伝統を守りながら、新しい価値を生み出す──伊藤建具製作所が挑む“組子”の未来

伊藤建具製作所 代表 伊藤 曻 氏

1945年の創業以来、建具づくりの技術を受け継いできた伊藤建具製作所。時代の変化によって建築業界が大きく変わる中でも、伊藤曻氏は伝統技術「組子」を活かした新たなものづくりに挑戦し続けています。本記事では、事業への想いやこれまでの歩み、技術継承への考え方、そして今後の展望について伺いました。 

伝統技術を未来へつなぐ──伊藤建具製作所の現在地

――現在の事業内容や特徴について教えてください。

当社は1945年11月に創業し、父の代から建具屋として続けてきました。私が引き継いでからは、時代の変化に合わせながら少しずつ形を変えてきたんです。昔のように建築業界全体に勢いがある時代ではなくなり、仕事の減少や後継者不足も目に見えて進んでいきました。実際、以前は60〜70人ほどいた組合も、今では解散してしまっています。

そんな中で、「今ある技術を使って何か新しいことができないか」と考えるようになりました。当時、日本各地で新しいものづくりに挑戦する動きがあり、私自身も組子の技術を活かした家具づくりに挑戦したんです。組子を使った家具という発想は当時ほとんど前例がなく、誰もやっていない分野でした。そこに飛び込んだのが20年前ですね。

平成16年からは全国大会にも挑戦しました。全国は本当にレベルが高く、簡単に上位へ入れる世界ではありません。それでも4年間続けて上位に入ることができた経験は、自分にとって大きな財産になっています。技術を磨き続けてきた時間が、自信にもつながりました。

最近では、組子の技術に興味を持つ若い人たちも少しずつ出てきています。業界全体を見ると厳しい状況ではありますが、それでも「学びたい」と来てくれる人がいるのは嬉しいですね。自分が培ってきたものを、少しでも次につないでいけたらと思っています。

苦労の積み重ねが、今の自分をつくった

――これまでのキャリアについて教えてください。

私は中学校を卒業してから、この世界に入りました。当時は本当に忙しい時代で、どこも人手不足だったんです。周りの後継者たちもみんな、昼は親の仕事を手伝い、夜は定時制の建築科へ通っていました。私も同じでしたね。

働きながら学校へ通う生活は簡単ではありませんでした。社会の厳しさも早いうちから知りましたし、勉強を続ける大変さも実感しました。ただ、その経験があったからこそ、今の自分があるとも思っています。苦労した時間が、結果として力になっていったんでしょうね。

建築科を卒業した後は、一級建築士の資格取得にも挑戦しました。結婚して子どももいたので、勉強時間を確保するのは本当に大変でしたが、それでもなんとか取得できました。あの時の努力は、その後の活動にも大きく活きています。

――経営者として大切にしていることを教えてください。

経営をしていく中で大事にしているのは、「同じことだけをやっていては生き残れない」ということです。時代も世の中の流れも変わり続けています。だからこそ、新しいものづくりや挑戦を続けなければ、埋もれてしまうと思っています。

実際、組子家具への挑戦もその一つでした。伝統を守るだけではなく、今の時代に合う形へ変化させていく。その意識を持ちながら、ここまで続けてきました。

信用を積み重ねるものづくり

――組織運営や、お客様との関わりで大切にしていることを教えてください。

やはり一番大切なのは信用ですね。お客様に誠意を持って向き合い、納得していただけるものを作ることです。見た目だけを整えるのではなく、「頼んでよかった」と思っていただける仕事をしたい。その気持ちはずっと変わっていません。

注文をいただいた際も、ただ作るだけではなく、お客様とやり取りを重ねながら進めています。何を求めているのか、どんな空間にしたいのかを聞きながら、一番良い形を一緒に考えていく。その積み重ねが、納得いただけるものづくりにつながるんです。

以前は職人さんたちと一緒に仕事をすることも多くありました。お客様の手元へ届く以上、中途半端なものは出せません。しっかりしたものを作り、責任を持って納める。その意識を共有しながらやってきました。

――技術継承についてのお考えも教えてください。

若い人への技術継承も大事にしています。ただ、技術だけ教えても続かないんです。身につけた技術が生活につながらなければ意味がない。だからこそ、仕事の見せ方や販売方法まで含めて伝える必要があると思っています。

現在来てくれている方の中にも、見込みのある若い方がいます。一緒に進めていけたらという期待もありますね。少しずつでも技術がつながっていけば嬉しいです。

“組子家具”というブランドを、さらに広げたい

――今後の展望について教えてください。

20年前に立ち上げた「組子家具」というブランドを、これからさらに広げていきたいと思っています。ここまで続けてこられたのはありがたいことですが、まだ発展の途中です。

ただ、現実としては人数が少なく、対応できる範囲にも限界があります。これまでも興味を持って来てくれる方はいましたが、継続して一緒に進めていく難しさもありました。その中で、今来てくれている若い方には期待しています。一緒に進めていけたら、新しい展開も見えてくるんじゃないでしょうか。

――現在取り組んでいる挑戦についても教えてください。

課題として大きいのは、やはり発信ですね。ホームページだけではなかなか広がらない部分もあるため、最近はSNSなども活用しながら発信を続けています。年齢的に難しさを感じることもありますが、やれる範囲で挑戦しています。

現在はAmazonへのブランド出展にも取り組んでいます。ブランド申請など分からないことも多く、最初はかなり苦労しました。それでも2人で協力しながら商品登録まで進めることができました。まだ準備段階ではありますが、今後はラインナップを充実させながら、じっくり育てていきたいですね。

伝統技術は、守るだけでは残りません。時代に合わせて変化しながら、新しい形を作っていくことが大切だと思っています。

約束を守り、納得できるものを届け続ける

――経営の中で、これだけは譲れないという想いを教えてください。

経営で一番大事にしているのは、「約束を守る」ということです。そして、自分自身が納得できる製品をお客様へ届けることですね。そこをごまかしてしまったら、長く続けることはできないと思っています。

――休日のリフレッシュ方法についても教えてください。

プライベートでは、息子たちや孫たちに会いに行く時間が楽しみになっています。長男も次男も県外で頑張っていて、本当は後を継ぐ話もありました。ただ、業界の状況を考えた時に、自分の道を進んだ方がいいと伝えたんです。今はそれぞれの場所で頑張っています。

休みの日には、旅行も兼ねながら孫たちの入学など節目のタイミングで会いに行くことがあります。遠方なので簡単ではありませんが、成長を見る時間はやはり嬉しいですね。家族との時間を大切にしながら、これからもものづくりと向き合い続けていきたいです。

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