日本文化の本質を未来へ――本物の体験を通じて世界へ届ける挑戦
株式会社 新日屋 代表取締役 山口 洋文氏
インバウンド需要の拡大に伴い、日本文化を体験できるサービスは数多く生まれています。その中で山口洋文氏が大切にしているのは、単なる体験ではなく、日本文化の「本質」を正しく伝えることです。着物や茶道、芸者文化など、日本人が誇りに思える文化を空間演出まで含めてプロデュースし、「文化のために観光を行う」という理念を貫く山口氏。本記事では、事業へのこだわりや経営観、今後描く未来についてお話を伺いました。
目次
日本文化の本質と空間へのこだわりが生み出す体験
――現在の事業内容について教えてください。
当社は、日本文化を活用したインバウンド事業を中心に展開しています。日本人向けの企画も行っていますが、現在の事業の中心は海外からのお客様に向けた日本文化体験の提供です。
――他社にはない強みやこだわりを教えてください。
最も大切にしているのは、日本文化の本質を理解した上で体験を提供することです。これまで事業を通じて歌舞伎や芸者文化、着物など、さまざまな日本文化に触れ、その共通する本質を学んできました。その理解を土台に、お客様へ文化を伝えることを意識しています。
また、空間にも強いこだわりがあります。現在は築地の料亭と連携し、和の空間の中で日本文化を体験していただくのです。同じ体験でも、どのような場所で味わうかによって受ける印象は大きく変わります。日本文化は空間や雰囲気を含めて五感で楽しむ文化であり、その調和があってこそ本来の魅力が伝わると考えています。
世界を巡った経験が、日本文化の価値に気づくきっかけとなった
――起業されたきっかけを教えてください。
もともと起業を考えていたわけではありません。大学卒業後は旅行会社に入社し、日本のお客様を世界各国へ案内する仕事に携わっていました。シルクロードを中心にさまざまな地域を訪れ、多くの文化や景色に触れる中で、海外には人を感動させる観光資源が数多くあることを実感しました。
その後、観劇事業を行う会社へ転職し、歌舞伎や料亭、花柳界など、日本文化に深く触れる機会を得ます。そこで「もし外国人が東京を訪れたら、何に感動するのだろう」と考えたことが、大きな転機になりました。
海外を見たからこそ、日本文化には世界にはない魅力があることに気づいたのです。歌舞伎や着物、相撲など、日本人にとって身近な文化こそ、海外の方にとっては非常に魅力的な観光資源になるのではないか。その想いから、日本文化を海外へ伝える事業を立ち上げました。
起業した2005年当時は、まだ「インバウンド」という言葉が一般的ではなく、訪日外国人も現在ほど多くありませんでした。そのため、当初は日本人向けに落語や歌舞伎の企画などを実施していました。しかし、日本人も海外の方も日本文化への知識という点では共通する部分が多く、文化の魅力を伝え、感動してもらうという考え方は今も変わっていません。
本質を共有し、必要な力を持つ人とともに歩む
――組織運営で大切にしていることを教えてください。
現在は代表である私と着物レンタルを担当するスタッフの2名を中心に運営し、企画内容に応じて着付け師や日本文化体験の講師などと連携する体制をとっています。
日々のコミュニケーションで重視しているのは、「目指すものを明確にすること」です。目標や方向性がぶれなければ、細かな指示がなくても同じ方向を向いて仕事ができると考えています。
――どのような人と一緒に働きたいですか。
自分たちに足りない部分を補ってくれる人、そして私たちが取り組んでいる日本文化の事業に興味を持ってくれる人と一緒に仕事がしたいと思っています。
英語力などのスキルは必須ではありません。必要に応じてガイドや英語対応ができる専門スタッフと連携するため、それぞれが得意な分野を活かしながら役割を担えばよいと考えています。
「文化のために観光を行う」という揺るがない信念
――今後の展望について教えてください。
今後もインバウンド事業を軸にしながら、日本文化の本質を日本人や子どもたちにも伝えていく活動にも取り組んでいきたいと考えています。
私は「観光のために文化がある」のではなく、「文化のために観光を行う」という考え方を大切にしています。日本文化が衰退しつつある今だからこそ、観光を通じて文化を守り、多くの人にその価値を知ってもらうことが重要だからです。
また、旅行会社時代に世界各国で感じた感動を、日本を訪れる海外の方にも味わってほしいという想いがあります。そのためには、文化だけを切り取るのではなく、空間や雰囲気まで含めて体験を演出することが欠かせません。
「なんちゃって」のような体験ではなく、日本人自身が誇りに思える本物を届けること。それが株式会社新日屋として変わることのない信念です。
日本文化は、コンテンツだけではなく空間や調和の美しさまで含めて一つの文化です。その本質を大切にしながら、世界中の人々へ日本文化の本当の魅力を届け続けていきたいと考えています。
偶然出会えた「やりたい仕事」が人生の原動力
――休日のリフレッシュ方法を教えてください。
実は、仕事そのものが一番のやりがいになっています。起業当初から明確な夢があったわけではありませんが、偶然の出会いや経験を重ねる中で、自分が本当にやりたいことを見つけることができました。
そのため、仕事を負担と感じることはあまりなく、現在取り組んでいる日本文化を伝える活動そのものに充実感を感じています。もちろん、犬の散歩などで気分転換をすることもありますが、好きな仕事に取り組めていること自体が、日々の活力につながっています。
これからも「文化のために観光をやる」という考えを大切にし、日本文化の本当の素晴らしさを、本質を外すことなく国内外へ伝えていきたいです。