“正しさ”から解き放たれる場所をつくる──アートで人の心に余白を生む挑戦
合同会社amiami 代表 髙野 杏実 氏
障害者アートを軸に、企業向けレンタル事業を展開する合同会社amiami。単なる福祉支援ではなく、「アートを通じて人の心を豊かにする」ことを目的に事業を進めています。本記事では、起業の背景や価値観、組織づくり、そして今後の展望について伺いました。
目次
正しさでは測れない価値を届ける──事業とビジョンの変化
――現在の事業内容について教えてください。
弊社は障害者アートを専門に取り扱い、アートのレンタルを中心に事業を展開しています。今は法人の方に導入いただくことが多く、心理的安全性やエンゲージメントといった文脈で選ばれる場面も増えてきました。
アーティストは40名ほどで、約400作品を扱っています。一つひとつにその人の感性や生き方がにじんでいて、単なる装飾ではなく、空間や人の気持ちに触れる存在として届けたいと思っています。
実際に「雰囲気がやわらいだ」「会話が増えた気がする」といった声をいただくこともあって、数値では測れない変化が少しずつ広がっているのを感じています。
――ビジョンに込めた想いについて教えてください。
最初は「障害者アートだから飾ってください」という伝え方をしていました。ただ、それを続ける中で、このままだと“支援される側”のままになってしまうと感じたんです。
アーティストは、かわいそうな存在でいたいわけではない。それぞれの表現が、自然に「いいな」と思ってもらえる形で届くことのほうが大切だと思うようになりました。
だからこそ、作品として選ばれる状態をつくりたいと考え、「ブリングハッピーウィズアートワーク」というビジョンを掲げました。アートを通して、誰かの心がふっとゆるむ瞬間を生み出していきたいです。
目の前の幸せを追い続けた先にあった経営という選択
――これまでのキャリアについて教えてください。
もともとは学校教員を3年、その後は個人塾を7年ほど経営していました。その中でずっと「正しさ」を求める環境に身を置いていた感覚があります。
受験というゴールに向かう中で、個性が削られていく場面を多く見てきました。同じような型に当てはめていくことに違和感を持ちながらも、それが当たり前の世界にいたと思います。本当にこれがその子にとっての良さなのかと、自問することも少なくありませんでしたが、明確な答えを見つけられないまま走り続けていた時期でもありました。
――起業のきっかけについて教えてください。
コロナ禍で自閉症の妹が家で絵を描いている姿を見たことが大きな転機でした。「ロボットになっていない人間がいる」と感じたあの瞬間は、今でも強く残っています。
そこから福祉施設に足を運ぶようになり、正しさに縛られない世界に触れました。その空間に癒された経験が、「この価値を広げたい」という想いにつながっています。
経営者になろうと決めていたわけではなく、目の前の幸せを追い続けた結果として今に至っています。気づけば自分自身の価値観も少しずつ変わっていて、「正しさ」ではなく「その人らしさ」を大切にしたいと思うようになっていました。
自律を尊重する関係性──組織づくりとコミュニケーション
――アーティストとの関わりで大切にしていることは何ですか。
一人ひとりコミュニケーションの取り方が異なるため、頻度や距離感は本人に任せています。こちらで決めてしまうと、その人らしさを損なう可能性があると感じているからです。
また「構いすぎないこと」も意識しています。最初は支援しなければという気持ちが強く出てしまいましたが、それでは自律を妨げてしまう。あくまで対等な関係でいたいと思っています。
相手のペースを尊重することで、その人が自然体でいられる状態をつくることのほうが、長い目で見ると関係性としても健全だと感じるようになりました。
――運営メンバーとの関係性について教えてください。
運営メンバーに関しては、コンセプトへの共感を重視しています。お金だけを目的にしているかどうかはしっかり見ています。もちろん報酬は大切ですが、それ以上に「社会を少しでも良くしたい」という感覚を持てるかどうかが重要です。
自分だけではなく、社会全体の中でどうありたいかを考えられる人と、一緒に進んでいきたいと思っています。同じ方向を見ているからこそ、細かなやり方に多少の違いがあっても信頼して任せられる関係性が築けていると感じています。
数値では測れない価値を広げる──未来への取り組み
――今後の展望について教えてください。
企業向けの取り組みでは、働く人の心が少し緩むような体験を届けていきたいです。人間関係に悩んだ経験があるからこそ、そういった場面に寄り添える存在でありたいと思っています。
数字で測れる成果だけではなく、表情や言葉の変化といった目に見えない価値を大切にしていきたいです。その変化はすぐに表れるものではないかもしれませんが、日々の積み重ねの中で確実に空気を変えていくものだと感じています。だからこそ、短期的な成果だけにとらわれず、長い目で価値を届け続けていきたいと考えています。
――現在取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。
宮崎市と連携し、「子どもの未来をアートでつくるプロジェクト」を進めています。企業に作品を飾っていただき、その一部を地域に還元する仕組みです。子どもたちがアートに触れることで、「自分らしく表現していい」と感じられる場を増やしたいと考えています。
アートを通じて、社会全体の空気が少し柔らかくなるような広がりをつくっていきたいです。また、企業にとっても地域と関わるきっかけになることで、単なる設置にとどまらない意味のある取り組みへと発展していくことを期待しています。
感性を軸に選び続ける──譲れない価値観と自分の整え方
――リフレッシュ方法について教えてください。
週末はバスケットボールの審判をしています。BリーグやWリーグの現場に立つことで、普段とはまったく違う世界に触れられるんです。アートや経営とは異なる緊張感の中に身を置くと、自然と気持ちが切り替わっていきます。結果的に、その時間が自分のバランスを整えてくれていると実感しています。一つの世界に閉じこもらず、異なる価値観やスピード感の中に身を置くことが、自分自身をリセットする大切な時間になっていますね。
――経営で譲れない価値観は何ですか。
一番は「感性を大事にできるかどうか」です。数字だけを追う人とは合わないと感じていますし、それはお客様であっても同じです。どんな人と関わるかは、経営においてとても重要な判断軸です。感覚を大切にしながら意思決定できるかどうかを常に見ています。その積み重ねが結果として事業の方向性を形づくっていくものだと思っているので、短期的な合理性だけで判断しないことを意識しています。自分の感覚に違和感があるかどうかを、常に確かめながら進んでいます。
これからも、自分の感性に正直でありながら、一つひとつの選択を丁寧に積み重ねていきたいです。