誰もが音楽を楽しめる世界へ――“かんたんで本格的”を両立する電子楽器の挑戦
InstaChord株式会社 代表取締役 永田 雄一氏
誰もが演奏を楽しめる世界をつくる――そんな想いから生まれた電子楽器を軸に事業を展開するInstaChord株式会社。代表の永田雄一氏は、自身の音楽経験から感じた課題を出発点に、初心者でも直感的に演奏できる新しい楽器の開発に取り組んできました。本記事では、事業の特徴や理念、経営の価値観、今後の展望について伺いました。
目次
音楽を「体験」に変える電子楽器の開発
――現在取り組まれている事業の特徴について教えてください。
誰でも楽器を演奏できる、楽器演奏を楽しめる世界をつくるという理念のもと、電子楽器の開発・製造・販売を行っています。特徴は「かんたんで本格的」であることです。初心者向けの楽器は世の中にありますが、簡単さと本格的な音楽体験を両立しているものは多くありません。演奏する楽しさだけでなく、音楽理論を感覚的に理解できる点も大きな特徴です。
――他社にはない強みはどのような点にありますか。
社員を持たず一人で事業を運営しているため、開発から販売、アフターサービスまで一貫して自分で見ています。購入者だけでなく、購入に至らなかった人の反応や表情も含めて判断材料にしています。
分業がないからこそ、ユーザーの反応をそのまま製品に反映できる。そのスピードと一貫性が強みです。
加えて、しがらみに縛られない柔軟さもあります。従来の流通にとらわれず、立ち上げ当初は直販でスタートするなど、状況に応じて最適な形を選んできました。すべてを自分で意思決定できるからこそ、スピード感を持って動けていると感じています。
原体験から生まれた“誰でも演奏できる楽器”
――起業のきっかけについて教えてください。
もともとミュージシャンとして活動していましたが、歌や作曲はできても楽器がほとんど弾けませんでした。ライブや制作で使える楽器を探す中で、「自分でも演奏できて、かつ実用的なものが欲しい」と考えたのが始まりです。そのアイデアを形にし、製品として世に出しました。
――理念やビジョンに込めた想いを教えてください。
音楽は聴くのが好きな人は多い一方で、実際に演奏する人はそこまで多くありません。ただ、自分で演奏を体験すると音楽の感じ方は大きく変わるものだと思っています。
体験する人が増えれば、音楽の価値が高まり、プレイヤーとリスナーの関係性も深まり 、市場全体もより豊かになると考えています。
一方で、現在の音楽業界は音楽そのものというよりも、グッズやビジュアル、キャラクター性といった要素によって支えられている部分もあると感じています。それ自体を否定するわけではありませんが、音楽の価値をしっかり循環させるためには、「音楽を理解し、楽しめる人」を増やしていく必要があると思っています。
そのためには、まず演奏する人を増やすことが重要です。音楽には「厳しい練習が必要」というイメージがあり、そこがハードルになっていると感じています。
もちろん基礎は大切ですが、最初からそれを求めすぎると、音楽に触れる機会自体が減ってしまいます。感覚的に触れて「楽しい」と思える入り口があってもいいのではないでしょうか。
音楽は特別なスキルではなく、本来は日常的に楽しめるものです。だからこそ、誰もが自然に触れられる環境をつくり、楽しむ人を増やしていきたいと考えています。
経営は手段――理念を実現するための選択
――経営者になられた経緯を教えてください。
もともと経営者を目指していたわけではありません。このプロジェクトを続けていくには、お金が回る仕組みが必要で、事業として成立させなければ多くの人に届けられないと考えました。
当初はライセンス提供なども検討しましたが、新しいものをゼロから形にするのは既存の企業では難しい部分もあり、最終的には自分でやるしかないと判断しました。
結果として、理念を実現するための手段として経営がついてきた、という感覚に近いですね。
――経営判断の軸となる価値観は何でしょうか。
一人で事業をやっているからこそ、最終的な判断はすべて自分で行っています。その中での信念は、「自分を信じないこと」です。
アンケートを取ったり、ユーザーの声を直接聞いたり、とにかく第三者の意見にしっかり耳を傾けるようにしています。感覚やセンスだけで判断してしまうと、それがどれくらいの人に当てはまるものなのか分からなくなってしまうんですよね。
だからこそ、できるだけ多くの声を集めて、その一つひとつが全体の中でどの程度の意味を持つのかをフラットに見極めるようにしています。そうした積み重ねの中で、冷静に判断することを常に意識しています。
共感から始まるパートナーシップ
――関わる方々との関係で大切にしていることは何ですか。
理念や目指している方向をしっかり共有することです。
この理解が揃っていないと、うまく進まないと感じています。背景にある考え方まで理解してもらうことが重要だと思っています。
そのため、新しく関わる方とはすぐに業務に入るのではなく、まず会社の考え方を理解してもらうことに重きを置いています。実際に、新しい方とは1〜2か月ほどかけて、この会社の理解を深めてもらうことを大切にしています。
――どのような人と一緒に働きたいと考えていますか。
最終的にはフィーリングを大切にしています。実際に話してみて、会話の中でお互いの考えが自然に伝わるか、納得し合えるかを見ています。
音楽のセッションと同じで、言葉だけでなく感覚的に噛み合うかどうかが大事なんですよね。経験の有無に関わらず、きちんと共感し合える人と一緒に仕事をしたいと考えています。
より多くの人に届けるための次の一手
――今後の展望について教えてください。
これまで初心者でも演奏できる楽器に取り組んできましたが、より多くの人に届けるために、価格を抑えたエントリーモデルの開発を進めています。
これまで約5年にわたって製品を展開し、体験会などで8000人以上の反応を見てきまして、その中で、本当に必要な機能を見極めてきました。最小限の機能でも、音楽体験ができるものがついに完成したので、2026年5月末から先行予約の受付を開始します。
今後は海外展開や教育分野への展開も進めていきますが、会社の規模を大きくすること自体が目的ではありません。このプロダクト自体を広げていくことに価値があると思っています。最終的には、他の楽器メーカーにもこの技術を活用してもらえるようにしていきたいですね。
「自分を信じない」という価値観
――これだけは譲れない価値観は何でしょうか。
「自分を信じないこと」です。自分がいいと思ったものに固執せず、常に疑い続けることを大切にしています。
信じることももちろん大事ですが、その前に疑うことがないと、本当に信じるべきものは見えてこないと思っています。だからこそ、客観的な視点を持ち続けて、柔軟に変化していくことを意識しています。
正解は自分の中ではなく外にある。その感覚を大切にしています。
――リフレッシュ方法を教えてください。
お酒を楽しむ時間がリフレッシュになっています。ワインや日本酒が好きで、食事とのペアリングを楽しんでいます。
あとは、出身地ということもあって、広島東洋カープを応援しながらお酒を飲む時間も、気持ちを切り替えるひとときになっています。