“看取り合える社会”をとり戻す──任意団体ひとなみが描く、人生終盤の支え合い

こちらOK行政書士事務所/任意団体ひとなみ 代表 勝 桂子(すぐれ・けいこ) 氏

人生のしまい方に悩む人が増える一方で、「お金の不安」ばかりが先行し、人と人とのつながりが薄れている──そんな危機感を抱きながら活動を続けているのが、任意団体ひとなみの勝桂子氏です。行政書士として相続や終活に向き合いながら、現在は「葬祭カウンセラー認定講座」や、お寺・神社を軸にした地域コミュニティづくりにも取り組んでいます。本記事では、勝氏が感じている社会課題や活動への想い、そして今後目指していきたい未来について伺いました。

お金の不安だけで終わらせない地域で支え合う看取りのかたち 

――現在の事業内容について教えてください。

私は行政書士として、相続や遺言など、死後事務に関わる業務を行っています。ただ、相談に来られる皆さんと接していると、「お金の心配ばかりが先立っている」という印象が本当に多いんです。

相続になると、「いくら残るのか」「損をしないか」という話ばかりになってしまい、生きがいや人とのつながりについて語る方が少ない。その状況に危機感を覚えるようになりました。

そこで現在は、「ひとなみ」という任意団体で活動しています。私は、“人が看取り合える社会”をもう一度つくりたいと思っているんです。子どもを頼りたくない人が多い社会になっているからこそ、地域の中で、赤の他人でも支え合える関係性が必要だと感じています。

そのハブとして考えているのがお寺や神社です。全国にはコンビニより多い数のお寺があると言われていますが、その場所をもっと地域のために活かせるのではないかと思っています。

もちろん、お寺やお坊さんに対してネガティブな印象を持つ人が大多数です。ただ、実際には地域のために真剣に動いているお坊さんもたくさんいらっしゃるんです。私は、そういう方々と市民をもう一度つなぎ直したいと思っています。

隣に誰が住んでいるかも分からず、誰とも話さないまま高齢になっていく社会は、やっぱり苦しいですよね。少しだけでも、“昔の地域性”を取り戻したい。そんな想いで活動しています。

震災支援をきっかけに広がったお坊さんとのつながり 

――現在の活動につながるきっかけを教えてください。

私は15年前に、『いいお坊さん、ひどいお坊さん』(ベスト新書、2011年)という本を書きました。東日本大震災の年ですね。

当時、お坊さんたちが炊き出しや支援活動をしているという連絡が、私のところにたくさん届いたんです。もともと葬送を考える行政書士として活動していたので、お坊さんや葬祭業者とのつながりが多かったんですね。

「こんな支援をしている」「こういう活動をしている」という話が全国から集まり、それをまとめたのがその本でした。

それ以来、北海道から九州まで、全国のお坊さんとのつながりができました。今では各地の僧侶研修に呼んでいただくことも多く、お坊さん向けの講演を多数行っています。

その中で強く感じたのは、お寺という場所には、まだまだ人を支える力があるということです。

ただ一方で、人と人との関係性そのものが弱くなっているとも感じています。相続の場面でも、結局はお金の問題だけではなく、兄弟関係や家族のわだかまりが背景にあることが多いんです。

「昔、自分が満たされなかった」
「本当は言いたかったことがある」

そういう感情が積み重なっているケースをたくさん見てきました。だからこそ、単に制度や手続きの話だけではなく、人が語り合える場所が必要なのだと思っています。

小さな組織だからこそできるゆるやかな支え合い 

――組織運営について教えてください。

現在の「ひとなみ」は、私と監修をしてくださっている二村祐輔先生、それから葬祭カウンセラーに認定されたかたの中で数名がサポートしてくれている形です。

ただ、いわゆる常駐スタッフではありません。イベントの時に受付をお願いしたり、その都度サポートしていただくような形ですね。

活動自体も、ずっと手弁当に近い形で続けてきました。イベントでは参加者の方に、「満足した分だけ入れてください」と巾着袋を回して、その半分をお寺へのお布施、半分を資料代などに充てています。なので、利益を目的にしている活動ではありません。

葬祭カウンセラー認定実用講座についても、認定までの受講料のみで、認定された後の年会費や入会金は設けていません。毎月無料の勉強会も開催しています。

葬祭カウンセラー認定実用講座は、昔なら日本人なら自然に知っていたことを、もう一度学び直す場なので、年会費をとることは妥当でないと考えました。

受講生の方どうしはLINEグループなどで情報交換もしていますし、お寺でイベントをする際に「講師として話してみませんか」とお願いすることもあります。

小さい組織だからこそ、必要な人とゆるやかにつながりながら続けている感じですね。

お寺を拠点にした看取りステーションを各地域へ広げたい 

――今後、挑戦していきたいことを教えてください。

今後は、お寺を拠点にした“看取りステーション”を各地域につくっていきたいと思っています。現在は首都圏を中心に、お坊さんや看護師さん、介護職の方たちとのつながりができ始めています。関西や北関東でも、お寺を拠点に看取りについて学ぶ講座ができそうな気配もあります。

そこへ葬祭カウンセラーや、相続・遺言に関わる専門家が関わることで、「困った時に相談できる場所」を地域ごとにつくれたらいいなと思っています。

ただ、受講生を千人単位に増やして全国展開のように大きく広げたいわけではありません。各ブロックに1つでも、そういう場所ができれば十分意味があると思っています。

一方で、今の課題は一般の方への認知ですね。全国紙などにも取り上げていただいていますが、まだ必要な人に十分届いていない難しさがあります。

だからこそ、まずは知っていただくことが大事だと思っています。昔は地域の中で自然に共有されていた知識も、今では学ぶ機会そのものが減っています。葬儀や遺言・相続・死後事務について、「誰に聞けばいいのか分からない」という方も少なくありません。そういう時に、地域のお寺や学びの場が、安心して話せる入口になれば嬉しいですね。少しずつでも、人と人が顔を合わせて語り合える場を増やしていきたいと思っています。

人と語り合える時間が人生の豊かさにつながっていく 

――最後に、ふだん大切にしていることを教えてください。

私は、人生の終盤に向けた学び直しって、パソコンスキルのようなものだけではないと思っています。「誰かの役に立てる」と感じられることの方が、人を元気にするのではないでしょうか。

人のために何かをして、「ありがとう」と言われる。その積み重ねが、「生きていて良かった」という実感につながっていく気がしています。

実際、相続の現場では、お金の心配ばかりを抱えたまま80代、90代になってしまう方もたくさん見てきました。財産の話になると、不安や争いに意識が向きやすいんですね。でも、人と語り合える場所があるだけで、表情が変わる方もいます。

私は、無理に“円満な関係”を作ればいいとは思っていません。ただ、誰とも話せないまま孤立していく社会にはしたくないんです。少しでも人とつながって、「ここにいていいんだ」と感じられる場所が大切だと思っています。

だからこそ、お寺や地域の中で、人がゆるやかにつながり直せる場所をつくっていきたいんです。「この地域で暮らしていて良かった」と思える人を少しでも増やしたい。その想いを持ちながら、これからも活動を続けていきたいです。

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