AI で広げる創作書画の未来。――デジタルとアナログをつなぐ日本万書筆文字協会の挑戦
一般社団法人日本万書筆文字協会 代表理事 北薗 純子氏
一般社団法人日本万書筆文字協会は、創作書画「よろず書®」を通じて、誰もが自由に表現を楽しみ、 「好き」を仕事や生きがいへとつなげられる環境づくりを行っています。 筆文字アートの認定資格取得や認定講師育成だけでなく、AI を活用した独自の仕組みづくりにも取り組 み、「才能は仕組みで支えられる」という考えのもと、デジタルとアナログを融合させた新しい筆文字 文化の可能性を広げています。 今回は、代表の北薗純子氏に、現在の取り組みや協会設立の背景、今後の展望について伺いました。
「才能は仕組みで支えられる」という創作書画の考え方
――現在の事業内容について教えてください。
私たちは、創作書画「よろず書®」の資格取得コースの開催や認定講師の育成、講師活動のサポートを 行っています。 資格取得後の活躍の形は一つではありません。教室や体験講座を開催する方、作品販売やイベント出展 を楽しむ方、資格を保持しながら趣味として描き続ける方、ご自身のお仕事にお役立ていただく方な ど、それぞれが自分らしい形で創作書画を楽しんでいます。
私たちが大切にしているのは、「才能は仕組みで支えられる」という考え方です。 特別な才能やセンスがある人だけが活躍できるのではなく、学びやすいカリキュラムや仲間とのつなが り、活動を支える仕組みがあれば、誰でも表現する楽しさを広げることができると考えています。 その仕組みの一つとして、設立当初より AI を活用しています。作品のお題づくりや講座運営、SNS 発信などの活動サポートなど、創作の負担を減らすことで、一人でも多くの方が安心して挑戦できる環境 づくりを進めています。
使う道具も筆ペンだけではありません。色鉛筆やクレヨン、パステル、絵筆など、さまざまな画材を使 いながら、「かわいい」「きれい」「かっこいい」と感じた気持ちを自由に表現していただいています。 また、書くこと以外の創作活動をされている方にも、メッセージカード制作などを通じて創作の楽しさを広げています。
――「創作書画」というジャンルはどのような位置づけなのでしょうか。
「創作書画」という言葉は、当協会が使っている表現です。 「よろず書®」だけではイメージしにくいため、「自由に表現を楽しむ書画」ということが伝わるよう、 この言葉を使っています。
――講座には、主にどのような方が参加されていますか。
個人の方が多いです。経営者の方でも個人的に参加されるケースがありますし、公民館や地域の夫人会、介護施設、学校などに出向いて講座を行うこともあります。
年代としては40代から60代の方が中心で、女性が8〜9割ほどです。ただ、男性の方もいらっしゃいますので、安心してご参加いただければと思います。
“書くこと”を、もっと自由に楽しめる場所づくりを
――協会を立ち上げたきっかけを教えてください。
以前は別の筆文字アートの団体に所属していたのですが、そこでは不自由さを感じている方が多かったんです。私自身も本部役員を経験するなかで、いろいろなご意見を耳にしました。
もちろん、よい思い出もたくさんありますし、今でもお付き合いのある仲間もいます。ただ、もっと自由に、楽しく活動できる場所があったらいいなと思うようになったことから、新たな場をつくることを考え始めました。
最初は、自分一人で始めるつもりでした。しかし、「一緒についていきます」と言ってくださり、まだ法人も立ち上げていない段階だったにもかかわらず、支えてくださる方が多くおられたんです。
そのようななかで「この方たちを放っておくわけにはいかない」と思うようになり、安心して活動できるプラットフォームとして当協会を立ち上げました。
AIを活用した新しい筆文字文化への挑戦
――協会としての役割や、組織体制について教えてください。
当協会の役割は、単に教室を運営することではなく、筆文字アートの技術を体系化し、資格発行や講師育成を行うことにあります。実際の教室運営については、資格を取得された講師の方々がそれぞれ個人事業主として活動しており、協会と講師の間に雇用関係は設けていません。
現在は全国に約60名の講師が登録しており、地域ごとに活動を展開しています。協会本部としては、設立時から共に活動している4名を中心に運営しており、講師が継続的に活動しやすい環境づくりや、育成・サポート体制の整備に力を入れています。
――他にはない強みについて教えてください。
講師向けのお題作成に、AIを活用している点です。例えば「6月のお題を“よろず書風”で作成して」と入力すると、独自のAIが提案を出してくれる仕組みを整えています。
講師にとって、毎月新しいお題を考え続けることは大きな負担です。そこで、創作のベースとなる部分をAIでサポートすることで、講師それぞれが本来の表現や教室運営に集中できる環境づくりを進めています。
私は、「才能は仕組みで支えられる」と考えています。特別なセンスがなければ表現できないのではなく、適切な環境やサポートがあれば、誰でも表現の幅を広げられると思っています。
一方で、AIやデジタル技術を活用するからこそ、実際に“手で書く時間”の価値もより重要になると感じています。これからさらにデジタル化が進む時代だからこそ、時にはデジタルから少し距離を置き、紙に向かって文字を書く時間を持つ――そうした“デジタルデトックス”的な時間も必要ではないでしょうか。
電子書籍ではなく紙の本を読む、キーボード入力ではなく実際に筆を持って書く。そうしたアナログな体験が、気持ちを整えたり、自分自身と向き合ったりする時間につながると考えています。
500人の講師育成とアプリ開発を目指して
――今後の展望についてお聞かせください。
まずは、今いる講師の皆さんを大切にしながら、さらに講師を増やしていきたいです。10年以内に500人の講師を育成することを目標にしています。
そして将来的には、講師向けのアプリも開発したいと思っています。お題作成や情報共有など、デジタルとアナログを融合できるツールを作っていきたいです。
現在の課題は、全国にいる講師へのフォロー体制です。現在はオンライン会議やグループチャットなどを使って情報共有をしていますが、全員に均等に情報を届ける難しさがあります。
特に、趣味の延長で資格取得される方の場合には、途中でモチベーションが下がってしまうケースもあります。だからこそ、講師の皆さんが継続して活動できるよう、フォロー体制をさらに強化していきたいです。
講師コースにはメンター制度も取り入れており、講師同士で支え合える仕組みを整えています。少しでも「好きなことで収入を得られた」「誰かに喜んでもらえた」という小さな幸せを感じてもらえる環境をつくっていければと思います。
――最後に、これから起業される方へメッセージをお願いします。
事業を続けていくなかでは、うまくいくときもあれば、壁に直面するときもあります。そのなかで大切なのは、目の前の相手に価値を届け続けることだと思います。
小さな喜びや満足の積み重ねが信頼につながり、事業の継続にもつながっていきます。また、デジタル化が進む時代だからこそ、時には立ち止まり、自分自身を整える時間を持つことも大切です。焦らず、一歩ずつ積み重ねていくことが重要だと感じています。