売れる店を設計するために——分業と挑戦で築いた店舗づくりの哲学
株式会社デクレアデザインプロジェクト 代表取締役 上水流 孝嘉氏
店舗設計の世界では「設計から施工まで一式で請ける」会社も多い中で、デクレアデザインプロジェクトは“設計”を担い、デコタスは“重機や備品・什器などの制作や企画”を担う形で役割を分けてきました。相見積もりが取りづらい構造や、「設計は高い」という発注側の先入観もある業界で、どう価値をつくり、実績を積み重ねてきたのか。本記事では代表の上水流孝嘉氏に、事業の考え方から、仕事観、組織、そしてこれからの挑戦まで伺いました。
動線計画から入店を設計する
――現在の事業内容や特徴について教えてください。
店舗設計をしているのがデクレアデザインプロジェクトで、もう一つデコタスという会社があります。デコ・タスは、什器を作ったり、備品関係を企画する会社です。うちとしては、このデコ・タスとデクレアデザインプロジェクトが一緒じゃないと成り立ちません。
業界的には「設計施工」で、設計から施工まで全部やりますよ、という会社が多いと思います。ただ、設計施工だと相見積もりが取りづらい。工事会社さんの査定をするための“設計図”が、そもそも設計施工の中に入ってしまうので、比較の土台が作れないんですよね。
うちは、設計業務と、家具の制作と分けています。ですから、工事会社さんの査定ができる。分けていること自体が“強み”というより、仕事のやり方として分離している、という感じです。
――業界内での強みはどのような点にありますか。
弊社はアパレルとか物販の店舗設計が多いのですが、売れない店を作ると次の依頼は来ないのです。リピートがなくなる。だから結果が全てですね。これまでに500店舗以上やらせてもらっていますが、評価をいただいてきた積み重ねだと思っています。
また、根っこにあるのは「空間デザイナー的なデザイン事務所」ではなくて、ご依頼者様の物販や商売を考えた設計事務所である、ということです。動線計画もそうで、商品を買ってもらうのはお店のオーナーさんの仕事かもしれないけど、少なくとも店に入れる、入りやすくすることを考えてプランニングをします。決めつけで一案だけを出すのではなく、紙上で何回も計画して、納得いくまで詰めていく。それがうちの考え方ですね。
お客さんが什器や備品、サインなど「何か作って欲しい」となった時、設計事務所に頼まれることはないです。どちらかというと施工会社に頼みます。デコタスの考えは他社設計のデザインでも、図面があれば、見積もり査定できます。全く無ければ設計から制作までできます。そこが強みになっています。
逃げない仕事が実績になる
――経営者になられた経緯を教えてください。
経営者になりたかったというよりも、感覚としては独立した、という感じです。もともと施工会社だったのですが、設計施工だと工事会社さんの査定ができません。査定をするには設計事務所じゃないと難しいので、設計事務所を立ち上げて、お客さんの代わりに査定できる立場に変わった、という流れです。
――理念や考え方として、大切にしていることは何でしょうか。
一般的に設計者として「こんな設計をしたい」「こんなブランドの設計をしたい」って思ってなければ、チャンスはこない。思ってなかったらチャンスももらえない。弊社は、損して得するじゃないですけど、まずはチャレンジしていく、絶対にチャンスはあると思って取り組んでいます。
設計デザイン費を払いたくない、という方も多い。そういう方に対しては、デコタスで“デザイン費をもらわないけど形を作っていく”という考え方もある。どっちかでも仕事になればいい、みたいな発想も正直あります。
ただ、根っこにあるのは「空間デザイナー的なデザイン事務所」ではなくて、物販とか商売を考えた設計事務所である、ということです。動線計画もそうで、買ってもらうのはお客さんの仕事かもしれないけど、少なくとも“店に入れる”ことを考えてプランニングをする。決めつけで一案だけ出すんじゃなくて、紙の中で何回も計画して、納得いくまで詰めていく。それがうちの考え方ですね。
――ここまでのキャリアで、ターニングポイントになった出来事はありますか。
綺麗事じゃなくて、失敗ばっかりですが、「この仕事やったらやばいな」という仕事も多くありました。しかし、そういう経験が人を成長させてくれますね。この仕事は引き渡しがあるし、OPENしない店はない。だからどんなことがあっても逃げない。それが結局、経験になります。大企業さんがうちに依頼をしてくれて、「うちで大丈夫なのかな」って思うこともたくさんありました。でも、なんとか実績になっていった。その積み重ねが今なんだと思います。
好きに勝る才能はない
――組織運営で意識していることを教えてください。
人数がたくさんいた時代もありましたが、うちは設計事務所なのでみんな独立していきます。独立した時に、ノウハウやデザインの部分を持っていかないでとか、そういうのはないですね。結局は、お客さんからすればその子に担当して欲しいわけなので、わざわざ取り上げるようなことは絶対にしません。仕事が出来るからこそ独立して出ていけるわけなのでね。それも、辞めた後も繋がりがあるからこそだと思います。
コミュニケーションの部分では失敗をしてきました。直接対面で話ができる時代は良かった。メールとかネット環境での共有は便利だけど、そのせいでコミュニケーションがなくなってしまいました。「言った」「言ってない」がメールで起きるし、CCに入っている入っていない、みたいな話にもなる。あれが一番よろしくない。だから、嫌なことでも言わないといけないことは言うし、言わなかったら「やっているだろう」と思ってしまうのが一番怖いし、勘違いが起きてしまいます。そこは丁寧に向き合わないといけないと思っています。
――社員に求める姿勢はどのようなものですか。
昔のように人材を選べるわけではないので難しい話ですよね。正直、人が集まってきません。以前は私たちの業種をやりたい方はたくさんいましたが、ゲーム業界やネット社会に負けてしまうなと思います。
うちはデザインをしている会社ですが、大学や専門学校で実は成績が最下位だったという方が後々独立しているというケースもあります。この業務が大好きで、向いているというか「好き」な方が一番伸びる。センスがある方は、自分にセンスがあるからと辞めていきますね。ただ、そういう方はなかなか成功には至らない。業界で働いていきたいなら、誰よりも好きであること。好きに勝るものは絶対にない!と思います。
店のあり方は変わる。設計も変わる。
――今後の展望や挑戦したいことを教えてください。
弊社は物販店舗、アパレル、アクセサリー、ファッション業界の仕事が中心ですが、それ以外の仕事を増やしていきたいです。ネットで買えてしまう時代で、店を持たなくても出来てしまう。みんな実店舗へ買いに行かない。私たちの仕事も少なくなっていて、以前から「10分の1ぐらい」まで減った感覚もあります。
これからはファッションビルも「購入の場所」じゃなく「見に行くショールーム」になっていくのではないかと思っています。宣伝広告みたいな感覚で出店して、見にいくスペースみたいに変わっていくと思います。実際、ネットで売り上げがある会社が「実店舗を持ちたい」と依頼してくるケースもありました。そのお店は、フィッティングスペースが店の中に6ヶ所ある。普通の店だと2ヶ所ぐらいなのに、その3倍です。売り場を広く取るより、試着できるスペースを重視して“見に行って帰宅する”前提の設計になっている。設計の考え方も変わりますよね。
今向き合っている課題でいうと、「やりたくないな」と思ってる仕事の方をやってる感覚もあります。得意分野でやるのは簡単だけど、チャレンジでいうと、やったことない仕事を取りに行く。儲からないけど、勉強になる。専門学校に行ってるぐらいの感覚で考えたら安い。経験も実績も残るので、長い目で見ています。
ビジネスを忘れられる、仲間との時間
――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。
ずっと野球してたのでソフトボールとか、あとゴルフですね。また最近はやれていないですが、コミュニケーションでの飲み会などですね。若い頃は社会人サークルを作ったり、キャンプをしたりしていました。
今は、小学生の子どものソフトボールクラブで、その親だけで真剣に3時間も練習するなど交流を深めています。仲間というか、ビジネスは関係なく金儲けにもならないけど、真剣に運動して勝つとか負けるとかして、みんなでお酒を飲んで、そういうのがストレスの発散になります。と言っても、実は1年半くらい行けていないのです。やっぱり、良くないなと思います。参加してから10年近くはやっていましたが、全てのことを忘れられる良い時間でしたね。