農業を次世代の職業選択肢に――瀬戸内マルシェがつなぐ農業生産者と世界市場への道

合同会社瀬戸内マルシェ 代表社員 奥田忠司氏

合同会社瀬戸内マルシェは、国内外での農業現場で培った知見をもとに、日本農産物の海外展開や企業の農業参入支援に取り組んでいます。代表社員の奥田忠司氏は、35歳から農業に携わり、施設園芸や花卉・果樹栽培、中国での農業生産事業などを経験してきました。農業を次世代の職業の選択肢として残したいという思いから、2013年に同社を設立。現在は、農家や地域の商品を海外につなぐ支援、企業の農業参入コンサルティングなどを行っています。

農業を次世代へ残すために 

――現在の事業内容について教えてください。

私自身の仕事の原点は農家です。施設園芸や花卉・果樹栽培に取り組み、切り花・鉢花、桃やぶどうなどを作ってきました。その間、一時期は中国各地で農業生産事業や産地開発、農業人材の育成なども行っていました。

アパレルメーカーの経営から転身して35歳で農業を始め、今年で71歳になります。さすがに、年齢的にも体力的にも限界を感じる場面はありますが、日本の農業を取り巻く環境は年々厳しくなっており、おちおちと隠居する気にもなれない状況です。日本では農業だけで生活していくことが難しい現実があり、このままでは農業そのものが継続できなくなるのではないかという危機感があります。

だからこそ、次世代の若い人たちの職業の選択肢として、農業をどうしても残したい。そのためには国内だけでなく、海外の富裕層向けに日本の農産物を売る仕組みを作る必要があると考え、2013年に現在の農産物輸出の会社を立ち上げました。

――現在はどのような形で事業を続けているのでしょうか。 

当初は、自分たちが作るものを中心に、仲間の農産物も含めて輸出に取り組んでいました。ただ、農家自身が輸出事業まで担うのは非常に難しく、予想通り苦戦しました。

さらにはその後、2018年の西日本豪雨で地元地域が大きな被害を受け、農場も事務所も倉庫も商品も使えなくなり、会社としても致命的な打撃を受けました。その後には、自分たちの商品を売るという形から転換し、日本各地の農家の良い商材を発掘し、それらを海外市場につなげるコンサルティングを中心に仕事を続けています。九州や四国などに支援先がありますが、さらに最近では関東や東北からの支援依頼もくるようになりました。

現場を知ることが最大の強み 

――御社の強みはどのような点にありますか。 

一番の強みは、何よりも農業現場を熟知していることです。私自身、農業を始めてから完全に農業の魅力にはまり、夜も惜しんで仕事ができるほど面白いと感じてきました。やればやるほど良いものができていく。その面白さの中で、自分なりの技術やノウハウを積み重ねてきました。

やがて、その習得した技術を自分の中だけにとどめておくのはもったいない、どうにかしてこれを周囲に伝えていきたいとの想いに駆られるようになりました。しかし、農業の世界は非常に閉鎖的な面があり、個人が持っている能力やノウハウをマニュアル化しにくい産業です。そんな中でも、自分のものづくりのノウハウをどう広げ、継承して使ってもらうかを常に考え続け、模索し続けてきました。

――現在のコンサルティングでは、どのような支援を行っていますか。 

現状での業務の中心は、企業の農業参入支援コンサルティングです。個人農家の農業が成り立ちにくくなる中で、国としても企業に農業参入してほしいという流れがあります。一方で、農家には企業と付き合うノウハウが少なく、企業側も農業現場のノウハウを自社で獲得するのは簡単ではありません。

だからこそ、農業現場の能力を持つ人と、農業に参入したい企業との接点になりたいと考えています。農家と企業がうまく連携しながら、日本の農業を継続できる形を作ることが、今の私の大きなテーマです。

目的地をぶらさないチームづくり 

――現在の組織体制について教えてください。 

以前の会社運営は5人ほどでやっていましたが、西日本豪雨の影響で現場が崩壊し、今は実質的には1人で動いています。不足する部分については、外部のスタッフや協力会社と一緒に仕事を進めています。コンサルティングに付随する煩雑な業務などを協力先にお願いしながら、1人でも事業継続できる形を模索しながら進んでいます。 

――協力会社や外部スタッフとのコミュニケーションで大切にしていることはありますか。

コンサルティングビジネスは、とかくハードワークからさらにオーバーワークになりやすいと言われています。日々の業務に忙殺されそうな環境の中でも、とにかくその目的や目標をぶらさないこと、見失わないことを大切にしています。

「また奥田さんが同じことを言っている」と思われるくらい、私たちは何をやろうとしているのか、何を目指しているのかを繰り返し確認します。同じ空間で毎日仕事をしているわけではないので、なおさら目的地をはっきりさせるためのコミュニケーションが重要です。夢や目的が具体的に手に取れるものではないからこそ、忘れないように共有し続けることが大事だと思っています。

環境に負荷をかけない農業へ 

――農業において大切にしている考え方を教えてください。 

私は常に一貫して農薬を使わない農業に取り組んできました。農場から出荷するすべての産物は、孫に食べさせるものと同様に、農薬を全く使わずに作っています。無農薬のものづくり、無農薬の産地づくりが、私にとって目指す農業の原点です。

いわゆる有機農業、完全循環型の有機農業です。さらには、環境に負荷をかけないだけでなく、環境を修復できるような農業に取り組みたいと考えています。ヨーロッパでは「リジェネラティブ農業 」という環境修復型の農業の考え方が広がりつつありますが、日本ではまだまだこれからです。人の命を紡ぐ産業が、環境に負荷をかける産業でいいはずがありません。

――生産者と消費者の関係については、どのように考えていますか。 

すべての農家は本来、誰もが安心安全で体に良い農産物を作りたいと思っています。一方で消費者も勿論そのような農産物を求めています。それなのに現実は双方のそのような思いがすれ違ったまま商業主義に支配されていることが大きな問題です。

生産者も消費者も流通事業者もそれぞれの自己利益だけをバラバラに追及していることが最大の問題です。だからこそ、同じ思いを持つ人たちが一つのチームを作り、食に関わる人たちが全てウィンウィンになる仕組みの追求が必要だと思っています。時間はかかるでしょうが、しかし確実にそのような方向を目指さなければなりません。

農業に関わる人を増やしたい 

――現在向き合っている課題は何でしょうか。

農業という仕事は、とにかく毎日作業に追われ他のことに費やす時間がとれません。きちんと農業に向き合っていれば、新たな挑戦のための学びの時間も研究のための時間も、或いは出会いのためのイベント、セミナー、会議などへ出かける時間も容易にとることが許されません。思いはあっても、変化のためのきっかけをつかみにくいのが農家の現実です。

時間の持てない農家でも、変化にチャレンジできる仕組みが必要です。同じ思いを持つ人たちが集まって情報を共有し意見の交換ができるプラットフォームができれば、農業はもっとチャレンジングで面白くなります。そうした仕組みを作る会社や人が出てくれば、それはそれで大きなビジネスとしての可能性もあるのではないでしょうか。

――経営者の方々に伝えたいことはありますか。

気候変動や環境問題は、地球上のどこで暮らしていても、或いはどんな仕事をしていても、誰もが避けられないものになっています。農業をしていると、他のどんな職業の人よりもその深刻さをより実感します。実際に豪雨で自分たちの地域が水没するような被害も経験しましたし、瀬戸内海でも魚や貝、海苔、牡蠣などに大きな変化が起きています。

農業が成り立たなくなってからでは遅い。だからこそ、もっと農業に目を向けてほしいと思います。他業種の方々にも、少しずつでいいので農業に関わっていただきたいです。それが、日本の農業を次の世代へつなぐ力になると信じています。

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