受け継いだ技術を暮らしの道具へ――有限会社野上工芸が挑む、木製品の新たな可能性
有限会社野上工芸 代表 野上 能和氏
有限会社野上工芸は、刺繍枠の製造を長年手がけてきた企業です。現在は、その技術を生かし、木製の曲げワッパ弁当箱など、暮らしに寄り添う商品の展開にも力を入れています。本記事では、代表の野上能和氏に、事業の強みや継承の背景、ものづくりへの思いについて伺いました。
受け継いだ技術から生まれた曲げワッパ弁当箱
――現在の事業内容や強みについて教えてください。
当社の強みは、他社にはない素材感で商品を展開しているところです。
もともとは弁当箱を作る会社ではなく、女性が使う刺繍枠を作るメーカーとして約70年続いてきました。祖父が始め、父が引き継ぎ、現在も手芸メーカーに刺繍枠をODMで納品しています。その分野では、全国シェアが約80%以上あります。
ただ、学校教育の変化によって、以前のように裁縫箱が義務的に購入される機会が減りました。かつて年間20万から25万ほど流れていた需要が大きく変わり、趣味として購入される市場になったのです。その中で、刺繍枠だけに頼るのではなく、自分たちが持つ技術を別の商品に生かす必要があると考えました。
――曲げワッパ弁当箱は、どのように生まれたのでしょうか。
地元である和歌山県海南市は、もともと漆器産業の町です。最初はお盆なども作っていましたが、市場の広がりを考える中で、当時から需要のあった弁当箱に展開できないかと考えました。
曲げワッパの弁当箱は、刺繍枠で使ってきた材料や加工の考え方と通じる部分があります。最初から今の形だったわけではなく、これまでに4段階ほどラインナップを変えてきました。使っていただいた方から「こういうタイプが欲しい」という声をいただき、それに合うものを作れないかと試行錯誤して、今のモデルになっています。
扱いやすさを追求した、現代の暮らしに合う道具
――電子レンジが使える点も特徴的ですね。
木製の曲げワッパは、見た目はとても評価される商品です。今はインスタなどで見せる時代でもあるので、見た目の良さは大きな魅力です。一方で、洗うのが大変、カビが生えないか心配、管理が難しいといった声もあります。
当社では、そうした扱いにくさを変えられないかと考えました。電子レンジで再加熱できる素材感は、他社にはなかなかないものです。寒い時期に朝詰めたお弁当を昼に食べると、どうしても冷めてしまいます。電子レンジでほんのり温められるだけで、食べるときの感覚は大きく変わります。
――長く使うための工夫についてはいかがですか。
当社の商品は、長く使っていただくことを前提に作っています。価格はある程度しますが、その分、耐久性や使いやすさを考えています。
洗う際も、普通の食器を洗うように手洗いしていただければ問題ありません。食洗機に入る部分もありますが、弁当箱にはコーティングをしていますので、長く使うためには通常の食器のように洗っていただく方が良いと考えています。汚れは十分に落ちますし、使用期間も長くなります。
廃業ではなく、継承を選んだ理由
――事業を継がれたきっかけを教えてください。
父が体調面で事業を続けることが難しくなったのが、6年ほど前です。その時は、廃業するという話も進んでいました。
ただ、創業から見るともう100年を超える事業です。残すことも必要ではないかと思いました。自分自身も50代を回っていましたので、第2の働き方として、この事業に向き合うのもよいのではないかと考え、父から引き継ぎました。
また、刺繍枠のシェアが大きかったため、事業をやめることで取引先にも混乱が生まれる可能性がありました。取引先からも、できればやめない方向を探してほしいという声がありました。そうした背景もあり、事業を継承し、続けることを決めました。
――経営する上で大切にしている価値観は何でしょうか。
今まで引き継いできた技術を継続したいという思いがあります。そして、その技術をもっと広めていきたいです。
自分たちが生み出した商品に自信を持つこと。人にとって役立つもの、欲しいと思ってもらえるものを作り続けること。そこは譲れない部分です。
製造メーカーから、伝えるメーカーへ
――今後の展望について教えてください。
ここ2〜3年は、製造メーカーとしてだけでなく、販売メーカーにも変わっていこうとしています。これまでは、製造者として作って提供し、その先はお任せする形でした。しかし、それでは自分たちの思いや価値観がなかなか伝わりません。
技術と手間をかけても、その価値が十分に伝わらないこともあります。それなら、自分たちでも提供する側になろうと考えました。展示会に参加したり、取材を受けたり、YouTubeで発信していただく機会を持ったりしています。
すぐに結果につながるとは思っていません。ただ、ここで何かをしていると知っていただかなければ、きっかけにもなりません。まずは知ってもらうことを目指しています。
――社内で大切にしているコミュニケーションはありますか。
当社は4人だけの会社なので、本当にアットホームな職場です。毎朝20分から30分ほどミーティングをしています。
内容は仕事に限りません。その日の予定や誰が何をするかは必ず共有しますが、近所にできたお店の話をしたり、世の中のニュースについて話したりすることもあります。仕事の話だけでは毎日続けるのもつまらなくなりますから、話題は決めすぎていません。
従業員が働きやすい環境を作ることが、自分の仕事だと思っています。
自信を持てるものを、日々作り続ける
――一緒に働く人に求めることはありますか。
最初から条件を狭めることはあまり考えていません。こちらで縛ってしまうと、相手に選んでもらう機会も狭くなってしまいます。
まずは広く受け入れて、自社に合うかどうかを見ていくことが大切だと思っています。長く一緒に働いていただけるかどうか、会社の環境に合うかどうかは、最初に決めつけるのではなく、入ってから見ていただくことを大事にしたいです。
――リフレッシュ方法を教えてください。
リフレッシュ方法は、寝ることです。6時間くらい寝れば大丈夫です。
趣味については、今は仕事をしている方が趣味に近いかもしれません。以前はいろいろな趣味もありましたが、今は「今日はこれで何かしようかな」と仕事のことを考えている時間の方が多いです。
作り出すものには自信を持って出していきたい。そして、それを使っていただけるように、日々努力していきたいと思っています。