自転車文化を広げる“尖った経営”――車輪館オクムラが描く新しい共存社会
有限会社車輪館オクムラ_しゃりんかん 代表 奥村誠基(seiki)氏
有限会社車輪館オクムラは、自転車の販売・修理・整備を中心に、レンタル自転車の提供も行う地域密着型の自転車店です。スポーツ自転車を主軸にしながら、一般車やE-バイク、さらには医療系の特殊車両まで幅広く取り扱い、多様なニーズに応えています。近年では、自転車文化の普及や交通ルールの啓発活動にも力を入れており、“売るだけではない自転車屋”として新たな挑戦を続けています。本記事では、代表の奥村勝氏に、事業への思いや今後の展望について伺いました。
目次
地域に根差した自転車店として幅広いニーズに対応
――現在の事業内容について教えてください。
当社では、自転車の販売・修理・整備を中心に、レンタル自転車の提供も行っています。主に取り扱っているのはスポーツ自転車で、ロードバイクやクロスバイク、マウンテンバイク、最近ではE-バイクと呼ばれる電動スポーツ車も扱っています。また、一般的な自転車だけでなく、骨折した方が片足で乗車できるような医療系の特殊車両も取り扱っています。
お客様は個人の方が中心ですが、今後は法人向けサービスの強化も視野に入れています。自転車は単なる移動手段ではなく、健康や環境にも貢献できる乗り物ですので、その価値をもっと広げていきたいと考えています。
3代目として受け継いだ家業と経営への道
――経営の道に進まれたきっかけを教えてください。
当社は祖父の代から続く家業で、私は3代目です。創業は戦後間もない頃で、当初は自転車店としてスタートしました。その後、父の代でオートバイ販売へと事業転換し、私自身もオートバイ関連の仕事に就いていました。
ただ、実家に戻った頃には再び自転車事業へ戻っており、結果的にその流れを引き継ぐ形になりました。小さい頃から「長男だから後を継ぐんだ」という周囲の空気もあり、自然と家業を意識して育った部分はあります。
子どもの頃はパイロットやF1レーサーに憧れていました。今振り返ると、乗り物が好きだったという意味では、自転車の仕事にもどこか共通する部分があるのかもしれません。
“尖った経営”で自転車文化を広げたい
――今後の展望について教えてください。
以前は店舗数を増やしたいという考えもありましたが、現在は方向性が変わりました。若い世代の継続雇用が難しくなっていることもあり、今後は事業を深掘りし、他にはないオリジナリティを追求した“尖った経営”をしていきたいと思っています。
具体的には、法人向けサービスの強化です。たとえば警備会社や病院、訪問看護など、移動を伴う仕事に対して自転車のサブスク提供を行う構想があります。熊本は渋滞率が非常に高く、交通インフラの課題もあります。そうした状況を改善する移動手段として、自転車の可能性を感じています。
また、自転車の交通ルールやマナーの啓発にも取り組んでいます。最近は法律改正によってルールが厳しくなりましたが、実際には大人も十分に理解できていないケースがあります。そのため、警察を招いた無料の学びの学校を開催した際には、40名ほどに参加いただきました。
今後は交通ルールだけでなく、自転車の効率的な漕ぎ方や楽しみ方を伝えるスクール形式の活動も広げていきたいです。
営業と教育は切り分けながら、まずは自転車文化そのものを良くしていきたいと考えています。
音楽と自転車の融合で新しい価値を生み出す
――将来的に会社をどのような姿にしていきたいですか。
自転車屋が自転車を売るのは当たり前ですので、それだけではない価値を作っていきたいですね。私はエレキギターが趣味なのですが、音楽と自転車を融合したようなお店づくりも面白いのではないかと考えています。
例えば、音楽好きな方が自転車にまつわる楽曲を聞いたて、その良さを感じて自転車を買いに来たり、いっそ店内にAIスタジオがあり、そこでキャラクターがライブしているような空間です。普通の人がガラス張りの店内を見た時に「ここは何屋なんだろう」と興味を引く、入店したら自転車屋さんだった。実際、自転車好きの方にはギターを弾く人も多く、音楽と自転車にはどこか共通する感覚があるようにも感じています。
これからの時代_意外性が大切かと思います。業種の垣根を越えて、新しい世界観を作ることで、今まで接点のなかった人たちにも自転車の魅力を届けていけたらと思っています。
朝活と書道が整える“自分と向き合う時間”
――休日やリフレッシュ方法について教えてください。
エレキギターを弾いたり、書道をしたりする時間がリフレッシュになっています。もともと書道教室にも通っていたので、今でも時々筆を取るのですが、大人になってからの書道は“瞑想”のような感覚があります。集中して文字を書くことで、気持ちが整うんです。
また、最近は週2回ほど、朝活として近所の里山を自転車で走っています。音楽や書道、自転車など、自分と向き合う時間が心を整える大切な時間になっています。
自転車が当たり前に共存する社会へ
――事業を通して実現したい社会像を教えてください。
日本は、自転車に関してはまだまだ遅れている部分が多いと感じています。私はメーカー視察などでスペインやドイツへ行くことがありますが、ヨーロッパでは自転車・歩行者・車道がきちんと住み分けされていて、お互いを尊重しながら共存しているんです。自転車が単なる趣味ではなく、生活文化として根付いていることを強く感じます。
自転車は「最高の発明品」と言われることもありますし、ドイツの格言には「1台の自転車は1人の医者に勝る」ということわざもあるほどです。それだけ、自転車が健康や暮らしに良い影響を与える存在として認識されているんですね。
自転車は、健康にも環境にも優しい乗り物です。しかも、自然と触れ合いながら移動できる楽しさもあります。だからこそ私は、自転車と自動車が対立するのではなく、共存できる社会になってほしいと思っています。
――読者の方々へメッセージをお願いします。
自転車は、乗ることで健康になれる素晴らしい乗り物ですし、何より楽しさがあります。ぜひ経営者の方だけでなく、従業員の皆さんにも自転車通勤を取り入れていただきたいですね。休日には山へ出かけたり、自然の中を走ったりすることで、人生をより豊かにしてくれると思います。自転車を“生活の一部”として取り入れていただけたら嬉しいです。
私自身、朝に自転車で山へ登る習慣があります。朝の澄んだ空気や緑の香りは、その時間に自然の中へ出た人にしか味わえない特別なものです。そうした時間を過ごすことで、一日を非常に活力のある状態でスタートできるんです。
また、自転車は身体の健康だけでなく、心の健康にも良い影響を与えてくれると感じています。ストレスの多い現代社会だからこそ、自然と触れ合いながら自転車に乗る時間が、人を前向きにしてくれるのではないでしょうか。