顧客ロイヤルティで「働く喜び」を広げる――顧客ロイヤルティ協会が目指す幸せな社会
特定非営利活動法人顧客ロイヤルティ協会 理事長 伊藤秀典氏
特定非営利活動法人顧客ロイヤルティ協会は、CS(カスタマーサティスファクション)を超えた顧客ロイヤルティの考え方を社会に広める活動を続けています。働く人が楽しく仕事に向き合い、その結果としてお客様に喜びを提供できる組織づくりを重視してきました。本記事では、理事長の伊藤秀典氏に、協会の理念や活動内容、今後の展望について伺いました。
働く人の喜びから始まる顧客ロイヤルティ
――現在取り組まれている事業の特徴について教えてください。
当協会は、CSを社会に広める活動を土台に、顧客ロイヤルティの考え方を企業や組織に伝えています。CSが日本に紹介されたのは1989年で、佐藤知恭先生がアメリカで学ばれた考え方を日本で発表されたことがきっかけです。その後、コールセンターやお客様相談室が広がる流れにもつながりました。
私たちは2000年に顧客ロイヤルティ研究会という勉強会を立ち上げ、2005年にNPO法人として顧客ロイヤルティ協会を設立しました。CSの普及によってサービスは向上しましたが、一方で従業員に負担がかかり、「やらされるサービス」になっている面もあります。そこを変えたいという思いが、協会設立の背景にあります。
――協会の理念には、どのような思いが込められていますか。
従来は、企業が利益を上げるために顧客満足を高め、そのために従業員満足を高めるという順番で考えられてきました。しかし、私たちはその順番が逆ではないかと考えています。
まず、働く人が仕事を楽しいと感じられる組織をつくること。仕事の意味や目的を理解し、楽しく働ければ、お客様に良いサービスを提供できます。その結果としてお客様との関係性が深まり、企業の利益につながっていく。この流れこそが、顧客ロイヤルティ協会の基本的な考え方です。
顧客ロイヤルティを持った人材を育成し、働く人が楽しく仕事をしながら、お客様に喜びを提供できる企業や組織を増やしていきたいと考えています。
CSへの関心から始まった協会運営
――経営の道に進まれたきっかけや背景をお聞かせください。
私は以前、三菱石油で32年間サラリーマンとして働いていました。石油会社で働く中で、日本のエネルギーを支えているという誇りを持って仕事をしていました。その頃から顧客ロイヤルティ理論には強い関心がありました。
2000年に会社の合併があり、人事部で早期退職制度をつくる立場にありました。多くの先輩方に退職していただく仕組みをつくった以上、自分自身も手を挙げて退職しました。そして、以前から関心を持っていたCSを進めていこうと考え、日本にCSを紹介された佐藤先生に連絡を取ったのです。
当初はCSの勉強会として始まりましたが、コンサルタントではなく、企業に所属し、自分の会社にCSを広めたいと考える人たちの勉強会にしたいと考えました。そこから顧客ロイヤルティ研究会が始まり、現在の協会活動につながっています。
――経営判断の軸になっている価値観は何でしょうか。
基本にあるのは、幸せな社会をつくることです。お客様を幸せにするためには、まず働く人が幸せでなければなりません。仕事を通じて喜びを感じられる人が増えれば、自然とお客様にも喜びが届くと考えています。
研究会が支えるNPOとしての活動
――組織運営やコミュニケーションで大事にしていることを教えてください。
NPO法人としての事務局は5名ほどです。その背景には、顧客ロイヤルティ研究会があります。研究会には、顧客ロイヤルティに関心を持つさまざまな企業の方々が参加しており、現在も20人ほどのメンバーが協会活動を支えてくれています。
毎月1回、第3木曜日に勉強会を開いています。基本はZoomで実施し、3カ月に1回ほどはリアルで集まり、懇親の場も設けています。毎回テーマを変えながら学びを深めており、営業活動をほとんどしていない中でも、ホームページを見た企業から講演や研修の依頼をいただいています。
――一緒に活動したいと感じるのは、どのような方でしょうか。
業種や企業規模は問いません。自分の会社や組織に顧客ロイヤルティの考え方を取り入れたいと考えている方であれば、どなたでも歓迎しています。
これまでの活動は、大手財閥系企業、大手サービスプラットホーム企業など大企業、また宿泊業界、美容業界の皆さまとの関係が多く、成果も上がってきたと思っています。これからは、中堅企業の皆さんにも参加して頂き、一緒に研究していきたいです。中堅企業の方が成果が見えやすい面もあるのではないかと感じています。
リトルタッチを広げ、NPSを具体的な行動へ
――今後取り組んでいきたい挑戦について教えてください。
現在、特に力を入れているのが「リトルタッチ」です。これは、お客様を驚かせる特別なサービスではなく、さりげないちょっとした心配りのことです。2年前に調査を行ったところ、リトルタッチを体験したお客様の多くが感謝を伝え、またその店を使いたいと答えるなど、とても良い結果が出ました。
NPS(ネットプロモータースコア)は多くの企業で使われていますが、数値だけでは具体的に何をすればよいのかが分かりにくい面があります。私たちは、顧客ロイヤルティ研修やリトルタッチの考え方が、NPSを具体的な行動に落とし込む手がかりになると考えています。
――今後の課題と取り組みについてお聞かせください。
これまで具体的な営業をしてこなかったため、どう広めていくかが課題です。毎日のように営業支援の案内は届きますが、今のところピンときていません。営業がないことは、弱みと言えば弱みかもしれません。
今後は、NPSを長年測定している企業と一緒に、顧客ロイヤルティ研修やリトルタッチの取り組みによってNPSがどう変化するのかを具体的に進めていきたいと考えています。また、今年もリトルタッチに関する調査を行う計画です。数値だけでなく、どの店でどのような体験をしたのかという具体的な声も集め、改めて本格的に展開していきたいです。
健康と仕事が支える、幸せな社会への思い
――影響を受けた人物について教えてください。
まずは、日本にCSを紹介された佐藤知恭先生です。そのほかにも、ヤン・カールソンや、ベッツィ・サンダースなどCSを実践してきた経営者の方々など、尊敬する人は数多くいます。
また、CSはアメリカから入ってきた考え方ですが、顧客ロイヤルティ協会が大切にしているのは、日本の文化である「お客さま第一主義」「商人道」「道の文化」「おもてなし」のような考え方です。日本の文化を大切にすることも、協会の特徴かもしれません。
――お休みの日など、リフレッシュの仕方を教えてください。
個人的には、幸せな社会を目指すためには、まず自分自身が幸せであることが大切だと思っています。そして、幸せの第一条件は健康です。そのためにヨガをしていますし、何より仕事そのものが健康のもとです。楽しく仕事をすることが、私の健康のベースになっています。