一杯の日本茶で「ほっと一息」を。伝統と革新で繋ぐ、地域に根ざした専門店

有限会社山田屋茶舗 山田真衣氏

福岡県大牟田市。熊本県との県境に位置するこの地で、創業80年の歴史を刻むのが「山田屋茶舗」です。八女茶をメインに、厳選された契約農家の茶葉を独自の感性でブレンドする「山田屋ブランド」は、地域の人々に長く愛されてきました。しかし、時代の変化と共にお茶を急須で淹れる習慣は薄れつつあります。そんな中、前職の保育士から転身し、次期4代目として伝統を受け継ぐ山田真衣氏は、日本茶専門店としてのこだわりを守りつつ、マルシェの開催やティースタンドの運営など、今の時代に合った「お茶との接点」を次々と創出しています。

80年の伝統を守り、独自の「山田屋ブランド」を磨き続ける

――まずは、山田屋茶舗様の事業内容と、他にはない強みについて教えてください。

弊社は大牟田市と、熊本県荒尾市に計4店舗を展開する日本茶専門店です。看板商品は八女茶ですが、鹿児島・静岡の契約農家など、産地ごとの個性が光る茶葉を仕入れ、自社で独自のブレンドを行っています。店内に並ぶ商品の8割は自社ブレンドで、仕上げの袋詰めまでスタッフがひとつひとつ手作業で行うのがこだわりです。この徹底した品質管理と独自性こそが、他では味わえない「山田屋ブランド」の証だと自負しています。

また、専門知識を持ったスタッフが常駐していることも大きな強みです。大牟田で唯一の「日本茶インストラクター」が在籍しているほか、各店舗には必ず1名「日本茶アドバイザー」の資格を持つスタッフを配置しています。日本茶は淹れ方一つで味が全く変わります。お客様の好みやライフスタイルに合わせて、最適な茶葉や美味しい淹れ方をご提案できる体制を整えています。

――「山田屋ブランド」のお茶作りにおいて、最も大切にしていることは何でしょうか。

香りと旨味、そして飲んだ後の余韻のバランスです。私たちが目指しているのは、日常の中でふっと肩の力が抜けるような、心が「ほっと」する一杯。そのためには、ただ高級な茶葉を揃えるだけでなく、ブレンドの妙でお客様が毎日飲みたくなるような飽きのこない味を追求し続けています。

保育士から茶の道へ。エスカレーター式に始まった「必然」のキャリア

――山田様が家業に入られたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

実は、もともとは保育士をしていました。お茶の世界に進むことは全く考えていなかったのですが、仕事中に腰を痛めてしまい、保育士を続けられなくなったタイミングがあったんです。ちょうどその頃、お店のスタッフが不足しており、父から「無理のない範囲で手伝ってみないか」と声をかけられたのが始まりでした。

最初はあくまでお手伝いのつもりだったのですが、現場に立つうちにいつの間にか店長になり、気づけば次期4代目として名乗りを上げることになっていました。

――ご自身の中で、迷いや葛藤はありませんでしたか?

それが不思議なほど違和感がなかったんです。創業した曾祖父から代々男性が継いできた家系なので、周囲も「次も男性だろう」と思っていた部分はあったかもしれませんが、私自身は「偶然は必然」だと思っています。もし保育士を続けていたとしても、いつかはお茶の道に進んでいたはず。それが少し早まっただけなのだと自然に受け入れています。今では、地域活動にも積極的に参加するなど、山田屋が掲げる「地域に根ざした専門店」という理念を自分なりに形にすることにやりがいを感じています。

災害とコロナ禍を乗り越えて。「お茶への入り口」を広げる挑戦

――近年、水害やコロナ禍など、お店を取り巻く環境は激変したかと思います。その中でどのような変化がありましたか?

大牟田を襲った大きな水害と、コロナ禍がほぼ同時にやってきた時期が一番の正念場でした。一店舗を閉めるという苦渋の決断もありましたし、外出自粛の影響でお客様の足が遠のく不安も経験しました。

そんな中、父と「新しいお客様に山田屋を知ってもらうための『入り口』を作ろう」と話し合い、4年前に始めたのが「大判焼き(回転焼き)」の販売でした。専門店が本気でこだわった和菓子を出そうと、八女の星野村産の抹茶を贅沢に生地に練り込み、他にはないオリジナルの味を開発したんです。

おかげさまで、幅広い層のお客様に来ていただけるようになりました。さらにその1年後には、店内でゆっくりお茶を楽しんでいただくために「ティースタンド」もオープンさせました。無料でお出しする「接茶」だけでなく、たっぷりの容量で抹茶ラテや本格的なお茶を味わっていただくことで、若い世代の方々にも日本茶の魅力を身近に感じてもらえるきっかけになったと感じています。

急須がなくても楽しめる。ライフスタイルに寄り添う新しい提案

――組織運営において、従業員の皆様とのコミュニケーションで大切にされていることは何でしょうか。

組織としては、現在4店舗を経営していますが、スタッフとの「報連相」を何より大切にしています。毎日各店舗を回って現場の声に耳を傾け、困りごとがあれば即解決する。この風通しの良さが、安定したサービスに繋がっています。

採用においても「お茶が好きかどうか」を一番に聞いています。自分が好きでなければ、その魅力をお客様に伝えることはできませんから。

――若い世代のお茶離れという課題に対しては、具体的にどのような仕掛けを?

「最初から急須で淹れてください」とは言いません。入り口はお茶でなくてもいいと思っているんです。例えば、店内で「お茶屋DEマルシェ」を開催し、アクセサリーや他のお店のお菓子を目当てに来た方が、「ついでにお茶も飲んでみようかな」と思ってくれる。そのきっかけ作りが重要です。

また、自身を商品名・キャラクター化した「まい茶ん(まいちゃん)」という日本茶とハーブをブレンドしたティーバッグの新商品を立ち上げました。マグカップで手軽に飲める紐付きタイプですが、女性に寄り添うお茶をテーマに中身はリーフ茶に負けない品質を詰め込んでいます。最近驚いたのは、「家に急須はないけれど、コーヒードリッパーはある」という若い方が多いこと。そこで「コーヒードリッパーで淹れる日本茶」という提案も始めました。「コーヒーに飽きたら日本茶どう?」というキャッチコピーで、今の生活様式に溶け込む形を模索しています。

「お客様目線」こそが譲れない一線。美味しいご飯が明日への活力

――経営者として、これだけは譲れないという信念を教えてください。

「常にお客様目線で、お客様に寄り添うこと」です。これは弊社の経営理念そのものでもあり、80年続いてきた山田屋の根幹です。「自分が売りたいもの」ではなく「お客様が求めているもの」は何か。地域の方々に支えられて今があるという感謝を忘れず、恩返しをし続ける専門店でありたいと考えています。

――お忙しい日々の中でのリフレッシュ方法は何でしょうか。

美味しいご飯を食べることですね。自分で好きなものを作って食べるのも、友人と外食に行くのも大好きです。美味しいものを食べると自然と笑顔になりますし、一番のパワーになります。あとはドライブに行って景色を楽しむことも、良い切り替えになっています。

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