日本酒と伝統文化を未来へつなぐ、AI時代の新しい事業モデル

合同会社SAKE CEO 髙部 一郎氏

日本酒をはじめとする日本の伝統文化を未来へつなぐ合同会社SAKE。中小の酒蔵と海外のバイヤーをつなぎ、日本酒とその背景にある歴史やつくり手の思いを世界へ届けています。日本の公認会計士として大手会計事務所で長く経営に関わり、海外でも仕事をしてきた髙部氏に、設立の背景や展望を伺いました。

日本酒を守り、世界へ届けるために生まれた「SAKE」

――現在の事業内容について教えてください。

当社はまだできたばかりの企業で、事業も立ち上げている最中です。私自身、長く海外で仕事をしてきましたが、改めて日本を見ると、地方の商店街が寂れ、若い人が東京へ集中するなど、日本らしさが失われているように感じました。

一方で、社会はAIによって大きく変わろうとしています。これからの社会で何を残していくべきかを考えたとき、日本の伝統文化を守ることが重要だと思うようになりました。その1つとして注目したのが、日本酒です。

1970年代ごろには約4,000の酒蔵があったと認識していますが、現在は約1,200まで減っています。日本の伝統的な酒づくりは2024年12月にユネスコの無形文化遺産に登録されました。それでも、後継者や経営の問題などから厳しい状況にある酒蔵があります。

そうした酒蔵と一緒に海外へ出て、日本酒を世界に伝えたいと考えたことが、当社設立の背景です。

――酒蔵とは、どのような関係を築いていきたいですか。

私たちは、酒蔵にとっての「海外事業部」のような役割を担いたいと考えています。酒蔵からお酒を仕入れ、その歴史やつくり手の思いなどの情報も提供していただきながら、私たちが海外のバイヤーへ届けていく形です。

大切にしているのは、単に商品を売って終わりにしないことです。日本酒は扱いが難しく、保管や流通の仕方によって味が損なわれる可能性があります。海外のバイヤーにも日本酒を理解していただき、できるだけ早く消費者へ届けてもらいたいと考えています。

酒蔵、私たち、海外のバイヤーが、単なる取引相手ではなく、ビジネスパートナーとしてつながる状態をつくることが目標です。

大手企業の世界を離れて見えた、日本のもう1つの現実

――これまでのキャリアについて教えてください。

私は日本の公認会計士で、いわゆるBig4と呼ばれる会計事務所で勤務していました。経営にも関わり、お客様も上場企業や上場を目指す企業が中心です。

何十年もの間、大手企業を中心とした世界で仕事をしてきました。日本の企業で一般的なサラリーマンとして働いた経験はありません。そして、海外で仕事をしてきました。

――新しい事業を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

定年を迎えて世のなかを見ると、それまで自分が見ていた世界とは異なる企業が多いことに気づきました。中小企業で働く人たちのなかには、給料が上がらない一方で物価が上がり、将来に不安を抱えている人もいます。

豊かなはずの日本で、そうした状況が続いていることに疑問を持ちました。自分だけで日本や世界を変えられるとは思っていません。ただ、「こうすれば変わるのではないか」と考え、何かきっかけをつくりたいと思いました。その思いが、新しい事業を始めることにつながりました。

――事業を進める上で大切にしている考えを教えてください。

私が大切にしていることは2つあります。1つは「投資は夢を買うこと」、もう1つは「ビジネスは社会に貢献すること」です。

当社にも自分の資金を投入していますが、単に損得だけで考えているわけではありません。自分が実現したい未来に対して投資しているという感覚です。

日本酒を守ることも、日本の伝統文化を未来へつなぐことも、この考え方の延長線上にあります。

人を増やすのではなく、AIとパートナーシップを活かす組織運営

――現在の組織体制について教えてください。

現在は代表社員3人で運営しており、従業員はいません。私から何かを提案することが多いのですが、3人の総意になるように代表社員総会を定期的に開いています。

そこで、提案した内容を進めるのか、進めないのかを話し合いながら運営しています。3人で合意を形成した上で事業を進めていく形です。

――今後、人材を採用する予定はありますか。

基本的には、AIやシステムに任せられる部分は任せていく方針です。そのため、多くの人を雇うことは考えていません。

私たちが特に増やしたいのは従業員ではなく、ビジネスパートナーです。酒蔵や海外のバイヤーと直接コミュニケーションを取り、日本酒への理解を共有できる関係を築いていきたいと考えています。

社会の「新しいOS」で機能する事業をつくる

――今後、どのようなことに挑戦していきたいですか。

私は、社会構造そのものが大きく変わる時期に来ていると考えています。それをコンピューターに例えて、「OSが変わる」と表現しています。

古いOSで動いていたアプリケーションを改善し続けても、新しいOSでは動かなくなるかもしれません。それなら、これからの社会で機能するビジネスモデルを考えたほうがいい。当社も、新しいOSのなかで動くアプリケーションの1つとしてつくっています。

酒蔵から輸出、海外での流通、その先の消費者までをできるだけつなぎ、日本酒がどのように扱われているかまで関わっていきたいと考えています。商品を売って代金を回収すれば終わりではなく、その後まで見ていく企業にしたいです。

――日本酒の先には、どのような展開を考えていますか。

日本酒だけで終わるとは考えていません。私は京都の陶芸に関わる方々とも付き合いがありますが、そこでも1軒1軒の工房が伝統を守りながら仕事をしています。

お酒を飲むためには器が必要です。徳利や皿にもつながりますし、その先には花瓶などもあります。まずは日本酒の事業を形にした上で、より広く日本の伝統文化や伝統芸術を守る活動へつなげていきたいと思っています。

そうした産業が再び豊かになれば、地方の再生にもつながるのではないかと考えています。

学びと新しい発想を、日々の仕事につなげる

――普段はどのようにリフレッシュしていますか。

特に「休みの日」というものは設けていません。私は会計士で、もともと工学系の人間ではありません。そのため、これからの時代に必要になる知識を少しずつ学んでいます。

今は量子力学を勉強したり、世界のAIの動きを追ったりしています。また、年齢を重ねてきたこともあり、毎日30分から1時間ほど歩いたり、運動したりしています。

――AIは日常でも活用しているのでしょうか。

昔から、良い考えが浮かんだらすぐにメモを取る習慣がありました。以前はメモ帳でしたが、今はAIを使うこともあります。

思いついた単語や短い文章を残しておき、後からAIに問いかけると、自分が何を考えていたのかを整理するヒントになります。そこから考えを膨らませ、新しいアイデアにつなげていくこともあります。

私にとっては、それもリフレッシュであり、同時に仕事や経営につながる時間です。AIや新しい技術を学びながら、新しい社会のなかで日本の伝統をどう未来へつないでいくかを考え続けていきたいと思っています。

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