ゴルフ場の可能性を広げる挑戦――ゴルフトライアスロンが目指す未来
一般社団法人ゴルフトライアスロン協会 代表 松尾 俊介氏
人口減少や高齢化が進むなか、日本のゴルフ業界も大きな転換期を迎えています。そうした課題に対し、「ゴルフ場の新しい価値を生み出したい」という想いから誕生したのが、一般社団法人ゴルフトライアスロン協会です。ゴルフとランニング、自転車を組み合わせた新競技「ゴルフトライアスロン」を通じて、これまでにないスポーツの形を提案しています。本記事では、代表の松尾俊介氏に、競技誕生の背景やゴルフ業界への想い、今後の可能性などについて詳しく伺いました。
ゴルフ業界の危機感から始まった活動
――現在取り組まれている事業について教えてください。
主な活動内容は、年に1〜2回のゴルフトライアスロン大会の開催です。2026年は予定の関係で1回の開催となっていますが、これまでの実績としては、年間2回開催してきました。
この活動は、単なるスポーツイベントではありません。ゴルフ業界が抱える課題に対する、一つの提案として始めたものです。大会を通じて、ゴルフ場関係者や練習場関係者など、多くの方に新しい競技を通じてゴルフ場のあり方の可能性を感じてもらいたいと考えています。
――どのような課題意識を持たれていたのでしょうか。
海外ではゴルフ人口が増えている国もあるなか、日本では減少傾向にあるところです。さらに今後も減少していく可能性がある点に、強い危機感を持っています。
背景にあるのは、日本全体の人口減少です。当然、ゴルフ人口も減少しており、現在、ゴルフを最もプレーしている世代は70代で、若い世代が十分に増えていない状況にあります。
ゴルフは本来、ジュニアからシニアまで幅広い世代が楽しめるスポーツです。また、単なるスポーツではなく、人と人をつなぐコミュニケーションツールでもあり、まったく知らない人同士でも、一日を共に過ごしながら関係を築ける非常に珍しいスポーツだと思っています。
しかしこのままでは、将来的にゴルフ産業全体が縮小してしまう恐れがあります。だからこそ、若い人や女性そしてゴルフをしない人達にももっとゴルフに触れてもらう必要があると感じています。
ゴルフ場を「総合野外スポーツ空間」に
――ゴルフトライアスロンを始めた背景について教えてください。
ゴルフ人口の減少に加えてもう一つ、業界の大きな課題として挙げられるのが、ゴルフ場の活性化についてです。人口減少によって利用者が減れば、ゴルフ場の経営も厳しくなります。
日本には約2,100箇所のゴルフ場がありますが、過去20年間で約200コースがなくなっています。さらに現在の利用者層を考えると、今後も減少が進むと見込まれています。
ゴルフ場が減れば、練習場や用品メーカー、さらにはプロゴルファーの活動環境にも影響が出ます。ゴルフ産業全体が、ゴルフ場の存在に支えられているからです。しかし、残念ながらこの危機感を真剣に考えている関係者が少ないことが最大の課題だと思っています。
そこで考えたのが、ゴルフ場を「ゴルフをする場所」としてだけではなく、「さまざまなスポーツができる場所」として活用することでした。ゴルフ場でランニングをしたり、カート道を自転車で走ったりする発想は、これまでほとんどありませんでしたが、そうした新しい使い方を知っていただくことで、ゴルフをしない人もゴルフ場へ来ていただけるきっかけが生まれると考えました。
また、ゴルフ場は自然環境を楽しめる場所でもあるため、競技を通じて、これまでゴルフ場に縁がなかった人にもその魅力を体感していただきたいという想いもあります。
ゴルファーも、トライアスロン競技者も楽しめる「ゴルフトライアスロン」
――大会にはどのような方が参加されているのでしょうか。
参加者は、大きく2つのタイプに分かれます。
1つは、ゴルフをより競技として楽しみたいゴルファーの方々です。ゴルフは年配者向けで運動量が少ないスポーツというイメージを持たれがちですが、実際には、18ホールを歩けば7kmほど移動しますし、戦略性も高く、体力も頭脳も使うスポーツです。そうした競技としてのゴルフの面白さを、さらに別の形で楽しみたいという方が参加されています。
もう1つは、トライアスロン競技者の方々です。トライアスロンは、水泳・自転車・ランニングを組み合わせた競技ですが、その競技者のなかにもゴルフ経験者が多くいます。
なかでも特に水泳が得意ではない方にとっては、ゴルフを取り入れた新しい競技は魅力的なようです。
大会の参加人数は、過去最高で127名ほどです。これまで10回ほど大会を開催してきましたが、平均すると70〜80名程度の参加者数で推移しています。毎回、新規の参加者が半分近くいるので少しずつではありますが、新しい競技として認知され始めている実感があります。
業界経験を生かし、新しい価値を提案
――ご自身のこれまでのご経歴についてお聞かせください。
以前は、世界最大級のゴルフ総合ブランド「キャロウェイゴルフ」の社員として約25年間勤務していました。そのなかでゴルフ関連団体が集まる活性化委員会のPR担当としても活動し、業界全体の普及活動に携わってきました。
メーカーとして製品をPRするだけでなく、「どうすればゴルフ人口を増やせるのか」「ゴルフ業界を活性化できるのか」という視点で長年取り組んできた経験が、現在の活動にもつながっています。
当法人を設立したのは、2019年4月です。小さな競技団体ではありますが、新しい価値を提案し続けることに意味があると考えています。同時に一緒に活動してくれる仲間を募っています。そして日本より海外での普及が早く進むように考えています。競技の環境が整っているからです。この点は情報が欲しいところですね。
――新しい競技を広める難しさもあるのではないでしょうか。
どうしても、新しいことは最初から理解されるものではありません。誰もやっていないことだからこそ、「本当に必要なのか」と疑問を持たれることもあります。
それでも、この競技の持つ潜在的価値を理解される努力を一生懸命続けていけば少しずつ理解してくださる方が増えていくと思っています。最初は少数でも、信じて賛同してくれる人が増えれば、それが大きな力になっていくはずです。
最近では、ゴルフ場関係者から「こういった活用方法もあるのか」といった声をいただく機会も増えてきました。少しずつではありますが、新しい考え方として受け入れられ始めている実感があります。
最初は誰でも異端です。それを正論として認めてもらう期間は、じっと我慢しながら続けていくつもりです。そのなかで、一人でも多くの方にこの取り組みの意義を知っていただき、ゴルフ場やゴルフ業界の未来について一緒に考えていただけたら嬉しいです。これからも、ゴルフ場の未来やゴルフ文化の可能性を広げる取り組みとして、挑戦を続けていきたいと思っています。