地域で子育てを支える“対等な居場所”づくり――NPO法人toi toi toiが大切にする支援のかたち
NPO法人toi toi toi 理事長 大庭果南子氏
NPO法人toi toi toiは、親子と地域の交流事業を中心に、子育て中の家庭が孤立しないための居場所づくりに取り組んでいます。公民館などを活用したイベントや子ども食堂、毎週水曜日の放課後サロン、さらに経済的に困難を抱える家庭への無料シッター事業など、地域の親子に寄り添う活動を展開しています。本記事では、理事長の大庭果南子氏に、活動への思いや今後の展望について伺いました。
目次
制度から暮らしへ。支援を学び続けた先で出会った、ベビーシッターという仕事
――現在の事業内容について教えてください。
現在は、個人事業「Baby and Kids toitoitoi」として、ベビーシッター事業を中心に活動しています。ご家庭へ訪問し、お子さまのお世話だけでなく、保護者の方が安心して休息したり、自分の時間を持ったりできるよう、一人ひとりの暮らしに寄り添った支援を行っています。
また、おもちゃコンサルタントとして、知育おもちゃを活用した出張子育てサロンも開催しています。年齢や発達に合わせた遊びを提案し、子どもの主体性や親子のコミュニケーションを育む場づくりに取り組んでいます。
以前はNPO法人として、子ども食堂や放課後サロン、親子イベントなどを行っていました。しかし、運営や事務作業を一人で担う中で、「目の前の親子と向き合う時間」が少なくなっていきました。
約3年間の活動を経て、一つひとつの家庭に深く寄り添うことが自分のやりたい支援だと気付き、現在は個人事業として活動しています。地方ではまだ特別なサービスと思われがちですが、「困ったら相談してみよう」と思い出していただける存在を目指しています。
支援する人・される人ではなく、同じ目線で子育てを考える
――活動の理念や大切にしている考えを教えてください。
大切にしているのは、「支援する人」と「支援される人」という関係ではなく、一緒に子育てを考える存在であることです。
子育てに正解はありません。それぞれの家庭に、大切にしている価値観があります。私は何かを教える立場ではなく、その価値観を尊重しながら、「こういう考え方もありますよ」と選択肢を増やす伴走者でありたいです。
また、子どもだけを見るのではなく、家庭全体を見ることも大切にしています。保育士として子どもの発達を学び、社会福祉士・精神保健福祉士として制度や相談支援に携わってきた経験から、保護者の困りごとや家庭環境にも自然と目が向きます。必要に応じて、制度や相談先をご紹介することもあります。
子どもを預かる人ではなく、子育て家庭に寄り添う人でありたい。それが、私の支援の軸です。
「制度を届けたい」から始まった支援者としての原点
――経営者になろうと思ったきっかけを教えてください。
実は、最初から起業を目指していたわけではありません。
学生時代は地域福祉を専攻し、障害者施設やホームレス自立支援施設での実習を通して、制度につながれず孤立してしまう人たちの現状を学びました。また、身近な人の経験から、「制度を知っていれば違う選択肢があったかもしれない」と感じたこともあり、社会福祉士を志しました。
卒業後は自治体職員として、介護保険や生活保護、障がい福祉などに携わりました。その中で、「制度を知ること」と「暮らしを知ること」は違うと感じ、より生活に近い場所で支援したいと考えるようになりました。
その後、自身の子育てをきっかけに保育士資格を取得し、介護や保育、学童などの現場でも経験を重ねました。さらに、どの年代にも共通するのは「心」の支援だと感じ、精神保健福祉士も取得しました。
振り返ると、資格を増やしたかったのではなく、目の前にいる人を支えるために必要なことを学び続けてきたのだと思います。その積み重ねの先にたどり着いたのが、子どもだけでなく保護者にも寄り添い、一つの家庭を支えられるベビーシッターという仕事でした。
支援者が幸せでなければ、支援は続かない
――経営判断の軸になっている価値観はありますか。
一番大切にしているのは、自分自身が無理をしないことです。
以前は、「困っている人がいるなら何とかしたい」という思いから、自分の時間や体力を削って活動していました。自分のお金を持ち出したり、寝る時間を削ったりすることもありました。しかし、その結果、自分自身が疲れ切り、支援を続けることが難しくなった経験があります。
その経験から、「支援者が元気でいることも支援の一つ」だと考えるようになりました。現在は仕事量を意識的に調整し、一人ひとりのご家庭と丁寧に関わることを優先しています。
事業を大きくすることよりも、「またお願いしたい」と思っていただける信頼を積み重ねていくこと。それが、私の経営の軸です。
子どもは、教える存在ではなく一緒に育ち合う存在
――子どもたちとの関わりで大切にしていることは何ですか。
子どもと関わるときに大切にしているのは、「大人だから正しい」と思わないことです。子どもには、子どもなりの考えや理由があります。だからこそ、すぐに注意したり、大人の価値観を押し付けたりするのではなく、「どうしてそう思ったの?」「本当はどうしたかったの?」と、一緒に考える時間を大切にしています。
また、おもちゃコンサルタントとして活動する中で、遊びは子どもの学びそのものだと実感しています。遊びには正解がないからこそ、自分で考え、工夫し、挑戦する力が育まれると考えています。
ベビーシッターという仕事も、子どもを育てる仕事というより、子どもたちと一緒に私自身も成長させてもらう仕事だと思っています。
――コミュニケーションで意識していることを教えてください。
以前は、「これくらい言わなくても分かってくれるだろう」と期待してしまうことがありました。しかし、NPO法人の運営や地域活動を通して、その期待がすれ違いを生むことを経験しました。
そのため現在は、察してもらうことを期待するのではなく、自分の思いを相手を尊重しながら丁寧に伝えるようにしています。コミュニケーションとは、相手を納得させることではなく、安心して本音を話していただける関係を築くことだと考えています。
「困ったとき」ではなく、「困る前」に頼れる地域をつくりたい
――今後取り組んでいきたいことはありますか。
目指しているのは、ベビーシッターという仕事を特別なものではなく、地域にとって身近な存在にすることです。
地方ではまだ、「仕事のために預ける人が利用するもの」というイメージが根強くあります。しかし、本来子育ては、一人や家族だけで抱え込むものではありません。
美容室へ行きたい日があってもいい。夫婦でゆっくり食事をしたい日があってもいい。少しだけ一人で休みたい日があってもいい。
そんな日常の中で、「ベビーシッターという選択肢がある」と自然に思い出していただける地域をつくりたいと思っています。
また、おもちゃを活用した出張子育てサロンも、さらに広げていきたい活動の一つです。遊びを通して親子や地域のつながりを育み、子育て支援や制度相談も含めた総合的な支援につなげていきたいと考えています。
――現在向き合っている課題は何でしょうか。
現在向き合っている課題は、「どう事業を大きくするか」ではなく、「どうすれば長く続けられるか」です。
NPO法人を運営していた頃は、多くの業務を一人で抱え込み、支援よりも事務作業に追われる毎日でした。その経験から、現在は仕事量を意識的に調整し、一人ひとりと丁寧に向き合うことを大切にしています。
約3年間活動を続け、継続してご利用いただくご家庭も少しずつ増えてきました。一方で、土日は家族との時間を優先し、お休みをいただいています。
以前なら、いただいたご依頼はすべてお受けしていたと思います。しかし今は、「断る勇気」も、長く支援を続けるためには必要だと考えています。
規模より信頼。件数より質。それが、現在の経営の軸です。
答えを渡す人ではなく、一緒に探す人でありたい
――その他に広めていきたい事業はありますか。
今後さらに力を入れていきたいのが、おもちゃを活用した出張子育てサロンです。
良いおもちゃは、子どもの創造力や主体性を育てるだけでなく、親子の会話や地域とのつながりを生み出します。
私はこれまで、社会福祉、介護、保育、精神保健を学んできました。だからこそ、遊びだけでも制度だけでもない、一人ひとりの暮らしに寄り添う支援を届けたいと思っています。
「相談するほどではないけれど、少し話を聞いてほしい。」
そんなときに思い出していただける存在でありたいです。
――活動の中で、これだけは譲れないという思いはありますか。
私は、「支援してあげる」という言葉に少し違和感があります。
支援とは、答えを教えることではなく、それぞれの家庭らしい答えを一緒に探していくことだと思っています。
地域全体を支えたいという思いから始まった活動は、多くの出会いや失敗を経て、一つひとつの家庭に寄り添うベビーシッターという仕事へとつながりました。
これからも、目の前の親子と誠実に向き合い、その家庭らしい子育てを一緒に考える伴走者であり続けたいと思っています。