“奥千葉”に誇りを取り戻す──音楽と地域愛で未来をつなぐ挑戦
一般社団法人奥千葉プロジェクト 代表理事 依知川 伸一 氏
千葉県北東部の魅力を“音楽”を通して発信している一般社団法人奥千葉プロジェクト。ミュージシャンとして長年活動してきた依知川伸一氏は、地域衰退への危機感をきっかけに、音楽フェスや地域活動を立ち上げました。本記事では、活動への想いや今後の展望について伺いました。
“奥千葉”の魅力を、音楽から発信する
――現在の事業内容について教えてください。
僕は千葉県の横芝光町という小さな町の出身なんです。千葉県北東部、九十九里海岸沿いの地域なんですが、人口減少がかなり進んでいて、近隣の市町村の多くが「消滅可能性自治体」と言われています。生まれ育った場所がこのまま元気を失っていくことに、ずっと危機感がありました。
僕自身は40年間ミュージシャンとして活動してきたので、「自分にできることは何だろう」と考えた時に、やはり音楽しかなかったんです。そこで始めたのが音楽フェスでした。最初は東総地区の市外局番“0479”を名前にした「0479クラブ」を立ち上げ、地域のホールで音楽祭を開催するようになりました。
この地域にはライブハウスも音楽スタジオもなく、コンサートを観に行く文化そのものがほとんどありませんでした。でも、だからこそ「この地域を少しかっこよくしたい」という気持ちが強くなったんです。
活動を続ける中で、成田や山武など、地域をまたいで関わることも増えていきました。そこで千葉県北東部全体を“奥千葉”と名付け、昨年、一般社団法人奥千葉プロジェクトを立ち上げました。
現在は、音楽フェス「奥千葉ミュージック」、地域の農産物などを発信する「奥千葉ファーマーズ」、そして子どもたち向けスポーツ大会の開催、この三つを柱に活動しています。この地域は農業も畜産も水産も本当に素晴らしいんです。だからこそ、もっと多くの人に知ってもらいたいと思っています。
“地域をなくしたくない”という想いが原点
――活動を始めたきっかけについて教えてください。
一番大きかったのは、「この地域をなくしたくない」という気持ちでした。僕の地元を含め、この周辺地域は人口減少が本当に深刻なんです。このままだと2050年には消滅してしまう可能性があると言われている地域も少なくありません。
だから、「自分に何ができるんだろう」とずっと考えていました。ただ、僕は行政の人間でもないし、何か大きな企業を経営しているわけでもない。だったら、自分が長年やってきた音楽で勝負するしかないな、と。
最初は本当に手探りでした。地方で音楽フェスをやると言っても、簡単なことではありません。それでも続けてこられたのは、「この地域には魅力がある」と本気で信じているからなんです。
――活動を続ける中で、大切にしている価値観を教えてください。
僕の判断基準はすごくシンプルです。「それが地域のためになるかどうか」。そこがすべてですね。
例えば、この活動を通じて他の地域から人が来てくれるとか、奥千葉という名前を知ってもらえるとか、そういうことにつながるのであれば挑戦したい。逆に、地域の魅力発信につながらないことであれば、無理にやる必要はないと思っています。
また、子どもたちには本物の音楽に触れてほしいという想いも強いです。音楽祭では毎回、高校生以下を無料にしていて、400席ほどを子どもたちのために用意しています。地方にいるから体験できない、で終わらせたくなかったんです。子どもの頃に出会ったものって、大人になってもずっと残りますから。
仲間とともに、“地域のため”を形にする
――組織づくりで大切にしていることを教えてください。
今は7名ほどで活動しています。メンバーは高校の同級生や幼なじみ、地域の仲間たちが中心ですね。すでに仕事をやり切った人や、自分で時間を調整できる人たちが集まってくれています。
だから、一般的な会社組織とは少し違うかもしれません。利益を最優先にしているというより、「地域のために何かしたい」という想いで集まっている感覚に近いですね。
もちろん法人として続けていく以上、運営資金は必要です。コンサートのチケットをみんなで手売りしたり、「ぜひ協力してください」と声をかけたり、地道なこともたくさんやっています。でも、そういう泥臭いことを一緒にやれる仲間がいるのは、本当にありがたいことだと思っています。
――どんな人と一緒に活動したいですか?
やっぱり若い人たちと一緒にやりたいですね。僕自身、この活動を10年、15年としっかり続けた先で、次の世代へ引き継いでいきたいと思っています。
ただ、今はまだ十分なお給料を払える環境ではありません。だからこそ、「この地域をなくしたくない」と本気で思っている人たちと一緒にやりたいんです。
僕が大きな影響を受けたのは、ドラマーの村上“ポンタ”秀一さんでした。完成されていなくても、「何か光るものがある」と感じた若手をどんどん引き上げていた方なんです。僕自身も、その言葉に救われた一人でした。だから今度は、自分が地域の若い人たちに声をかけていきたい。何かキラッと光るものを持った人と、一緒に未来をつくっていけたら嬉しいですね。
“奥千葉”から、千葉全体へ広げていきたい
――今後挑戦したいことについて教えてください。
ありがたいことに、今では千葉県も音楽祭を応援してくださるようになりました。知事をはじめ、多くの方が奥千葉地域での活動を見てくださっているのは、本当に励みになっています。
まずは、この千葉県北東部の魅力発信をさらに広げていきたいです。そして将来的には、千葉県全体を巻き込んだ高校生向けの大きな音楽祭にも挑戦したいと思っています。南房総や東葛、湾岸エリアなども含めて、千葉全体の若い才能が集まる場をつくれたら面白いですよね。
――現在感じている課題について教えてください。
やはり一番は運営資金ですね。協賛してくださる方もいますし、応援の声も増えてきました。ただ、継続していくにはまだまだ足りません。現状は、自分たちの持ち出しで支えている部分も大きいです。
それでも、あと5年は地道に頑張ろうと決めています。その先では、きちんと収益もつくりながら、持続可能な形へ育てていきたいですね。
例えば、僕はミュージシャンの知り合いも多いので、音楽関係の人材を地域へ派遣することもできます。音響や照明の技術者など、今後はそういった展開にもつなげていけたらと思っています。
散歩の時間が、自分を整えてくれる
――休日のリフレッシュ方法について教えてください。
僕は散歩が好きなんです。普段は東京の調布に住んでいるんですが、大きな公園がたくさんあるので、よく歩いています。
公園を散歩しながらコーヒーを飲んだり、サンドイッチを食べたり。そんな何気ない時間が、自分にとってすごく大事なリフレッシュになっています。
歩きながら、「次はどんなことができるかな」と考えることも多いですね。まだまだ課題はありますが、この地域には本当に魅力がある。その確信があるから続けられるんです。
これからも音楽や人とのつながりを通して、“奥千葉”という名前を少しずつ広げていきたいと思っています。そして、この地域の子どもたちが「ここに生まれてよかった」と胸を張れる未来をつくっていきたいですね。