「誠実であること」「真面目であること」を大切にしています。スキルよりも、相手や状況に対してまっすぐ向き合えるか、逃げずに取り組めるかを重視しています。
加えて、自分の頭で考えられる人と一緒に働きたいと思っています。TENCOは柔軟性のあるサービスなので、イレギュラーなことが多く起こります。そのときに「なぜそうなったのか」「どうすればより良くなるのか」を言語化し、周囲と共有しながら前に進める人は、どんな環境でも成長し、良いシナジーを生み出せると感じています。
CORINは“思想駆動型”という考え方を大切にしているので、自分の判断軸を持ち、状況に合わせて柔軟に意思決定できる人が、チームにとっても、お客様にとっても大きな力になります。
人とAIが補い合う“思想駆動型チーム”の未来
――今後の展望について教えてください。
現在の主力であるアプリパッケージTENCOの拡販は、引き続き大きなテーマです。そのうえで、CORINが掲げる思想駆動型の考え方を、より多くの企業に届けていきたいと考えています。
思想駆動型のサービスは、企業の価値観や顧客体験を理解しながら、プロダクトを継続的に進化させていくアプローチです。単なるSaaSの提供ではなく、企業の“思想”を起点に、売上やLTV、ユーザー体験までを変えていく新しい価値提供を目指しています。
私たちがつくりたいのは、「アプリを作る会社」ではなく、企業の成長を支える“思想の翻訳者”であり続けること。その企業が大切にしている価値観を、UIや体験、運用、コミュニケーションに落とし込み、長期的な成果につなげていく存在でありたいと考えています。
――今後の構想について教えてください。
今後は、CORINのメンバー一人ひとりの強みやスタイルを“見える化”し、お客様が自分に合ったPMやエンジニアを選べる仕組みをつくっていきたいと考えています。美容院でスタイリストを指名するように、「この人の判断が好き」「この人の進め方が合う」といった相性や価値観で選べる世界を実現したいと思っています。
そのうえで、希望のリリース時期や難易度、AI・PGとのバランス、リソース状況などを踏まえて、AIが裏側で最適なチーム構成や価格を自動で調整する仕組みも構想しています。
お客様は“誰とつくるか”を選び、AIは“どう組むか”を最適化する。そんな役割分担を目指しています。
企業の思想と、CORINのメンバーの強みが、AIによって最適にマッチングされる未来。その延長線上に、私たちが目指す“思想駆動型クリエイティブ集団”の姿があると考えています。
ロゴは残らない。思想は残る
――影響を受けた人物や出来事について教えてください。
長年お世話になった経営者の先輩であり親友から、仕事の技術以上に「どんな姿勢で向き合うべきか」を学びました。
その方は、どんな状況下でも相手への気遣いや現場への敬意を決して忘れない人でした。困難な状況でも弱さを見せず、むしろ周囲が前を向けるように明るく振る舞う姿が印象的でした。
特に心に残っているのは、「うちは“空間をつくる仕事”だからロゴは残らない。でも“自分たちのにおい”がする作品をつくっている」という言葉です。
その言葉を聞いたとき、“作品”とはロゴや名前ではなく、思想や美意識がにじみ出るものなのだと気づきました。
TENCOで開発したアプリもロゴは入りません。でも私は、「CORINの作品だね」「CORINのにおいがするね」と言われるような、誠実で、美意識のあるプロダクトをつくりたいと考えています。
その方の背中を見てきた経験が、今の私の価値観の基盤になっています。誠実であること、逃げないこと、あきらめないこと、そして相手の思想を丁寧に汲み取ること。どれも、今のCORINの仕事に直結している大切な姿勢です。
――休日の過ごし方について教えてください。
美味しい食事とお酒でリフレッシュしています。ただ、飲んでいるときにふと「この店のUX、TENCOで再現できるな…」などと考え始めてしまうので、結局どこにいても仕事をしている気がします(笑)。
でも、そんな“ゆるい仕事モード”が意外と良いアイデアを生むので、これはこれで大事な時間だと思っています。