先人が育てた「百年の大樹」を次世代へ。山のプロがGNSS技術で挑む森林境界明確化と多角化の未来

株式会社日本森林クリエイト 代表取締役 今西 秀光氏

日本の国土の約3分の2を占める森林。しかし現在、多くの山林が「相続したものの、自分の山の境界が分からない」「次世代へどう引き継いでいけばいいか分からない」という深刻な課題に直面しています。この目に見えない、けれど極めて重要な「山林の境界線」という一丁目一番地の課題に、圧倒的な現場知見とGPS(GNSS)技術を武器に正面から挑んでいるのが、株式会社日本森林クリエイトの今西秀光氏です。

農作物とは異なり、数十年、時には100年以上の歳月をかけて2代、3代、4代と世代を超えて育てられる山林。先人が命を吹き込み、守り育ててきた日本の宝である森林を資産として大きく育て、地域を豊かにしたい。そんな熱い信念を胸に、自ら日々山へ入り、地道で、かつ確実な「森林境界明確化事業」を推進する今西氏に、事業へのこだわりや今後の展望、そしてこれからの森林が持つ無限の可能性についてお話を伺いました。

35年以上の現場経験とGNSS技術が融合。「山のプロ」だからこそ導き出せる客観的な答え

――まず、日本森林クリエイトの具体的な事業内容について教えてください。

弊社の主な事業は、森林の測量および森林の管理です。現在は、その2つを組み合わせた「森林境界明確化事業」を主軸として展開しています。

最近では、ドローンを飛ばして山を空撮・測量し、境界を明確化しようとする動きも一部にあります。もちろん、人が到底立ち入れないような深い山奥であればそうした手法も有効でしょう。しかし、基本的には人が入っていける山林で、ドローンによる上空からの視点だけでは判別できない複雑な境界がほとんどです。だからこそ、まずは人間が山に足を踏み入れ、所有者様の立ち会いのもとで境界線を確定させる。そして、その確定したポイントをGNSS(高精度なGPS測量機器)で計測し、正確な図面へと落とし込んでいく手法をとっています。

――一般的な測量会社と比較して、御社ならではの最大の強みはどこにありますか?

私たちは、単なる「測量会社」ではなく、全員が「山のプロフェッショナル」であるという点です。私自身、35年以上にわたってずっと山に入り続け、様々な山の境界の仕組みやルール、数多くの事例を見てきました。

私たちには長年の経験から培った「山の見極め方」があります。現地を丁寧に見分することで、所有者様が迷われている場合でも、「これまでの山のパターンや地形から見て、おそらくこのラインが正しい境界でしょう」と、客観的かつ明確にアドバイスを差し上げることができます。この第3者の視点を持った確かなアドバイス力こそが、他社には真似できない弊社の強みですね。

先人の想いを途切れさせない。電気系の知識を活かして辿り着いた「スマホで分かる山林管理」

――今西社長が経営の道に進まれたきっかけや、これまでのキャリア、御社を立ち上げた経緯について教えてください。

私は元々、都会の会社に就職し、6年ほど会社員として電気系の仕事をしていました。当時はまだ「山バブル」の余韻が残っており、林業の景気も比較的良かった時代です。そのため、若い頃特有の勢いもあり、あまり深く難しく考えることなく、「実家に帰って父の後を継ごう」と決意して山へ戻ってきました。

しかし、次第に様々な問題が見えてきたのです。その最たるものが、「山林の管理方法の不透明さ」でした。そこで、GPSを使ってコストを大幅に抑えた測量を可能にし、そのデータをデジタル化することに注力しました。自分の山の場所と境界が一目で分かるというレベルにまで行き着くことができました。

その後、自治体(市町村)などが発注元となる公式な「境界明確化事業」に参入するにあたり、個人事業主のままでは信用力の面で限界があるため、周囲からの「法人化した方が良い」という強力な後押しとアドバイスを受け、株式会社として設立するに至りました。

――経営における判断や、大切にされている信条・価値観は何でしょうか?

私の経営判断の軸にあるのは、何よりも「森林への強い思い」です。会社ですから、もちろん売上を上げることや利益を出すことも大切ですが、それは最優先ではありません。私たちの存在意義は、将来的に豊かな大樹を育てられるような「いい山」を創り出すことにあります。

現在の日本の山林は、シカによる食害が非常に深刻で、50年前と比べても新しく苗木を植えてゼロから育てる環境としては極めて過酷です。だからこそ、今から新しく植えること以上に、先人が命がけで残してくれた「今ある山」を大切に維持・管理し、五代先へと紡いでいくことが、私の使命だと考えています。

求めるのは自然への探求心。山城跡を趣味半分で楽しむ、少人数だからこその柔軟な組織運営

――組織の運営やスタッフの皆様とのコミュニケーションにおいて、心がけていることはありますか?

現在、私を含めて3人の非常に小さな組織ですので、大企業のような難しい組織マネジメントがあるわけではありません。普段からお互いに気兼ねなく話をしていますし、時折みんなで飲み食いに行ったりしながら、良好な関係を維持しています。

――今後、もし新しいメンバーを採用・育成されるとしたら、どのような人物と一緒に働きたいですか?

一番は、やはり「自然や山が好き」であることです。山の現場は綺麗事ばかりではありません。自然の厳しさも含めて、山歩きを適度に楽しめる人が向いていますね。

自然に関連する何らかの趣味を持っていて、色々なものに興味を示し、自ら深く突き詰めていけるような「探求心」のある方と一緒に働けたら、これほど心強いことはないですね。

「木を売る」だけではない、多角的な山の未来。アドベンチャーツーリズムや企業の環境貢献(CSR)のフィールドへ

――今後の新しい挑戦や、取り組んでいきたい展開について教えてください。

現在、大きく分けて2つの新しい挑戦を見据えています。

1つ目は、私たちが拠点とする「奈良県の木」を、いかに価値を高めて高く売るかという、林業の根本的な収益性の向上です。

そして2つ目は、山から採れる「立ち木」だけをお金に換えるビジネスからの脱却です。

具体的には、豊かな自然環境そのものを活かした「森林セラピー」や、自然の中で非日常的な体験を楽しむ「アドベンチャーツーリズム」といった、山に人々を呼び込み、そこで感動を提供してお金を落としてもらう仕組みを作りたいと考えています。

――経営者として「これだけは譲れない」という哲学はありますか?

周りからは「優柔不断だ」「出たとこ勝負だ」と言われるかもしれませんが、何事も決めつけずに、その時々の状況に合わせて臨機応変に、柔軟に対応していくスタイルが自分には合っています。

大自然の中で過ごす時間

――仕事以外でのリフレッシュ方法を教えてください。

私自身にとって「山の中に入ること」自体が、一番のリフレッシュになっていると感じます。平日の調査も、土日のお客様との山歩きも、大自然の澄んだ空気の中で過ごす時間は非常に心地よく、孫と遊ぶ時間と同じくらい、日々のエネルギーの源になっています。

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