高齢者とペットの間にある壁を越える――“飼いたくても飼えない”を解決するロボットの役割

トレンドマスター株式会社 代表取締役 中田 敦氏

トレンドマスター株式会社は、猫型や犬型などのコミュニケーションロボットを企画・製造・販売し、高齢者を中心とした家族に新たな癒やしのかたちを提供する企業です。中田氏は「家族の幸せを創造する」という理念のもと、ペットを飼えないシニア層の課題に向き合い続けてきました。本記事では、代表の中田氏に、事業の背景や経営観、そして今後の展望についてお話いただきます。

高齢者の孤独に向き合うコミュニケーションロボット事業

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

高齢者向けに、犬や猫などペットの形をしたコミュニケーションロボットを製造・販売しています。ぬいぐるみのような見た目で、ペットの代わりとしてそばに置いてもらえる存在を目指してきました。

この事業を始めてから約15年が経ち、現在は年間1万個弱を販売しています。販売は通販が中心で、店舗展開はほとんど行っていません。シニアの方々から一定の理解を得られていて、喜んでいただけるケースが多い状況です。

――御社の理念にはどのような想いが込められていますか?

当社は「家族の幸せを創造する」という理念を掲げています。

その中で自分にできることは、ペットを亡くした方や、飼いたくても飼えない方に向けて、代わりになるようなロボットを届けることだと考えています。

高齢になると、ペットと暮らしたくても難しい現実があります。犬や猫にとっても、シニアの方にとっても不幸な状況が生まれてしまうことがある。そうした表に出にくい課題に対して、世話の負担が少なく、気軽に触れ合えるロボットで少しでも役に立てたらと思っています。

会社員時代の違和感から始まった独立の決断

――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。

もともとは玩具会社に25年ほど勤め、幹部として仕事をしていました。転機になったのは、会社の合併です。組織の変化の中で自分の居場所がなくなり、結果的に会社を離れて、自分で事業を立ち上げることになりました。

ただ、以前から会社員として働く中で、売上や利益を追いながら社内で競い合うことに違和感はありました。人が消耗しながら組織の中で生きている状況を見て、「これを打破するには、自分でやるしかない」と感じたことも独立の背景にあります。

――これまでの経験が現在の経営にどのように活きていますか?

会社員時代は、部門長として売上や利益を上げることを求められる立場にいました。その経験があるからこそ、今は利益を過剰に追うのではなく、良い製品をつくり、小さな社会問題を解決することを大切にしています。

高齢者向けのロボットも、ただ高機能にすればよいとは考えていません。高齢者福祉の現場に本当に必要なのは、ハイスペックな機械ではなく、昔飼っていた猫を思い出したり、触れることで心が温まったりする存在だと思っています。

技術を前面に出すのではなく、使う人の感覚に合う形で少しずつ届けていく。その現実的な視点が、これまでの経験から得た経営の軸になっています。

価格とリアリティの両立を追求する商品づくり

――商品開発において大切にしている価値観を教えてください。

大切にしているのは「いかに本物に近づけるか」と「買いやすい価格にするか」のバランスです。

技術的には通信機能やAIを搭載することも可能ですが、それによって価格が上がってしまうと意味がありません。ペットショップで売られている動物より高いロボットでは、選ばれる理由がなくなってしまいます。

そのため、価格はあえて抑え、その範囲内で実現できる機能に絞っています。余計な機能を削ぎ落としながらも、「もしかしたら命があるのでは」と感じてもらえるような設計を意識しています。

シンプルでありながら心に残る存在を目指すことが、結果的に価値につながると考えています。

小規模組織だからこそ実現できるスピード経営

――組織運営や社内コミュニケーションで意識していることは何ですか?

現在は社員1人とパート2人という非常に小さな組織です。この規模だからこそ、日々の状況を細かく共有できています。

出荷数や受注状況といった基本的な情報もすぐに把握でき、判断から実行までのスピードが速いのが特徴です。

会議を重ねるのではなく、思いついたことをその場で伝え、すぐに動いてもらう。このスピード感を大切にしています。

――採用や人材に対する考え方について教えてください。

過去に社員を増やした時期もありましたが、コロナ禍で売上が落ち、十分な給与を支払えなくなった経験があります。

その際に辞めていただくことになり、大きな反省として残っています。人を雇うということは、その人の人生に責任を持つことだと強く感じました。

そのため、安易に採用を増やすことは考えていません。もし今後採用する場合は、慎重に判断し、試用期間を設けるなどの対応も必要だと考えています。責任を持てる体制でなければ雇わない、その覚悟が前提にあります。

志ある出会いと学びが形づくる経営観

――尊敬している人物や影響を受けた出来事はありますか?

経営者としての考え方に影響を与えてくれたのは、身近にいた志の高い経営者たちでした。自分より10歳、20歳若い方たちが高い志を持って会社を経営している姿を見て、「自分もこのままでいいのだろうか」と考えるようになりました。

特に『いこーよ』を運営する下元社長からは、事業に向き合う姿勢や会社を成長させていく姿に大きな刺激を受けました。

また、会社員時代の直属の上司だった岩田松雄さんにも影響を受けています。長く顧問として関わっていただき、著書『ミッション』からも経営に対する考え方を学びました。

シニア市場から広がる可能性と今後の挑戦

――今後取り組んでいきたい取り組みはありますか?

現在は、シニア向けの販売ルートを中心に事業を展開しており、カタログ通販やテレビ通販などで大手企業と直接取引をさせていただいています。小さな会社でありながら、そうした企業と継続的に取り組めていることは大きな強みだと思っています。

今後は、その販売基盤を活かしながら商品ラインナップをさらに充実させていきたいです。現在は猫を中心に展開していますが、忠犬ハチ公モデルのような商品も好評で、さらに新しいタイプの開発にも取り組んでいます。

また、猫や犬だけでなく、小鳥を飼っていた方もいらっしゃることから、インコ型のロボットも開発中です。こうした取り組みを通じて、ペットの代わりとなるシリーズを広げていきたいと考えています。

――今後想定される課題と、その対応について教えてください。

1つ目の課題は、Web通販の比率がまだ低い点です。シニア層はテレビや雑誌、新聞を中心に購買する傾向があり、オンラインへの移行が進みきっていません。今後はYouTubeなどを活用し、商品の魅力を分かりやすく伝えることで、徐々にWeb経由の販売を伸ばしていきたいと考えています。

もう1つは海外展開です。猫や犬といったペット型ロボットは言語に依存しないため、そのまま輸出できる可能性があります。高齢化が進むヨーロッパ市場にも目を向け、理解を広げていくことが今後の重要な取り組みです。

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