「冷静な頭」と「温かい心」で命を守る――NPO法人しっぽの約束が挑む持続可能な保護活動
NPO法人しっぽの約束 代表理事 中川 有紀子氏
NPO法人しっぽの約束は、高齢者などが安心して犬や猫と暮らし続けられる社会を目指し、保護活動や譲渡支援、相談対応に取り組む団体です。16年間にわたる保護猫活動を礎に、2026年3月に法人化し、持続可能な保護活動の仕組みづくりを進めています。本記事では、代表理事の中川有紀子氏に活動への想いや今後の展望を伺いました。
個人の活動から社会の仕組みへ
――現在の活動内容について教えてください。
私たちは16年前から東京都港区で保護猫の譲渡活動を続けてきました。
もともとは個人で活動していましたが、2025年11月に港区役所から、高齢者が犬や猫を残して入院や施設入所をしたり、亡くなられたりした際の相談先になってほしいというお話をいただきました。その依頼を受け、個人で対応するには限界があると感じ、仲間とともにNPO法人化を決断しました。2026年3月1日に東京都認証の「NPO法人しっぽの約束」を設立しています。
埼玉県でシェルターを運営し、譲渡会も開催中です。16年間で約600匹の猫を新しい家族へ送り出してきました。これからは個人の活動にとどまらず、命を守る仕組みを社会へ広げていきたいと考えています。
――活動における理念や、大切にしている考え方を教えてください。
最も大切にしているのは、「クールヘッド・ウォームハート」という考え方です。動物がかわいそうという気持ちだけでは、支える側が疲弊し、保護している犬や猫も守れなくなります。だからこそ、温かい心を持ちながらも、常に冷静な判断を心がけています。
また、「三井住友信託銀行」の遺言信託やおひとりさま信託のペット特約の受け皿として業務提携も行っています。私一人が頑張るのではなく、誰が引き継いでも活動を続けられる組織をつくることが、今の使命だと思っています。
異なる経験が支える、一貫した使命
――これまでのキャリアについて教えてください。
現在は大学教員のほか、上場企業の社外取締役も務めています。NPOだけでは運営を維持できないため、本業を持ちながら保護活動に取り組んでいます。
大学卒業後は金融機関へ入社し、長年にわたって金融業界で経験を積んできました。その後、働きながら博士課程へ進学し、博士号を取得したことをきっかけに、ここ10年ほどは大学で教育や研究に携わっています。
16年前に始めた保護猫活動は、今もライフワークです。シェルターの運営やボランティアへの謝礼など、多くの資金が必要なため、自分自身が働き、活動を支えることも大切な役割です。
――経営や活動において大切にしている価値観を教えてください。
物事を判断するときに大切にしているのが、「4つのテスト」です。「真実かどうか」「みんなに公平か」「信頼関係を深めるか」「社会全体の利益になるか」という4つの視点です。私自身が考えたものではありませんが、どんな場面でもぶれない指針として大切にしています。
大学教員、社外取締役、NPO法人の代表理事では、それぞれ求められる役割や責任は異なります。それでも、相手や社会に対して誠実であることは、どの立場でも変わりません。感情だけで動くのではなく、冷静さと温かさの両方を持って向き合うことが、保護活動を長く続けるためにも欠かせないと思っています。
一人で抱えない、支え合う組織へ
――組織運営で大切にしていることを教えてください。
保護活動では、飼い主の突然の入院や逝去など予測できない出来事も多く、計画どおりに進まないこともあります。状況を見極め、柔軟かつ迅速に判断することを大切にしています。
現在は多くのボランティアと力を合わせていますが、一人でできることには限界があります。それぞれができることを持ち寄り、支え合うことが活動を続ける上で欠かせません。一人に負担が集中しないよう、無理なく関われる環境づくりにも力を入れています。
また、個人の善意だけに頼らず、行政や企業、地域との連携を深めながら、保護活動を社会の仕組みとして根付かせていきたいです。誰が引き継いでも継続できる組織づくりを意識しています。
――コミュニケーションで意識していることはありますか。
私自身、「伝える」ことよりも、「伝わる」ことを大切にしています。同じ言葉でも、相手の立場によって受け取り方は変わります。だからこそ、一方的に自分の考えを伝えるのではなく、その人の立場や背景を理解し、それぞれに合った言葉を選ぶよう努めています。
「水のように相手に合わせる」ことを心がけています。水のように、その場に応じて柔軟に言葉を選ぶことで、信頼関係も築きやすくなると感じています。保護活動は多くの方々の協力で成り立つからこそ、相手への敬意を忘れず、コミュニケーションを重ねています。
全国へ広がる命を守るネットワーク
――今後挑戦していきたいことを教えてください。
今後5年以内を目標に、北海道から九州まで全国各地へシェルターの展開を目指しています。運営方法や契約内容を共通化し、各地域が主体となって運営できる仕組みを整え、全国規模で命を守るネットワークづくりを目指しています。
全国の保護団体や個人ボランティアの多くは、資金や人手不足という課題を抱えています。それぞれが孤立するのではなく、共同購入や寄付の仕組みなど、協力できる部分は連携しながら、持続可能な保護活動を実現していきたいです。
――その先に目指す社会について教えてください。
AIが進化し、社会が大きく変化する時代だからこそ、人と動物が共に生きることの価値は、これまで以上に高まると思っています。効率だけを追い求め、「必要なもの」と「不要なもの」を選別する考え方が広がれば、その価値観はいずれ人間にも向けられてしまうかもしれません。
だからこそ、小さな命にも目を向け、多様な命が共に生きる社会を守ることが大切です。犬や猫を守ることは、動物のためだけではなく、人が命を尊重する社会を未来へつないでいくことにもつながります。行政や企業、獣医師をはじめ、さまざまな立場の方々と連携しながら、保護活動を社会全体で支える仕組みを築いていきたいです。
命を託せる社会を、次の世代へ
――最後に、読者へ伝えたいメッセージをお願いします。
私たちの活動を通じて、一人でも多くの方に犬や猫の命について関心を持っていただけたらうれしく思います。日本には多くの犬や猫と暮らしている方がいますが、病気や入院、施設への入所などによって、大切な家族であるペットを残さなければならない状況は、誰にでも起こり得ます。そんなときは一人で抱え込まず、ぜひ私たちにご相談ください。
現在は東京都を拠点とし、全国の保護団体やボランティアとのネットワークを通じて地域に応じた支援を行っています。また、「ネスレ日本」からご寄付いただいたフードを全国の小規模な保護団体へ届けるなど、支援の輪を広げています。
犬や猫の命を守ることは、命を大切にする価値観を次の世代へつなぐことだと信じています。これからも行政や企業、地域と連携しながら、誰もが安心して命を託せる仕組みを全国へ広げていきたいです。